「本当によろしいのですか?」
沈みゆく太陽が白い砂浜と碧い海を染める。
尋ねた少女の声は悲哀に満ちて、幼子を抱く人を痛ましげな視線で見つめた。
「・・・いいんだよ。もう、決めたことだから」
しかし、答えとは裏腹にその声は涙にぬれて、幼子を抱く腕には力が入る。
「それに・・・。これしか・・・ないでしょ・・・?」
「・・・・・・」
是非を今一度確認した少女は、答えることができずに視線を逸らして唇をかんだ。
少女にも分っていた。これしか道はないのだと。
あの日、あの時。
少女たちは、憎しみの連鎖を断ち切るために闘い、憎しみ 合う歪んだ世界に新たな可能性を示せた。
けれど、その悲しい連鎖は決して終焉を迎えてはくれなかった。
終わりの無いメビウスの輪のように争いが悲しみを生み出し、その悲しみが新たな憎しみを生む。
それでも世界を信じたのだ。
信じたからこそ、持てる力を全て使い戦った。
争うことの虚しさを、大切なモノを失う辛さを、人の命を奪うことの罪の重さを知る人たち。
それらを身にしみて知った人々なら、メビウスの輪から抜け出すことができる、そう信じて世界を託した。
しかしながら、世界は再び争い始めた。
争いが始まって、自分たち二人だけが素知らぬ顔で安穏と日々を送ることは許されない。
あのとき、全てを投げ出してきたことのツケが回ってきたのかもしれない。
それでも少女は、目の前の彼女と幼子だけは争いから遠く離れた所で幸せに暮らして欲しかった。
先の大戦で戦うことを余儀なくされた彼女にだからこそ、ささやかな幸せと共にそっとしておいてやりたかった。
だが、彼女自身がそれを拒むのだ。
誰より強く優しい彼女だからこそ、その幸せを選び取らないのだ。
自分たちは戦場へ舞い戻る。
今度も生きて帰れる保障はない。
だからこその決断。
少女の胸は、彼女の心中を思って張り裂けんばかりだ。
彼女が育み慈しんだ掌中の珠。
その幼子との別れを決断した彼女の苦しみはどれほどのものだろうか。
「・・・どうか戦争とは遠いところで、健やかに、幸せに・・・サクラ」
幼子に語りかけた彼女の言葉に、少女は一筋の涙を流した。
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