ラクスがキラを見送りブリッジへ戻ろうとする道すがら、カガリに呼び止められ、彼女が最終決戦へと赴くことを提案された。
いや、もうそれはカガリの中では既に決定事項であったので提案というより、むしろ報告のようなものだ。

「カガリさん…ですが…」
「戦えるのは一人でも多いほうがいいだろう?それに守られるだけといういのはは性にあわん」
ラクスは不安な顔をして、カガリを止めようとする。
だがすぐに、彼女にそんな諫言をしても無駄であるということを思い出して、苦笑する。
一度言い出したら決してその意志を曲げないところは、ラクスが魅せられたキラにそっくりだ。
確証がなくとも、そんなところに姉妹の面影が見つけられる。

「それにアイツのあの様子…。あんな状態のアイツを艦で見守ることしかできないなんて、それこそ心配が私を殺すぞ」

カガリがアイツと言ったのはキラのことだ。
キラは先日、コロニーメンデルから帰ってきてより様子がおかしい。
一人で物思いに耽ることが多くなって、つらそうな顔ばかりをつくる。
そして、そんな様子を努めて周囲に気取られないようにしているから余計に心配がつのる。
約一年前より格段にうまくなったポーカーフェースのお陰で、あまり分からないが、それでもカガリやラクス、アスランにはお見通しであった。

「助けを求めてくるなら、いくらだって力になるのにな…」

カガリは寂しげにそう呟く。
今までのカガリであったなら、そんな顔をしているキラを見たら問答無用でそのことを聞き出していただろう。
カガリのそんなお節介は時に必要で、時に事態を好転させるのだが、全てがそうなるとはいえなかった。
そして、カガリは今回の戦いで、それをしっかり学んでいた。
色々な、本当にたくさんのコトを経験して今に至ったキラを悩ませることとは、よほど大きなことなのだろう。
そんなことを他人に干渉されたくはないはずだ。
だからカガリは今回はキラが助けを求めてくるまでは傍観しようと決めたのだ。

「ええ…」

カガリの言葉にラクスも頷く。
だが、その顔は晴れない。
実はラクスは知っていた、何がキラをそこまで悩ませているのかを。
コーディネーターの闇に葬られた歴史を、次代を生きていくものとして洗いざらい調べていた時にその真実を見つけてしまったからだ。
だから、きっとキラはどうしてもカガリ、そして―彼女にとって最も大切な存在である彼には決してその真実を打ち明けないだろう、と予期していた。
それにラクスには心配事がもうひとつある。
先程、ラクスがキラを送り出した時に、キラはこんなことを告げた。

『生きて戻ったら、ラクスに頼みたいことがあるんだ』

ラクスは「なんなりと承りましょう」と答えたが、それを告げた時のキラの表情があまりにも儚いもので、このまま戦場へと送り出してもいいのかと不安で胸が一杯になった。
それに、例え生きて戻って来ても、告げられる頼みごとがなにか良くないもののような気がしてならない。

「あの方のお幸せをお祈りしていましたのに…」

ラクスは悔しそうな顔をして呟いた。
それを聞いたカガリはラクスと同じような顔をしたが、すぐに表情を明るいものに切り替える。

「いや、アイツは幸せモノだぞ。こんなにアイツを思う私たちがいて、アイツしか目に入ってないアホだが、アイツが惚れ切っているアスランまでそばに居るんだぞ。これで、もしアイツが幸せを感じていないんだとすれば、私たちが叩き込めばいいだけの話だしな!」

カガリは拳を握って力説した。
さすがのラクスもその論少しばかり無茶のある理屈には唖然としたが、続いて久しぶりの飛び切りの笑顔になった。

「ふふっ…本当にそうですわね」

いまだ笑いを引きずりながらもラクスは答える。
そして、2人は顔を見合わせると互いに、にこりとそれはそれは晴れやかな笑みを浮かべた。


※T、U、Vと時間が遡っています。