新しい1日を告げる光が、暗く閉ざされたままのシンの部屋にも差し込む。
シンにとってとても長い夜がようやく明ける。
だが、シン自身はうつろな視線で遠くを見るばかりで朝が来たことにも気づいていない様子だ。
(”サクラを守る”って…俺…誰から守ればよかったかな)
いつかタリアやアスランに対して言った言葉が蘇るが、果たしてシンはそれを実践できていたのだろうか。
物理的な攻撃を仕掛けてくるオーブ軍から?
サクラが引き取られる予定だった人を殺した地球軍から?
それとも。
サクラの真実の両親を殺そうとしていた自分自身から?
(俺…なのかな…)
今さらながらにシンの胸のうちには、在りしのアスランから何度も言われた言葉が繰り返される。
『なら、お前は間違うな。守りたいものがあるなら、守り通せ。後悔などしないように、な』
守り通したかったけれど、守れなかった。後悔などしたくなかったから守ったのに、結局は守ったことがサクラから両親を奪ってしまった。
『自分の力をもっと自覚しろ。…でないとその力…いつか自分にはね返ってくるぞ』
ああ、跳ね返ってきたよ。自分の力で奪ったものが、そのまま守りたい者から大切な者を奪ったよ。
『いいかシン。確かに、オーブでの時も、あの地球軍の少女の時も、お前は被害者だった。だがな、シン。お前は他では加害者だ。 もうお前は誰かを悲しませる立場に立っているんだ!』
ああ、そうだよ。アンタの言っていたことが分かったよ。
やっと分かったよ、自分が撃つ者が誰かの大切な者であるかもしれない。
そして、それを奪った俺は”加害者”―誰かを悲しませているんだって…。
シンはずっと分かっていなかった。
自分が屠る敵という名のMSにはパイロットが乗っていて、彼らは自分がサクラを守っているように、誰かを守っているということを。
そして、パイロット達は誰かの大切な人だったかもしれなくて、自分はその人たちを苦しめていることを。
知識では知っているはずだった。
けれど、その言葉が持つ本当の意味を知ることは今の今までなかったのだ。
いや、機会ならいくらでもあったが、シンはそのことに全く目を向けないでいただけだ。
(俺が…奪った……)
たくさんの機体や戦艦を壊して、たくさんの人々を屠ってきた。
地球軍、オーブ軍、メイリン……アスランと”フリーダム”。
地球軍には知り合いなんていないけれど、オーブ軍の中にはシンが知りえる人がいたのかもしれない。
シンが家族を失ってしまった時に親身にしてくれたのは、オーブの軍人だった人だ。
その人すら知らず知らずのうちに奪っていたのかもしれない。
シンを常に姉のように見守ってきてくれたルナマリアからは妹のメイリンを奪った。
そして、サクラからは。
真綿にくるむようにして傷つけないようにしたかったサクラからは、真実の両親を奪ってしまった。
(俺……)
シンが欲しかった、望んだ世界はもう目の前に迫っている。
その道を邪魔していたフリーダムはすでにシンが撃ち取り、あとは残った地球軍の上層部を抑えればいい。
けど。
そうしてできた世界はシンが望んだものであって、真実望んだものではない。
シンが望んだのは、サクラが平和に暮らせる世界。
サクラが笑っていられる世界だった。
だが、このまま世界が平和になったとしてサクラは笑い続けるだろうか。
いつかシンが自分の両親を撃った仇だと知った時も、幸せに暮らせるだろうか。
サクラだけではない。
大切な人を戦いで奪われた人々にとって、その後の平和な世界などなんの意味があるだろう。
例え世界から争いがなくなっても、大切な人がいない日々はただの空虚なもの。
何の意味もない―。
それは誰よりシンが一番よく知っている。
3年前のオーブ侵攻で家族を亡くしたシンが他ならない当人なのだから。
(同じことしてた…)
シンは今さらながらに気づく。
何よりも誰よりも憎んだ、自分から家族を奪ったモノたちと自分は同じ事をしていたのだと。
今なら分かる。
アスランが何度も自分に警告していたのはこのことだったのだと。
いつか自分が、こうして大罪を犯してしまう前に悟らせようとしていたのだと。
それでもアスランの訓示は結局は、シンを止めることなど出来なかったのだ。
(ゴメン…ルナ、アスラン…サクラ)
自分が信じていたもの、進もうとしていた道は結局は守りたい者を傷つけることしかできない。
長い長い夜が明ける頃に、シンがたどり着いた一つの答えはそんなものでしかなかった。
けれど全てが動き出した今、シンの思い一つで何かが変わることはないとシン自身でさえ悟っていた。
シンの心の朝は、いまだ訪れることはなかった。
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