「えーっ!この子なの!!」
ミネルバのレクルームには甲高いルナマリアの叫び声が響きわたった。
「ルナ!そんな大声出すなよッ、サクラが驚くだろう!!」
「・・・と、あらホント」
ルナマリアの大きな声にシンの足に隠れるようにしてルナマリアを伺うようにしていた件の子供―サクラはビクッとその身を竦ませる。
その様子を見たルナマリアは素直に謝り、シンは後ろ手にサクラの頭をあやすように撫ぜてやった。
「サクラ、大丈夫。怖くないよ。ただルナは声がでかいだけだからさ」
「声がでかいだけって・・・シン誰に向かって言ってるのよ?」
シンは隠れていたサクラを抱き上げて、自分と同じ目線の高さにして何分ルナマリアに失礼なあやし方をした。
サクラのコトを第一に考えているようなシンには、いつもならレイの無言の叱責の次に恐れているルナマリアの脅しも耳に入らないようだ。
サクラはシンの言葉にそろそろとまだ少し怯えが残る顔をルナマリアへと向けた。
「初めましてサクラちゃん。私はルナマリアよ。よろしくね」
ルナマリアもサクラの顔を覗き込むようにして、自己紹介をした。もちろんサクラを安心させるような笑みを浮かべてだ。
その言葉と笑顔に絆されたのか、サクラは自分を抱き上げているシンに目線をやって何か訴えるような視線を送った。
その視線の意味を正しく理解したかは謎だが、シンがサクラに微笑んで頷いてやると、ようやく安心したのか花の綻ぶような笑顔をルナマリアに向けた。
「わぁ・・・」
その笑顔を向けられたルナマリアはその瞳を大きく見開き、思わずといったように感嘆の息をついた。
「すごく可愛いわ、この子。それにこの瞳・・・」
ルナマリアはさらにサクラに顔を近づけ、その双眸を遠慮なく覗き込む。
サクラも少したじろいだが、サクラ自身も近づいてくるルナマリアの瞳を不思議そうに覗き込んだ。
「まるで翡翠かエメラルドね。本当に宝石みたい・・・」
ルナマリアは女性らしい観点で、サクラの瞳をそう評したのであった。
シンが救難したサクラをミネルバに連れてきて3日ほどが経っていた。
サクラを救出したその日、シンは軍医よりサクラのコトを任された。艦長への説明及び説得は約束通り軍医、そしてレイがしてくれた。
シンがそのことについてレイに素直に感謝を述べようとしたのだが、
「別にたいしたことじゃない」
と一蹴されてしまった。しかし、その行動がただの照れ隠しでサクラに対してもいつものポーカーフェイスを気取っているが、その実レイもサクラのことをシンと同じ位気にかけていることをシンは知っていた。
アカデミー時代からずっと共に過ごしてきた年月は伊達ではない。
そして一通りの検査や最終的な診断の為に今日までサクラは医務室に閉じこもりっきりであったのだが、軍医からも人との接触があった方がいい、との言葉を受け、手始めに自分の親しい友人達がくつろいでいるであろうレクルームへとシンはサクラを連れてきたのだ。
「それにしてもシン・・・サクラが持ってるのってなに?」
ルナマリアがそう言って指差したのはサクラが大事そうにギュッと抱きしめているピンクの物体だった。なんとなく枕のように見える淵が弧を描いているものだ。
「これか?いや、俺も知らないけどサクラの荷物に入ってたんだ」
あの惨状からサクラを連れ出すことで頭が一杯になってしまったシンに代わって、部屋を検分していたレイがサクラのものだろうと見当をつけてそこで見つけた書類とともに持ち帰ってきたのだ。
医務室で二度目にサクラが目を覚ましたときにレイがサクラへと返したのだ。その時、真っ先にサクラはその小さな荷物からこれを引きづりだして腕に抱えたままずっと離さないのだ。
シンには妹がいたのでその行動を不思議がりはしないが、サクラの抱えている枕のようなモノの正体は未だに分らない。
ピンクの円形。それに耳が付いているはっきり言ってあまり可愛いとは言えない代物。
「知らないって・・・サクラちゃん、お姉さんにそれ見せてくれる?」
シンの腕の中でおとなしくしているサクラにニッコリと微笑んでルナマリアは言った。
その姿は人形みたいでルナマリアはまたまた、サクラの姿に見惚れてしまった。
(”天使みたいな子”とはよく言ったものねえ・・・)
サクラは先程からで随分ルナマリアに慣れたようで、今度はシンに目線をやること無くそっと自分が胸に押し付けていたものをルナマリアに差し出した。
「ありがとう」
そう言ってやるとサクラはまた笑顔を見せてくれた。シンはサクラが声を無くしたと言っても、笑顔を忘れないでいてくれたことは本当にありがたいと思った。
そしてシン自身も気になっていたそのピンクの代物をじっと見ているルナマリアに声をかけた。
「ルナ、それなんだかわかるか?枕かなにか?」
「はあ?枕?アンタ何も知らないのね。これ、ラクス様のハロっていうロボットのぬいぐるみじゃない」
事も無げにそう言い放つルナマリアに、先日映像でみた”プラントの歌姫―ラクス・クライン”の姿を思い出すシン。
「ラクス・クラインってこないだの?」
「そーよ。なんでも婚約者殿に頂いたものだとかで、とても大切にしていたそうよ」
「よく知ってるな、ルナ」
「こんなのね、プラントじゃ常識です!・・あ、はい。もういいわ。アリガト、サクラちゃん」
シンに対する姿とは裏腹、一転してサクラにはいい顔を見せるルナマリア。
「あ、じゃあ婚約者って・・・あの人か?」
「そ、アレックス・ディノだっけ?・・・アスラン・ザラよ」
シンは先日共に戦った英雄と呼ばれる彼とこの・・・シンには可愛いと思えない・・・ロボットを象ったぬいぐるみが結びつかないシンは
一人、変な顔をした。
ルナマリアはそんなシンには目もくれず、サクラとその問題のぬいぐるみできゃっきゃっと遊び始めたのだった。
もちろん、それはシンがサクラをその腕からルナマリアに取られて、争奪戦が始められるまで続いたのだった。
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