「まだいたのかシン?」
シンより遅れてミネルバに帰投したレイは艦長一通りの報告をした後、医務室にて手当てを受けたと聞いた子供の様子を見に来た。そしてそこには、子供を連れてきたシンがベッドに寝かされているその子の傍に付いていたのだ。
「レイ・・・」
「艦長には俺が報告してきた。どうやらその子は巻き込まれたようだな」
どこか疲れたような表情をレイに向けたシン。レイはシンの傍に来ると労わるようにその手をシンの肩に乗せて先ほど艦長にしてきた説明をかいつまんでシンに説明してやった。すると、シンの顔色はだんだんと怒りで赤くなっていった。
「同じナチュラル同士なんだろ!!なんでそんなことっ。しかも子供まで巻き込んで!!」
「仕方がないだろう。今は戦時中で、ナチュラル―地球が戦っているのはプラントだからな。プラントと親しくするものは邪魔以外の何者でもないからな」
「でもっ・・・・」
事も無げにそう言い放つレイに、シンは声を荒げて自分の肩に手をままの彼の方を見上げた。 しかしその時。
「シン」
シンが見上げた先のレイの目が少しすがめられ、肩を揺すられた。
「レイ?」
「目を覚ましたようだぞ・・・」
シンを見ることなく、そうレイは告げると先程シンの手を取って気絶した時の子供ことをおもんばかってか一歩後退した。
シンといえば、レイに言われるやいなや直ぐさま向き直りその子の目が完璧に開くのを待った。
「・・・・」
「・・・大丈夫?」
完全に瞼を持ち上げたその子の瞳は一対の宝石のようで、くりくりした可愛らしい翠色の瞳であった。
後にルナマリアがその瞳を見て「まるで翡翠のようだわ」と評することになるのだが、まだここでは先の話だ。
「どこか痛いところは無い?」
「・・・・」
今だ状況を把握していない様子であったが、ぼんやりとした目でシンの姿を認めると口を動かした。
しかし、その声はシンの耳には聞き取れない。
「なに?」
シンはその子の声を聞くために上体をかがめたのだが、やはり聞こえない。
「もうちょっと大きな声で言ってみて?」
船での時と同じように子供を怯えさせないように極力優しい声を出すシン。
子供はその声に緩慢にだがコクンと頷くとまた口を動かした。
しかし音は響かない。ようやくおかしさに気づいた子供は不思議そうな顔をしている。
それを見ていたシンも子供が声をだそうとしているのに声が出ていないことを悟った。
「レイ・・・軍医を」
「ああ・・・」
その様子を後方より見守っていたレイはシンに指示されるより早く所要のため医務室を離れている軍医を呼びに行ったのだった。
「たぶん心理的なものでしょうね」
軍医は簡単に子供を診た後で、結果をそうシンたちに伝えた。
その件の子供とは言えば、診療された後にまた処方された薬による副作用で健やかな寝息を立てている。
「心理的なものって、やっぱりあアレが?」
自分が船内で見た悲惨な現状を思い出し顔をしかめた。確かにあの現場に居たのだから、あの子の恐怖は計り知れない。
しかしながら先程の診療中に判明したことであったが、彼女はずっとベッドの下にいて「どんなに怖い音がしても決して出てきてはいけません」ときつく言い含められていたようで、「いい」と言われるまで外に出なかった。
そのため彼女は”怖い音”や”怖い声”だけだったようだ。軍医が根気強く質問して、それに子供が Yes or No で答えたのだ。それでもそれらが子供の心に多大な恐怖心を植えつけたようで、そのショックとして声を失ってしまったというのだ。
また、子供はだんだんとこの場所が知らない何処かであることも知らない人ばかりであることも認識し始め、しきりに声無き声で”ママ”と口を動かしながら泣くのだ。
「そうでしょうね・・・目で直接見てはいないのでしょうけど、音だけでも随分子供には堪えますから」
シンは唇をかんで、己の無力さと子供を巻きこんだ者達を憎んだ。
「発見したのは確か君だったね?」
「ハイッ、俺が見つけて連れてきました!」
悔しさをかみ締めていたシンは唐突に軍医からその質問を受けて咄嗟に大きな声を出してしまい、背にしたベッドで寝息をたてる子供を起こしてしまったかと慌てて後ろを振り返った。
「あれ?」
後ろを振り向くときに制服の裾が何かに引っかかった感じがしたので、少し不思議に思ったシンであったがその犯人は今シンが眠りを妨害してしまったと危惧した子供だった。
その手はしっかりとシンの紅い軍服の長い裾をその小さな手に握り締めていた。
「どうやらその子は君だけには懐いたようだね。その子の為にも君がその子の面倒を見てもらえないだろうか?艦長には私から言っておくから」
苦笑しながら軍医はそう言った。
レイはずっと黙ったままであった。いつもは風紀に厳しいレイがここで文句を言わないのも、それを黙認してくれるのだろう。
シンはそんなレイに感謝するような視線をやり、もう一度子供が握りしめた裾を口元を綻ばせながら見て
「・・・ハイ。もちろんです」
シンはそう答えるのだった。
※心理的な失語うんぬんは左京の創作です。あしからず |