「で、どこに行きましょうか、姫?」
「その”姫”は止めてくれ…」
ジノの言葉に心底ルルーシュは嫌そうに、顔をしかめる。
そんな言い草にもジノは微笑を絶やすことなく、懲りることはない。
「じゃあ、殿下でどうでしょうか? ”トリスタン”がエスコートするんですから」
今のブリタニアで”殿下”といえば皇族を指すのが常だが、ここでジノが言う”殿下”とは、物語に出てくるトリスタンの恋人、王妃イゾルデのことだ。
殿下と呼ばれたルルーシュの様子に変わったところはなかったが「不敬にあたるぞ…」と呟いた。
ジノは不敬罪を恐れるような男ではなかった。それゆえ「大丈夫ですよ」と言って、ジノはルルーシュの手を引いて歩き始める。
「ほら殿下。早く行きましょう!」
空に輝く日のように笑うジノ。その屈託ない笑みに、ルルーシュの不機嫌そうだった表情も緩んでくる。
「おかしな男だな、”トリスタン”」
こうしてジノとルルーシュの一日デートは始まった。
「私、ルルーシュ・ランペルージは、汝、”トリスタン”を騎士としてここに認める」
ルルーシュ”姫”はジノの両肩に剣の刃を触れされるようにしてから、そう言った。柄をジノに差出して、ジノが手に取り腰に収めるのを待っている。
だが、いつまで経っても、その柄は取られない。
ジノはただ呆然と、目の前の”姫”の顔を凝視していた。
(殿、下…)
何年経とうと見間違うはずがない、という自信がジノにはあった。
先ほどから感じていた懐かしさは、この為だったのだ。
顔や声。それらは時と共に、記憶の中であやふやになるものだろう。だが、鮮烈な印象を残したルルーシュだけはジノにとって特別だった。
そして何よりも、彼女が身に纏う凛とした雰囲気は忘れようもない。
9年前、最後にお会いした時と変わらない、独特の気高い空気は同じものだった。
『え〜と…”トリスタン”さん…?』
おずおずとした司会者の声でジノはハッと我に返る。慌てて、目の前にある剣を収めた。
いくら自分に、殿下が死んでしまったという実感がなくても、あの方は亡くなった方だ。
そう自分に言い聞かせてジノは、ルルーシュが頭の上で手を払う合図と共に背を見せていた観客席に向き直る。
普通、皇女の騎士叙任式ではここで会場から拍手が沸き起こるのだが、観客達は陶然とステージ上の二人を見ていて、夢見るような瞳のままだ。
取り合えず笑っておくか、とジノが笑顔を浮かべた。すると、観客の何人かはその笑顔で現実に立ち返り、激しく手を叩き始めた。
それにつられるように拍手の輪が段々と広がり、しまいには先ほどの決勝戦と同じほどの熱狂に包まれる。
『”トリスタン”さん、ダンスパーティーまで、我らが姫と学園祭を楽しんでくださいねー!』
司会者の言葉に、背後で溜め息がつかれる。
それはどう考えても、ルルーシュ”姫”のものだ。
『それでは姫と騎士の退場です。どうぞ皆様拍手でお見送りくださーい!』
騎士の誓約をした後のことは何も指示がなかったが、ここは”騎士”らしく行動した方がいいのだろう、とジノはくるっと後を向いた。
軍人となってから派手なことが好きになったジノは、場のノリに調子を合わせることが得意だった。
それゆえ、今もまたこうして”姫の騎士”らしい振る舞いをするため、腰を折って、騎士の礼を取った。
「では、姫。僭越ながら、わたくしめがエスコートさせていただきます」
「お手をどうぞ」と言いながら手を差し出したジノ。
それに、うんざりしたような表情を見せながらも手を重ねるルルーシュ。
先ほど自分の考えを打ち消したジノだが、同じ考えがよぎる。
さきほど自分に言い聞かせたジノだが、やはり目の前にいる人は亡くなったはずの皇女にしか見えないのだ。
「殿下…」
直ぐ傍で呟いたジノだったが、歓声にかき消されてルルーシュの耳には届かなかったようだ。
並び歩きながらジノは、その皇族の見本のような凛とした横顔をじっと見つめた。
ナイトオブラウンズに成った事から、以前よりも多く皇族方と傍近くで接してきたジノだったが、やはりルルーシュが纏う空気は違うのだ。
優雅だが時に猛々しい、”戦姫”の名そのままの皇女コーネリア。
しなやかな強さを内に秘めた、柔らかな慈愛の皇女ユーフェミア。
皇族の中でも皇女の見本と言われる二人と比べても、幼い頃のルルーシュには異なる覇気があった。
幼い頃はわからなかったが、今なら分かる。
それは帝王の気。
次期皇帝と言われるシュナイゼルや、皇帝と同質のものだ。
(生きて…いらしたのですね…)
もうジノの心に迷いはなかった。
十年近く前の記憶だけで判断するのは、人が聞けば嗤っただろう。
だが、ジノは「騎士」だ。
仕えようと思った主君を忘れるはずがない。
それこそ、本能でジノは目の前にいるルルーシュが、ジノの皇女である”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア”だと判断した。
よくよく考えてみれば、ここはルルーシュの後見役をしていたアッシュフォードの管轄下。
ルルーシュがいても不思議ではない。
本当は直ぐにでも「ルルーシュ殿下!」とわき目もふらず、この人の前に跪いてこの9年間のことを聞きたかった。
だが、生きていたのに本国に帰ってはこなかったのだ。
ルルーシュは、日本に送られる前に皇位継承権を自ら放棄したと言う。
そうまで宮廷を嫌ったルルーシュだ。自分の意志で帰らなかった、皇族には戻りたくなかったと考えるのが妥当だ。
だからジノは、知らない振りをする。
それが、ルルーシュの望みであるならば。
観客の熱狂的な拍手を受けながら退場した二人は、ステージ裏を回ってその歓声が聞こえなくなった頃、冒頭の会話を繰り広げた。
だが、少し歩いた時。
「あ、申し訳ありません、殿下。少しよろしいですか?」
「…何だ?」
「いえ、共に来たものがいるのですが、事情を話してまいりますので」
歩みをぴたりと止めて、ジノはルルーシュに言った。
スザクとの戦い、そしてルルーシュのことで頭が一杯だったが、アーニャを待たせていたことを思い出したのだ。
「それな」
「すぐに戻りますから!…ってアーニャ!」
ルルーシュがそれに返す暇もなく、言うが早いがジノは、ルルーシュの手を離して駆け出そうとした。
だが目の前には、ふわふわしたものを片手に、もう一方には携帯を構えたアーニャがおり、それを目にしたジノは中途半端な体勢のまま固まってしまった。
そして、ピロリーンという間抜けな音が聞こえた。
「………記録、ありがとう」
ジノもルルーシュも、不意をつかれたため中途半端な体勢でお互いに固まってしまった。
少しだけ指先を触れ合わせたままジノは駆け出そうとしており、ルルーシュは口を開きかけた表情のまま。
写真で見たらさぞかし、間の抜けた姿になっていることは間違いなかった。
一言呟いて、すぐに去ろうとするアーニャにハッとしたのはジノだった。
「ちょ、アーニャ待て!」
「……なに?」
ジノはアーニャをつかまえると当初の目的であった、一日デートの旨を語った。
言葉少ななアーニャは答えなかったが、観客席で決勝まで一応見ていたのだその成り行きなら知っている。
早く終わらないだろうか…と思っていたが、ジノは後で菓子をたんと送るとアーニャに約束すると
「それと、もう一個」と言って、先ほどからジノを待っていたルルーシュの元へ向かう。
「おい…」
「ご無礼を!」
あまりそうは思っていないような顔で、ちゃっかりとルルーシュの腰を引き寄せて片手を取ったジノは「殿下との写真、もう一回撮って!」
と笑顔で言い放った。
アーニャは、表情を変えることなくまたピロリーンと音を出して写真を撮って、すぐにその場を去っていった。
「じゃーなー、アーニャ!…さて殿下、まずは…」
「あの子を放っておいていいのか?」
ジノはまだルルーシュの腰に手を回したまま、歩き始める。
もの言いたげに、その手を見つめながらもジノにルルーシュも倣う。だが、アーニャのことはきちんと聞く。
「ええ、殿下がお気になさらなくても大丈夫ですよ。アーニャとはいつでも遊べますし」
「いや、私が言いたいのは」
「お、あまり人がいないな。好都合ですね。殿下、馬はお持ちですか?」
またも人の話を聞いていない風でジノは、ルルーシュの言葉を遮る。
本来ならば皇族の言葉を遮るなど言語道断だが、ジノはこうしてルルーシュと再会できたことで心が浮き立ちそんなことに構っていなかった。
適当に歩いていると見えたジノだったが、目的の場所はあったようで馬術部が主催している乗馬体験スペースにルルーシュを連れてきていた。
普段、馬に乗ることがないような人には馬術部部員が馬に体験者を乗せ、とりあえず『馬に乗って』『馬を歩かせる』ということを教えている。
だが、アッシュフォード学園の者やその関係者には乗馬の経験者が多いので、そういう者には馬だけを貸し出していた。
毎年、学園祭の中でも人気のブースであるはずだが、今は閑散としている。
「馬? ああ、いつも乗る馬ならいるが…」
「あ、そこの君。殿下、ルルーシュ殿下の馬を連れてきてくれ」
「こんな時まで”殿下”と呼ぶな!」
ルルーシュはそう言って咎めたが、おそらくジノが聞きはしないことをこの短時間で学んだのか脱力する。
ジノに呼び止められた係りの男子生徒は、主従という他ない二人組みにぽかんとしていたが、女性が副会長のルルーシュだと分かると
その姿に顔を真っ赤にして、「はいっ!」と厩舎に駆けて行った。
ルルーシュの美しい着飾った姿はそこかしこで噂になっていたが、残念なことに彼はこの受付係りの当番だったためにその姿をステージで見られなかったのだ。
それゆえ初めて目にした、噂以上の美しいルルーシュの姿に慌てふためいてしまった。
「お前は人の話を聞かない男だな…」
心底、呆れたようにルルーシュは呟く。
だが、それは決してジノを嫌悪するものではなかった。
だからこそジノも、己の振る舞いが無礼だとはわかっていても自分を止められないのだ。ただジノは晴れやかにルルーシュの言葉を受け止めて笑った。
「持ってきました! こちらが副会長の”ナイトメア”です」
そうしている間に、先ほどの男子生徒が見事な白馬を引いて戻ってきた。
丹念に手入れされいることがよく分かる馬だった。ルルーシュによく似合いそうな馬だったが、どうにも気位が高そうだ。
「今日一日、よろしくな。ナイトメア」
「お前、これに乗るつもりか?」
馬の額をなでながら言ったジノに、ルルーシュは驚いたようだ。
だが、ジノは笑って質問に答える前に
「ええ。でも…」
「え…?」
ルルーシュが声をあげる間もなく、ふわりと彼女の細腰を両手で掴んで馬上に抱き上げてしまった。
すとん、とルルーシュはナイトメアの上に両足をそろえて横向きに乗せられていた。
「殿下もお乗りください」
何が起こったのかいまいちわかっていなかった様子のルルーシュだが、数秒経つと頬を真っ赤に染めた。
そんなルルーシュをほほえましく思いながら、これでルルーシュも痛い思いをしなくて済むだろうと考えていた。
ジノが真っ先にここに来た理由。それは、ルルーシュのために他ならなかった。
ステージから二人で歩いてきたが、その間中ルルーシュの歩き方がおかしかったのだ。
アーニャと話している時、靴を気にしている様子だったから、ヒールの高い靴に慣れておらず歩き辛いのだろうと思った。
だから、まずは馬を借りて学園内の散策でもいいのではと考えたジノだった。
学園祭の案内をよく読んでいた自分にジノは喝采を送った。
「殿下、学内の案内はお任せできますか?」
ジノは自分もナイトメアに飛び乗ると、笑顔でルルーシュを見つめた。
仕方がない奴と、眉尻をさげて笑うルルルーシュが手綱を握る自分の腕の中にいる。それはジノにとって、至上の喜びだった。
「…そうですか、殿下には弟君が…」
「ああ。私のたった一人の家族だ」
ルルーシュの案内の元、広大な敷地を持つアッシュフォード学園の中をナイトメアで散策すし、馬上でたわいもないことを話す二人。
今、二人がいるところは学園祭のメイン会場から離れているためとても静かだ。
青々とした葉をつけた木々の間から日の光が差し込み、地上には影ができて自然のアートを形作っている。
ジノはルルーシュの言葉を聞きながら、彼女の記憶がおかしいことに気づいていた。
普通は自分の皇女とは別人だということを思いそうなものだが、ジノにとって目の前にいるルルーシュは、あの”ルルーシュ”に違いないという確信がある。
その根拠はひどく曖昧なモノだが、確かだと言えるのだ。
だからあんなにも可愛がっていた妹を忘れるなんて、何かそこまでルルーシュを追い詰めることがあったのかもしれないと憂鬱な気持ちになった。
もしかしたらこのことが原因で、皇族の生まれも何もかも忘れてしまって本国へ帰らなかったのではないか。
ジノはそう受け取った。
「ところで、”トリスタン”」
この9年でルルーシュにあったかもしれないことをあれこれと考え込んでしまっていたジノは、ルルーシュの言葉で現実に引き戻された。
「なんでしょうか?」
「…やはり、その言葉使いやめてもらえないか? ここにはお前と私しかいないのだから、騎士の振りをする必要なんてない」
ルルーシュは言った。
そこでジノは、ルルーシュに対して使っていた言葉が宮殿で皇族方に接する時と同じようなものだったのに初めて気が付いた。
いままでジノに、その自覚はなかったのだ。
「…ご迷惑でしょうか?」
自分が皇族だと自覚のないルルーシュからすれば、ジノの態度は受け入れがたいものなのだろう。
だが、ジノは無意識でルルーシュに対して言葉を使っていたので、ルルーシュの望みどおりに矯正することの方が難しい。
何よりルルーシュに対して「殿下」と呼べることが嬉しくて、改めたくなかったのだ。
「いや、迷惑だとは…だが」
「では出来る限り、崩した言葉を使いますから。ですが、”殿下”と呼ぶことは許してください…」
ジノにとってそれは、一生、二度と本人を前に呼びかけられないと思っていた敬称なのだから。
沈んだ様子のジノに、ルルーシュも思うところがあったのだろう。
「許すも何も…ああ、もういい。好きにしろ」
なぜルルーシュがすぐに許しを出してくれたのかジノには分からなかったが、どうやらお許しはでたようだ。
「ありがとうございます、殿下」
「…本当におかしな男だ」
呆れつつも笑顔のルルーシュ。
その笑顔は、やはり最後のあの日、名前を覚えていてくれたことに驚いたジノに見せたものと同じだった。
その後、二人は学園の散策を終えると学内に移動し、学園祭を楽しんだ。
主に楽しんでいたのはジノだったが、ルルーシュも頻繁に笑顔を見せ、今日一日限りの主従はどこにいても人々の注目を集めた。
そして、約束のダンスパーティーの時間はあっという間におとずれてしまった。
「もう、ダンスパーティーが始まってしまうんですね…」
敢えてジノは”終わり”という言葉を使わなかった。
使いたくなかったのだ。
目の前では、着飾った男女が輪を作り曲が始まるのを待っている。
ジノとルルーシュは、たった今この場に到着したばかりだ。
「ああ…これで、お前も”トリスタン”でいる必要はないぞ」
今日一日を共に過ごしたルルーシュは、少し疲れているようだが、うんざりしている様子はなかった。
日が落ちた宵の中、橙色の光に照らされたルルーシュの美貌は一層輝いて、ジノの目を惹きつける。
優勝者への一日デート権は、「ダンスパーティーまで」。確かに、ジノはルルーシュの言うとおり”トリスタン”でいる必要はもうなかった。
「では、”トリスタン”ではなく、ジノ・ヴァインベルグとしてお願いいたします」
だが、ジノは例え仮初めでもルルーシュの騎士としての立場を今日が終わるまで失いたくなかった。
だから”トリスタン”ではなく、本名を名乗ってルルーシュに跪き、片手を差し出した。
「その名前…」
「どうか、私と踊っていただけませんか?」
ヴァインベルグの名前は、帝国の中では名門として名高い。
記憶を失ったとはいえ、ルルーシュもヴァインベルグのことは知っていたようだ。
またジノ自身は知らなかったが、スザクがアッシュフォード学園に転校して来たことで、ナイトオブラウンズのメンバーの名前は今まで知らなかった生徒にも知れ渡っていた。
二人の周囲にいた生徒たちのなかでは、ジノの名前を聞いて「まさか…」「スリーの」とざわめいている。
だがジノは、周りの反応などを気にしている余裕などなかった。
ルルーシュの答えを待っている間、他のことなど考えられなかったからだ。
「…一曲だけだぞ」
「殿下!」
「だから”殿下”とは…ああ、もう…ほら、曲が始まるぞ」
ぱあっと顔を輝かせたジノは、感極まって大声でルルーシュを「殿下」と呼んだ。
一応咎めをするものの、曲が始まりそうな気配にルルーシュはジノの手を取って輪へと促す。
輪に入った二人を、皆が見つめた。
「しばらく踊っていないから足を踏むかもしれないぞ?」
「柔にできてはいませんから、いくらでも」
「…わざと踏んでやろうか」
「それは、できればお止めください」
向かい合い、互いに手を取り合う。ジノはルルーシュの腰に手を置き、その腕にルルーシュが片手を乗せる。
軽口を言いあっていると、曲が始まり輪が動き出す。
「…本当に踊るのは久しぶりなんですか?」
「もう年単位で踊っていないぞ」
「そうは思えませんよ」
くるくると輪の中でステップを踏みながら、ジノとルルーシュは笑顔で言葉を交し合う。
周囲の者、隣で踊るものたちさえ、自分のパートナーそっちのけで二人に見蕩れている。
しっかりとしたジノの体格と細さがより強調されている今日のドレス姿のルルーシュ。
二人の美貌と相まって、理想の一組だ。
「殿下」
「…なんだ?」
どうやらルルーシュは諦めたようで、ジノの呼びかけに素直に答えた。
優雅に踊るルルーシュに見ほれながらも、ジノはあの時と同じ願いを口にした。
「今日が終わっても…また。またお会いしていただけませんか?」
ルルーシュはジノの言葉に少し驚いたようだった。あの日、ルルーシュは「いつか」と答えてくれた。
「私に会う暇などないだろう、ナイトオブスリー?」
だが、今日のルルーシュはそう答えた。
もちろん、それにめげるジノではない。
「いいえ。貴女にお会いできるならいくらでも時間はつくります」
ジノのキッパリとした物言い。
心は決まっているのだ。もう二度と、ルルーシュに辛い思いはさせたくない。今度こそ、自分が傍で守ってみせる。何ものからも。
だから、例えルルーシュ自身に断られたとしてもジノはもう一度会いに来る。ただ、あの時と同じようにジノは約束が欲しかったのだ。
「……馬鹿な男だ」
「貴女にそう仰っていただけるなら、本望です」
ルルーシュは明確な答えをジノに与えなかった。
だが、恐らくルルーシュにも分かっていたはずだった。ジノがルルーシュの答えに関わらずもう一度会いにくることを。
「本当に、馬鹿な男…」
哀れむような調子があったその言葉をジノは、ただ微笑んで受け止めた。
二人は約束の一曲が終わるまで、微笑みを交わしながら踊り続けた。
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