「あ、あの…」
メイリンは目の前で「まったく…アイツのどこがいいのか…」と娘を嫁に出す父親のような独り言を続けながら、酒を飲むがごとくコーヒーカップを傾けるオーブの代表首長におずおずと切り出す。
それに対して彼女―カガリは「あ……」とメイリンの存在を忘れていたかのような声を出した。
医務室の入り口でおろおろとしていたメイリンをこの食堂まで連れてきたのは当の彼女であるというのにだ。
「すなまないな。アスランの看病してくれてたのに……」
「いいえ!そのことは全然構わないですけど…」
苦笑しながら、カガリは謝罪を口にした。メイリンは恐縮したように、否定の言葉を大きく上げる。
だが「…けれど…」と続けた。
「あの…立ち入ったことお聞きするようで…あれなんですけど…あの……」
視線を左右にめぐらせて言いよどむメイリン。彼女の脳裏には、先程見た光景がよぎる。
アスランのためにと、それまで居たらしいもう1人の病人を別の部屋に移したアークエンジェルの医務室。
彼に庇ってもらったお陰でかすり傷程度で済んだメイリンは、そこでこの1日つきっきりでアスランの看病をしていた。
自分も怪我人なのだから休んでいろ、との優しい言葉をアークエンジェルのクルー一同にかけられたのだが、ここまでの怪我をアスランがしたのは半分は自分の責任だからと、メイリンは自らその役をかって出たのだ。
アーエクエンジェルのクルーたちはメイリンを何も言わずにこの艦にアスランと共に迎え入れてくれた。
だから精一杯、自分にできることをしようと思ったのだ。
「キラ…いや、あの2人のことだろ?」
カガリは彷徨うメイリンの視線から彼女が何を言いたいか悟り、そう言って笑った。
(キラ―――それがさっきの人の名前…)
メイリンは自分で決めたとおり、アスランの看病を行った。
とは言っても、ただ側でみていることしかできなかったのだが、ずっとアスランの側についていたのだ。
その間、何人かのクルーが医務室を訪れてアスランの様子を見に来たが、情勢がバタバタとしている今そう時間はないようですぐに戻ってしまった。
だからほとんどの間、メイリンは意識のないアスランと医務室に2人きりで室内は静寂で満たされていた。
けれど、メイリンが少しばかり医務室を離れている間にその空間は確かに変わっていた。
「アスラン…アスラン…」
と切なげに空気を振るわせて、ベッド脇に縋りつく人がいたからだ。
目を覚まさないアスランの頬に手をやって静かに、けれどありったけの想いを込めたと分かる声音で彼の名前を呼ぶ人。
医務室への扉を開いた音がしたのだが、その人はまったくメイリンの存在に気づかないようだ。
メイリンは扉を開けたまま、医務室に入ることを躊躇してしまった。
その2人の空間に他者が入り込むことはとてもいけないことのように思えてしまったから。
だからメイリンは廊下で立ち尽くしてしまい、そこにちょうどカガリが来たのだ。
カガリはそのメイリンの様子だけで医務室がどうなっているのか分かったのか、メイリンに手振りだけでついてくるように言った。
そしてメイリンは食堂に連れてこられて、カガリと向かい合わせに座ってコーヒーなんぞを飲んでいるのだ。
「…私が言ってしまっていいのか分からんのだがな…」
メイリンはカガリの質問に返答をしていはいなかったが、カガリは沈黙は肯定と受け取ったようで話の続きを言葉にする。
それがメイリンにはありがたかったが、それは続きを聞くまでの間だけだった。
「だが、ここに居れば自ずと分かることだから言ってしまうぞ」
カガリはそう言って、少し困ったようにメイリンに告げた。
「キラ、はな…フリーダムのパイロットで、アスランの恋人だ」
『アスラン…』
キラ―?
真っ白な世界。
自分が目を開いているの閉じているのか、それすらも曖昧な世界。
ただ聞こえるのは、声。だけ。
誰より求めた、声。
それだけがアスランを支配する。
『ありがと、アスラン』
『あの船には友達が…友達が乗ってるんだ…!』
『アスラーーーンッ!!!!!!』
『そんなこと言ってると、ホントにやってもらうよ… 』
『ありがとう…』
『ごめん…これでホントのサヨナラだから…』
全てが曖昧。
けれど声だけは鮮明。
そして―アスランは一際綺麗な、彼の求める言葉を聞いた気がした。
『……好きだよ…誰より君が……アスラン。だからお願い…どうか、その目を覚まして…』
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