「スザクさん」
「ナナリー」

我らが総督殿は、今日も今日とて政庁にある花園でくつろいでいらっしゃる。 互いに公務がひと段落すると総督とスザクは必ずここで語らいあっている。
花々が咲き乱れる中、皇女と騎士が親しく語らう。
その姿は、世の人々が想像する皇女と騎士の姿そのものだ。

「ナナリー、大丈夫かい?」
「ええ、私はまったく。それよりスザクさんの方が…」

けれど、笑い合い、気遣いあっている二人を見ると段々いらいらしてくる。
特に、総督殿のその表情を見ていると本当に沸々と怒りがこみ上げてくる。

どうして、どうして、貴女が生きていらっしゃるんですか?

その白く細い喉元に手をかけ、問いかけてやりたい。

9年前、ブリタニアが総攻撃をしかけた際に日本にいたナナリー皇女。
当時の日本との戦場を見たわけではなかったが、恐らく他のエリア制圧時とあまり変わりはないだろう。 いや、ナイトメアフレームという圧倒的兵器がブリタニアのみのものだったのだから、その戦場は今よりももっと悲惨なものだったろう。
そんな状況で、目も見えず、歩けもしない少女がたった一人生き抜くことは不可能だ。
ならばなぜ、総督殿は生きていらしたのか。

答えは一つだ。
総督殿を心底大切にしていらっしゃった、あの方がいたからだ。

総督殿が生きていると聞き、まっさきに確認したことはあの方の安否だった。
より生きている確率が低かった総督殿が生きていたのだ、あの方だって…。
だが、返って来た答えは『行方不明』というものだった。 総督殿はアッシュフォード家が保護したが、あの方は行方がわからいというのだ。
あの方は、荒廃した戦場の地で総督殿を安全な場所に隠すと、自ら助けを求めて再び廃墟と化した町へ戻り、それ以後姿を消したらしい。 子供とはいえ、ブリタニア人。
戦禍が色濃く残る土地で、ブリタニア人が一人出歩いていて考えられることは一つだ…。
子供の頃とは違って、自分の手には強大な権力がある。
だから、諦めきれずにありとあらゆる手段を使って、あの方の行方を捜索させているがなんの手がかりもでてこない。
部下たちからの報告に何度となく絶望する毎日。
あの方が生きている可能性は限りなくゼロに近かった。

あの気高さに恋をした。
その優しさをいつしか愛していた。

「お姉さまが見たら、喜ぶでしょうね」
「…そうだね」

総督殿が、クロヴィス殿下がアリエスの離宮に似せて作った花園を見渡すように首をめぐらせた。
スザクは少し言葉に詰まりながらも、同意を示す。

ああ、そんな顔で笑わないで下さいませんか、総督殿。
あの方に心底愛され、守られてきた皇女殿下。
その命を、あの方を犠牲にしてつむいだ貴女。

ねえ、総督殿。
あの方は、ことのほか貴女を慈しんでいた。
ご幼少のみぎりから、心からの表情を見せるのは何時だって貴女が一緒のときだった。
貴女が心底、うらやましかった。
だけれど、あの頃はそんな貴女を憎んでなどいなかった。

ですが、ね。

あの方が命まで懸けてしまう、貴女の存在が今は憎い。

例えあの方が生きていらしても、芽生えてしまった貴女への憎悪は消えないでしょう。
だから例えあの方に恨まれようと、いつか貴女を手にかけてしまうでしょう。
あの方にとって、貴女以上の存在になれる者なんて誰一人いない。 それならば、あの方から焦がれるほどの憎悪を一心に浴びたい。

それが果たされるのが煉獄の地であろうとも、貴女へ以上の感情であの方に思われるならば本望です。 あの方が向けてくれる感情ならば、何だっていいんです。

「スザクさん」

だからね、総督殿。

その時は、私が静かに研いでいる牙が貴方に向かうその時は。
どうぞ、お覚悟ください。


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