「いやーそれにして、お驚きましたね」
ミネルバのブリッジにて相変わらずのほほんとした声でそんな感想を漏らしたのは副長の
アーサーであった。
「こちらに何も告げずに突然戻ってくるから何事かと思えば・・・生存者の子供を抱えて戻ってく来るんですもんね」
先程、救難信号を受けて救出に向かったシンが艦に報告する前に突然帰投した。
常であれば帰投する前に簡単な報告をすることになっているので、シンの行動にはブリッジも
驚かされた。そしてドッグにて整備班や駆けつけたルナマリアやアーサーが見たものはインパルスのコックピットから
子供を抱えて出てくるシンの姿であった。
「しかしあの子大丈夫ですかね・・・」
アーサーがそう言うのも、件の子供はミネルバに連れてこられた時にはぐったりとしていて意識が無かったのだ。
栗色の柔らかそうな髪を高く二つに結い、ふわふわのスカートを身に着けた遠目にも可愛らしいわかる女の子で
あったため、その様はより哀れに見えた。
「って艦長?」
実は先ほどからアーサーは、艦長であるタリアに向かって話しかけていたのだが一向に彼女からの返答が帰って
ず、さすがの彼もおかしく思ったのだ。
そうして彼がタリアの方を見ると、なにやら難しい顔をして手元の資料を眺めていた。
「・・・・艦長?」
もう一度アーサーはタリアを呼ぶが、彼女は綺麗さっぱりその声を無視した。
「メイリン。本当にこれで全部なの?」
タリアが眺めていたのは先ほど保護した子供に関するものであった。シンに遅れて帰投したレイが持ち帰った資料により、
子供の身元が判明したため、それをもとにあらゆるデータベースから子供の情報を引き出そうとしたのだが―――。
「はい。確かにそれで全部です」
「そう・・・・」
タリアはメイリンの答えに深い溜め息をつき、艦長席に深くもたれ掛った。アーサーは先ほど無視をされたのがこたえていたが
その疲労困憊したようなタリアの様子にもう一度声をかけてみた。
「・・・何かあったんですか?」
恐る恐るといった感じでタリアに尋ねると、タリアはやっとアーサーの方を向きその口を開いた。
「何かあったというより・・・・とりあえずこれを見て頂戴」
タリアは手元の資料をアーサーへと渡し、見るように促した。
「これは、あの子の?」
アーサーが目にした資料には保護した子供のものと思われるデータがのっていた。
『FIRST NAME:SAKURA FAMILY NAME: NO
BIRTH: C.E.72 02 14 BIRTH PLACE: NO』
名前と生年月日など基本的な情報がその1ページ目にはのっていたが、少し引っかかるところがある。
「この姓のところはミスでしょうか・・・?」
アーサーの頭に引っかかったのは姓の部分が”NO”となっていたのだ。
「いいえミスではないわ。あの子どうやら孤児のようよ、次も見て頂戴。それはレイが持ってきたものよ」
タリアの催促でアーサーが見た次の資料にはあの子―資料によると”サクラ”というらしい―はある孤児院から
資産家のナチュラルの夫妻に引き取られる手筈であったことが書かれていた。その夫妻はナチュラルの中でも
親プラント家として有名で、プラントと地球の友好に尽力してきた人達であった。そして子供の居なかった夫妻は
コーディネーターの子供を引き取ることを決めたようだ。
「では今回のコトは・・・」
「おそらく、ブルーコスモスでしょうね」
レイから聞かされたその惨状と被害者である夫妻の経歴を考えてみれば、おのずと判明する犯人。
夫妻は以前からブルーコスモスの標的として名が挙がっていたのだから。
「でも問題はそこじゃないのよ。むしろ、その子の方が問題なのよ」
「何故です?この子は孤児院から引き取られる最中に巻き込まれただけじゃないですか」
本当に何故か分らないといった口調でアーサーはタリアに疑問をぶつけた。
タリアは先ほどからその眉間に刻んだ皺をさらに深いものにした。
「何故って?・・・確かに今の時代には孤児はたくさんいるわ。2年前と今回のユニウスセブンの
こともあるしね。でも明らかにおかしいのよ。その子はコーディネーターなのよ。私達コーディネーターは
その全数を把握するためにプラントの国内外を問わずにコーディネーターの出生をプラント本国へと提出する
ことが義務付けられているし、コーディネーター用の戸籍を作ってくれるのは本国だけなのよ?」
「たしかに・・・」
元々絶対数が少ないコーディネーターに対して保護を徹底化するためにかなり早い段階から
そのように義務付けられたものだ。
「それにその子、歳を考えると第3世代にあたる子よ。それなら両親共にコーディネーター。それなのに・・・」
「それなのに?」
「・・・何も出てこないのよ」
「何も!?」
タリアの言葉にアーサーは二重の意味で驚いた。まずサクラが出生率がかなり低下している第3世代だと思われること。
そして、その両親についてプラントのデータベースが何の情報も持っていなかったことだ。
「あなたにもこの意味がわかるでしょ?あの子、本当の意味で身元が分らないのよ」
まだ驚愕の表情をしているアーサーと、さらに深い溜め息をつくタリア。
「で、その子は今どこにいるの?」
「はあ・・シンが医務室に連れてって、付きっ切りで見てます」
シンが医務室へその子を連れて行ったことを、アーサーはタリアに報告がまだであったことを思い出した。
「そう・・・何も無ければいいけれど」
アーサーの報告を聞いたタリアは言い知れぬ胸のざわめきに、そう呟くのだった。
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