私もお前を愛してるよ。
お前は自らが狂うほどの愛を私に捧げてくれた。でも、その献身を愛したわけじゃない。

ほとんど全てのものを無くしたあの日。
お前は必死になって私を慰めようとしてくれた。
優しさを。
本当は、心からの優しさを渇望していた私に、お前はそれをくれた。
あの日から、私もお前の虜だったのだ。

『私の全てを、貴方に…』

甘く私を呼ぶ声、全ての感情を滲ませて私を見つめたアクアマリンの瞳、そして、寂しさを埋めるように私をきつく抱き締めた腕。
その全てを愛しく思っている。
最初の褒美を聞いた時、お前はいじらしくもずっと私の傍にいられる権利が欲しいと言った。
あの時は、最後のその時まで、お前を隣に居させたかった。いや、お前が望まずとも傍に繋いでおくつもりだった。
だが。
お前を愛しく思いすぎた私の心は、お前にまで世界の敵意を向けさせることを許さなかった。
すまない。
許してくれとは言わない。お前の一番の願いを裏切る主を憎め。

全てが終わった後の世界で、お前と共に穏やかに暮らせたらどんなにか幸せだっただろう。
その未来を共に迎えてみたかった。
それだけが心残りだ。

ああ。
どうか、そんな悲痛な顔をしないでおくれ。
私が愛した―――。



「―――ッ!」

カーテンに遮られたやわらかな朝日が差し込むベッドの上。
ルルーシュ・ランぺルージは、体に汗をぐっしょりとかいて飛び起きた。

「ゆ、め…?」

まるで全力疾走したかのように鼓動を打つ胸を押さえて、ルルーシュはあたりを見回した。
ここは、自宅の自室。
何一つ変わっているところなんてない。
自分の両手を開いて見つめてみても、何も変わっていない。

「なん、なんだ…?」

夢の中で自分は、誰かに心が軋むほど恋していた。
でも、彼の手を取れなくて、枯れるほどまで涙を流した。誰もいない場所で一人。
そのあと、誰かが迎えにきたようだが、そこまでは明確に覚えていなかった。ただ、目覚めたルルーシュの胸に残ったのは強烈に”彼”を恋しく思う気持ちだった。


「お姉さま、おはようございます。わぁ! 今日は朝から豪勢ですね!」
「おはよう、ナナリー。母さんのリクエストだよ。ナナリーは、スクランブルエッグでよかった?」
「もちろん! わたくし、お姉さまのスクランブルエッグが一番好きです」

「誰がつくっても一緒だよ」と笑うルルーシュに、「全然違います! ふわふわ加減とか、とろとろ加減…」と、かわいらしい反論をしながらナナリーはダイニングテーブルについた。 清潔なクロスがかかったテーブルの上には、色鮮やかなサラダや香ばしい匂いがする焼きたてのパン。それに、焼きトマトとベイクドビーンズ。カリカリに焼けたベーコンと恐らく姉が厳選した店で買ってきたのだろうソーセージまである。
豪勢とは言ったが、どちらかといえば菜食主義なナナリーにはいささか脂っこい。
まだキッチンで作業している姉をちらっと見て、何か変わったところがないか探す。
確かに母がリクエストしたのだろうが、姉が朝から料理を張り切る時は、大抵が悩み事や考え事がある時だとナナリーは知っていた。
自分が起きてくる時間を見計らって入れてくれたのだろうカフェオレを飲みながら、ナナリーは考えた。

(お姉さまが悩むことって何かしら…? ミレイさんの企画は中等部まで伝わってくるはずだし…お姉さまが嫌いな体育は今は唯一得意な馬術のはずだし…)

「おはよー…。ああ…どうして月曜日って来ちゃうのかしら…」

と、ナナリーがあれこれと考え込んでいると、ダイニングと続きになっているリビングの方から彼女らの母、マリアンヌが現れた。
嫌だ嫌だと文句をいいつつも、スーツをかっちりと着こなし、しっかり化粧まで終えており、出勤準備は万端だった。

「おはようございます、母さま」
「おはよう、母さん。また、徹夜でもしたんですか?」

マリアンヌが頭を抱えてナナリーの斜め向かいの自分の席に着くと、ルルーシュがことりと、熱いブラックコーヒーが入った母のマグカップを彼女の前に置いた。 そんなルルーシュの顔はどこかあきれ顔だ。

「ありがと、ルルーシュ。だって、犯人が気になっちゃって。でも読んで損したわ。私が思ってた通りの展開で、予想を裏切ってくれないんだもの!」

まったく身勝手なことを言いつつ、マリアンヌは「あー、おいしい」とルルーシュが入れたコーヒーをすすった。
その若々しい美貌とどこか無邪気な言動は、とてもではないが高校生と中学生の娘を持つ母親には見えなかった。

「いい加減、寝る直前に読書をする癖を直したらどうですか?」

ルルーシュは自分の分のマグを片手に、もう一方の手に2人分のスクランブルエッグと一人分の目玉焼きを持って席に着いた。
ルルーシュが皿を置くと、ナナリーとマリアンヌは自分の皿を引き寄せた。
そして、ナナリーはルルーシュが席に着いたことを確認すると「いただきます」と行儀よく手を合わせてサラダに手をつけた。

「あら、ルルーシュには言われたくないわ。ルルーシュだって、同じじゃない」
「これに関しては、私もお母様と同意見です。お姉さま、よく徹夜で本を読んで学校で貧血になってるじゃないですか」

二人にずばずばと言われて、ルルーシュは閉口した。
どんな反論をしても二人にかなわないことを、ルルーシュは経験から知っていた。
いつも姉妹に間違われるほどよく似た面ざしをしていマリアンヌとルルーシュだが、確実にマリアンヌの性格を引き継いだのは妹のナナリーと、ここにはいない弟のロロだとルルーシュは思っていた。

ルルーシュ・ランぺルージ。
アッシュフォード学園に通う、高校二年生。
学園では生徒会に所属し、副会長を務めている。お祭り好きの生徒会長は雑務を放り投げているので、生徒会は副会長がいないと立ち行かないと言われている。
学園での人気は絶大で、男女問わずルルーシュに憧れたり、好意を寄せるものが多い。また、学内だけでなく学外にもファンが少なからずおり、本人のあずかり知らぬところで『アッシュフォードの白百合』と呼ばれている。
成績はそこそこ。試験の成績は学園史に残るほどの優秀なものだが、授業を受けたり受けなかったり、授業中はずっと居眠りをしていたりと、その他の面が足を引っ張りで成績表につく成績はそこそこのものになっている。
また、運動全般が苦手だが、幼少時から親しんでいる馬術のみは得意。
家族は、母と中等部3年に妹と弟が一人ずつ。
マリアンヌは、未だに驚異的な美しさを誇り、大抵ルルーシュと姉妹に間違われる。
やればできるが仕事の方がおもしろいようで、今では家事一切をルルーシュが取り仕切っている。
マリアンヌは、学生時代には馬術大会で優勝した経験もある人で、子供たちは幼いころから馬術だけはきびしく教えこまされた。
そんな母は、若々しく美しく、いまだ異性からのアプローチが絶えない。
父親について母が語らないため、真相はいまだ闇の中。
まことしやかに父親だといわれる人や、マリアンヌと親交があるその人の子どもたちとも付きあいがある。
兄弟は妹と弟が一人ずついるが、弟は現在家で同居していない。
弟のロロは、母に武者修行と、中高一貫の全寮制学校、ブリタニア学園の放り込まれ、長期休暇中しか帰ってこれない。
非常にシスコンのロロは、何が何でも行かないと言い張ったが、怒らせればとてつもなく恐ろしい母を前にブリタニア学園へ行くほかなかった。
そのため、家にいるのは、母と妹のナナリーだけだ。





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