「ここ・・・だよな?」
救難信号を辿ったシンは、応援に来た後方にいるレイに確認をとる。
ルナマリアは万一の戦闘に備えてミネルバに待機しているためこの場にいるのはシンと
レイの2人だけだ。
「・・・ああ。そのはずだ」
レイも信号の発信位置を改めて確認して、その問いに答えた。
シン、それにレイまでもが救難信号が発せられたと思われる場所に疑問を持つのも
仕方が無かった。
なぜならば、その位置とはミネルバ艦長やシン達が予想したような海上に点在する島からではなく
その島々の間で漂っていた中型の船からだったのだ。
「でも、誰もいないみたい」
インパルスより船上に降り立ったシンは人の気配が全くしないことを不信に思いながらも、銃を構えて
その船内を進む。
「シン。何があるかわからないからな、気をつけろ」
「わかってるよ」
レイに注意を受けながらも、そこはザフトで紅を着ることを許された者。危なげない足取りである。
もちろんシンに続くレイも同様である。
船内は不気味なほどの沈黙で包まれていた。内装から推察するとどうやらこの船は客船のようだ。
「これ、ホントに人いるのか」
「・・・・・・」
先ほど船の外側を見回った限りでは外には誰もいる様子は無かった。ならば救難を求めたものがいるならば
船内であろうと目星をつけて入ってきたのだが、その船内にも人の気配が無い。
シンがこの船に人が乗船していることに疑いを持ち始めていた。それを無言で聞いていたレイもどうやら同じ考えのようで、静かにシンに頷こうとした。
しかし。
「シン!!」
小さいが鋭いレイの声がシンを呼ぶ。視線を目の高さで移動させて周囲をうかがっていたシンはその鋭い声に驚いたように肩を
震えさせた。
「何?脅かすなよレイ」
「これをみて見ろ」
突然、自分の名を呼ばれて少し動揺したことを隠すかのようにムッとした表情と声でレイに答えるシンであるが、
レイはそんなことは一つも気にせず、あごをしゃくって今まさにシンが進もうとしていた床を指した。
「なんだよこれッ・・・・!!」
驚きに目を見開き、驚愕した声をあげるシン。それもそのはず、シンが目にしたのは客室へと繋がるであろう扉の
隙間から廊下へと流れ出したおびただしい量の血であったからだ。
「どうやら、信号を出した人間はこの中にいるようだな」
大量の血に少し顔を青ざめさせたシンに対し、事も無げに淡々と状況判断をするレイ。
「シン、何をしている。ここに入るぞ」
レイに指示を出され、ハッとしたように我に返ったシンは唾を飲み込んで自分を落ち着けると、扉の両側に分かれて銃を構える。
二人は視線で合図を出し、頷きあうと一気に扉を開けてその部屋の内部に銃を向けた。
そして直ぐに目に飛び込んできた部屋の内情に息を呑んだ。
「これは・・・・」
いつもは冷戦沈着を絵に描いたようなレイでさえも、そう言葉をもらして美しい眉間に皺を寄せた。
「ウッ・・・・・」
シンは扉の外にいた時よりもさらに顔を青くさせて、手を口にあてて吐き気を堪えているようだ。
軍人である彼にこのような反応をさせた部屋の中とは・・・・・さながら地獄絵図であった。
ホテルの客室のような船室に横たわる人々。
人という人は血に塗れていてとてもではないが生存者がいるとは思えない。その光景は家族を失った時のことを
強く連想させたため、シンは吐き気をもようすほど動揺していたのだ。
「シン、大丈夫か?・・・・これでは信号を発信したものも息絶えているだろう」
青い顔をしたシンを気遣いながらも、驚愕した状態からいち早く復活したレイは部屋を見回るために奥へと進む。
シンもよろよろとレイの後を追う。レイは何かしら書類のようなものをテーブルの上に見つけたようで、それを
みている。シンは何とか落ち着いてきた心を感じ取り、もう一度部屋を見回した。
部屋の中央に立って改めて見たその惨状。
―――――とその時。
血に塗れたベッドの床に可愛らしいクマのぬいぐるみが転がっていることに気が付いた。
小さな子供が持つようなぬいぐるみが何故こんなところにあるのだろう、と訝しげに思ったシンは
それを取り上げようと床にしゃがんだ。
シュッ。
とシンの耳のすぐ近くで衣擦れの音が響いた。
「え?」
それが聞こえたのはどう考えても自分のすぐ傍で、静まり返った部屋の中では聞き間違ういようもなかった。
だが自分の周りにはただベッドがあるだけで、他には何もない。衣擦れを起こす者はレイと自分自身、シンしかいないが
レイは少し離れたところで書類をめくっているし、今の衣擦れはシンが起こしたものでもなかった。では一体何が・・・。
そうしゃがみ込んだまま考えているともう一度衣擦れの音。今度こそ間違いない。この部屋に誰かいるのだ。その音が聞こえたほうを
慎重に辿ると、そこは床まで届くベッドカバーに覆われたベッドの下。
「シン?」
いつの間にか傍に来ていたレイが床に這っているシンを見て、言外に「何をしているのだ」と意味を込めて名を呼ぶが、シンは
口に人差し指を立てて「しっ」とレイに黙っているように促した。
そして、おそるおそる長いベッドカバーの端を掴んでそれを暴く。果たして・・・・。
シンは詰めていた息を吐き出した。そこに居たのは小さくなって震えている子供だった。
「・・・大丈夫?」
極力優しげな声を出したつもりであったが、それでも子供は大きく肩を震えさせた。そして本当にゆっくりと
膝にくっつけていた頭を上げてシンの方を向いた。シンが目にしたのは涙でぬれた大きな瞳だ。その瞳には
色濃く恐怖が映っていてシンに対して怯えているのが見て取れた。
「大丈夫。おいで何もしないから・・・」
優しく、優しく、シンは笑顔を作りその子に手を伸ばした。その子供はシンの言うことを信じたのか、おそるおそる
その小さな手を差し伸べられた手に重ねるのだった。
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