「で、めでたし、めでたし。みーんな貴方の思う通りですか?」 

伯爵位を持つとはいえど、皇族への言葉としては無礼な口調でロイド・アスプルントは、己の直属の上司を窺った。

「何が、かな? ロイド」

しかし、話しかけられたシュナイゼルは咎めることもなくロイドへと向きなおった。
ロイドはとぼけた返事をするシュナイゼルに目を細めた。

「だから、今回の中華連邦のことですよ。聞きましたよ。ルルーシュ様、皇位継承権を放棄されたんでしょう?」
「耳が早いな」

執務途中の休憩か、紅茶を傾けるシュナイゼルは穏やかに笑った。その表情には微塵も動揺が見られない。

「ペンドラゴン中の噂になっていますよ」
「都の人間は噂好きで困ったものだね」
「ふつーだと思うんですけどねぇ」

ゆったりとソファに腰掛けるシュナイゼルの姿は、とてもくつろいでいた。表面的には、ロイドがシュナイゼルと出会った頃と変わらない。
だがある時を境に、その内面が非常に空虚になってしまったことをロイドは知っていた。

「……中華連邦内部の腐敗を憂えていた、黎星刻。けれど、彼には大宦官に対抗する術がない。貴方はルルーシュ様を与えることで、大宦官に匹敵する力を与えてやろうとした。そう、末端とはいえブリタニア帝国の皇位継承者の外戚という力をね」

ロイドがとうとうと続ける言葉にも、シュナイゼルの表情は動かない。

「けれど、ルルーシュ様をどうするか、間にできた子供をどうするかは彼に任せた」
「それで?」
「貴方はゲームが大好きな方だ。元々、大宦官たちの策略に乗ってやったのは貴方だ。貴方にとっては、大宦官かこのまま中華連邦を支配しようが、黎星刻が彼らを打ち取って綱紀を改めようが、」

言葉を切ったロイドにシュナイゼルが向きなおる。

「どーでもよかった」

違いますか? とロイドが聞けば、シュナイゼルがようやく紅茶をテーブルに置いた。

「ひどいな…私はそんな風に見られているのか」

聖人然とした表情だ。今だって、傍から見れば風変りな部下を受け止めるできのいい皇子にしか見えない。

「もちろんですよ。私には、あなたが聖人になんて見えませんからね」

その仮面を壊してみたくて、ロイドは続けて質問をした。

「でも、星刻殿ところへ送る花嫁をルルーシュ様にしたのはどうしてですか? 例え後見がいたとしても、もっと皇位継承権の低い皇女を出す方が自然だ」

後見役がいないとはいえ、ルルーシュの継承順位は十七位。百人以上いる継承者の中では非常に高い。

「…マリアンヌ様と同じ境遇にさせかったんですか?」

シュナイゼルの瞳がすっと微かに細められた。それが、ロイドにとっては答えだった。

「そうだとしたら残念でしたね。ルルーシュ様は宰相に任じられた星刻殿とそれは仲睦まじく生活していらっしゃるらしいですよ。お子様も、もうすぐお生まれになるらしいですし…。皇位継承権を放棄したのも、その幸せがあるからじゃないですか?」

だんだんと苛々している雰囲気が漂ってきて、ロイドはにんまりと笑った。

「まっ、私にはどーでもいいんですけどねぇ」

そう言って、ロイドは言葉を切った。

「失礼いたします、殿下。ルルーシュ様から…」

そこでタイミングよくカノンが部屋に入って来た。

「殿下?…それに、ロイド?」

室内に漂う冷たい雰囲気に、カノンはいぶかしむ様な声を出した。

「いや…なんでもないんだよ、カノン。で、ルルーシュがなんだい?」

ロイドは鼻歌を鳴らして、余っていたカップに紅茶を注いでいる。
二人に緊張する雰囲気が流れることは多々あったので、カノンは気にしないことにした。

「ルルーシュ様…というか、御夫君の黎宰相からですが、ルルーシュ様が男の子を無事ご出産なされたとのことです」
「そうか…」

息をついたシュナイゼルの姿は、まるで彼自身が父親かのような態度だ。
そんな様子を横目で見たロイドは、もしかしたらシュナイゼルは、負の感情からではなく、自分がいないところで彼女本来の姿のまま生きさせてやりたいという父親のような正の感情からルルーシュを星刻のところへ送ったのだろうかと考えた。

(まぁ……僕には全く関係ないんだけどねぇ)

贈り物は何がいいか、と思案するシュナイゼルの声は、本当に楽しそうなもので、何時までもあれこれと悩む声が執務室には絶えなかったのだった。


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