C.E. 72.3.10。
”血のバレンタイン”から始まった地球とプラント間の争いは、多くの犠牲を伴いながら
ようやく終戦協定が結ばれた。
しかし残念ながら、悲劇の地”ユニウスセブン”にて世界の平和と相互理解を約し調印された
この”ユニウス条約”はわずか2年足らずで破られることとなった。
プラントのアーモリーワンで、ザフト軍最新MS3体が強奪された事件を皮切りに 世界は
争いの渦中へと投げ出されたのだ。
その後のユニウスセブンの地球落下がコーディネーターの作為的なものだと判明すると、地球側
はプラントへ最後通牒を突きつけ、武力行使に踏み切った。
それに対し、デュランダル議長が率いるプラントは”積極的自衛権の行使”として地球側との戦闘を開始。
先の大戦では、最後まで中立を保った軍事大国オーブも今回は地球側に組することとなったのである。
「シン!!」
オーブ近海での激戦後、何事も無くカーペンタリアへの航行を進めていたミネルバ。
そこでは、つい先程の戦闘で信じられないほどの力を発揮して、ミネルバの副長・アーサーに
”ヤキンドゥーエ”の”フリーダム”にも勝ると賞賛を受けたシン・アスカものんびりと寛いでいた。
レクルームのソファを占領し、目を閉じ横になっているシン。
こうしてのんびりしている所などだけみれば、どこにでもいるただの16歳の少年だ。
「んぁ?なんだよルナ」
うつらうつらとしていたシンは、心地よいまどろみを邪魔され少し拗ねたように口を尖らせ
自分を呼んだルナマリアに向かい合う。
「もう!何じゃないでしょう。さっきから艦内放送で呼び出しかけてるのに
いつまでたっても来ないあんたを呼びにきたの!いつまで待たせる気よ!」
怒り心頭といったルナマリアの言葉に耳を澄ますと、メイリンの声で艦内放送が繰り返されている。
しかもシンの名前だけ。
「うわっ。俺一人で遅刻かよ・・・」
「当たり前でしょ!レイがあんたみたいに間抜けなことするわけ無いじゃない」
鼻で笑っちゃうわね、とルナマリアに馬鹿にされながらもシンは。
「今のはレイじゃなくてルナに・・・・」
なんてボソッと付け加えた。しかし、その一言がまずかった。
「何ですってぇぇぇ!」
般若のような顔で迫ってきたルナマリアから逃げるべく、シンは脱兎のごとく駆け出し
一路ブリッジへと急いだ。
「疲れているところ悪いわね3人とも」
艦長席に悠然と腰掛けたタリアは、艦内放送で呼び出した3人のパイロットを前にして
「実は・・・」と、呼び出した理由を話し始めた。
「救難信号?」
タリアの話を聞き終わり、一番初めに声を出したのはシンであった。
「ええ、そうなのよ」
「こんな何にも無いような場所でですか?」
その後に質問を投げかけたのはルナマリアであった。
彼女の質問も無理はない。オーブ本国からカーペンタリア基地への航路には島が数多存在していても
そのほとんどが無人島とされていたからだ。
仮にもし、その島に人が存在するとしたら不時着した軍人の可能性が高い。
軍人であれば、自軍なら問題は無いのだが敵軍・・・地球軍であった時には色々と面倒がおこる。
できることならば今は、極力地球軍との接触は避けたい。
しかしながら滅多にこの航路をとる船が無い今の情勢下では、自分たちがこの信号を無視すれば
救助を求めている者は、永遠に救助を得ることはできないだろう。
「それで、俺たちはどうすればよいのですか?」
レイの質問はそのことを踏まえて発せられたものだった。
救難信号に答えるか否かは全てタリアの采配による。
カーペンタリアへの航路を急ぐ今、面倒なことを抱え込むのはごめんだと言うのが艦長としての
タリアの本音だろう。
「そうねえ・・・」
ハッキリとした返事をレイに返せないまま、タリアも言いよどむ。
しかし、突然シンがタリアや他の2人に背を向けて、ブリッジの入り口に走っていった。
「「シン!」」
レイとルナマリアの叱責が飛ぶが、シンは足を止めない。
「助けるに決まってますよね、艦長」
そう一言だけ告げるともう後ろを振り返ることなく、おそらく格納庫へと走り去っていった。
「で、よろしいのですか?」
レイは、シンの後姿が見えなくなるとタリアに向き直り再び是非を仰いだ。
タリアは仕方が無いというように、諦めにも似た溜め息をつき「仕方が無いわね」
と、一言呟いた。
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