「どうして…!!」

とりあえずルナマリアはサクラを自室に入れてしっかり扉をロックした。
サクラは突然顔色を変えたルナマリアに驚いた顔をしていたが、胸に抱いたハロをギュッと抱きしめてルナマリアの「ちょっと待ってて」という言葉に従いおとなしくベッドの上にいた。
ルナマリアはミネルバから持ってきた荷物の奥深くに隠していたあの写真を取り出す。

『敵か見方か分からない面々と会う許可を与えて、後からそれが何処からか漏れて問題になった時、こんな証拠でもなければ彼を無実の罪から救うこともできなくなるから…』

タリアはアスランが疑われているのかというルナマリアの問いにそう答えたはずだ。
だが、アスランがスパイだと疑われるような事実はルナマリアが知る限りこれだけだ。
ならルナマリアの知らぬところでアスランはスパイだという証拠が挙がったのかもしれない。けれどそれは考えられないことだ。
ルナマリアはアスランをよく知っている。いや、このカーペンタリアからジブラルタルまでの航路を共にして彼はそんな器用なことをできる人ではないと知った。
過ぎるほどに真面目なアスランにはスパイなんて到底無理だ。
ならばこれは自分が撮った写真が原因の濡れ衣。

「どうすれば…」

だが今ルナマリアにとって重要なのは過去を悔いることではない。
どうすれば、アスランの濡れ衣を晴らすことができるか、それが重要だ。
ザフトにおいてエリートと称される紅の制服を纏うルナマリアだが、所詮は末端の兵士。
フェイスに叙されてでもいない限り、命令をくだせる権限などはない。

「そうだわ!議長に…!」

ルナマリアが咄嗟に思いついたのはアスランをかっているデュランダルのことだった。
デュランダルならばきっとこれが濡れ衣だろうと分ってくれるだろう、そうルナマリアは考えた。本部が動いているのは知っているが、いくら本部のお偉い方だろうとプラントの評議会議長には文句も言えまい。
しかし、名案が浮かんだとしてもルナマリアには直接デュランダルへ連絡を取れる手段などあろうはずがない。 がっくりと肩を落としたルナマリアだったが、その時、誤送されたアスランへの手紙が目に入った。

「この人なら…」

ルナマリアは藁にも縋る思いでその手紙を手に取る。
『ルイーズ・ライトナー』
前評議会議員であるこの人なら。
必ずしもデュランダルと繋がりがあるとは限らない、けれど何もしないよりはましだった。
ルナマリアは心でアスランに無断で彼宛の手紙を開けることを詫びて、手紙の封を切った。

「何これ…?」

封筒から出てきたのは便箋が2枚と何故か端末用チップだった。
一見何の変哲もないように見える内容だが、問題は2枚の便箋だ。
普通、手紙を書くならば紙が2枚になったときには同じ便箋を使って続けるはず。しかし、ここにあるのは1枚は外側の封筒と対になるもの、もう1枚はどう見ても様相がそれとは違う。
だからルナマリアは思わず訝しげな声を挙げてしまった。けれど、すぐにそんなことではない、とその中からこの手紙の送り主―ルイーズへ直接連絡できる情報を探した。

『アスラン、変わりはありませんか?先日、あなたが軍に戻ったと聞きしました。
私が口を挟むことではありませんが、あなたが決めたことをどうぞ最後までつらぬいてください。 ただ、どうかご自分をいつくしんでください。
プラントは、あなたがいらした頃と変わりません。お屋敷もあなたの帰りを待っていますよ。
どうぞプラントに帰るときは、私のところにもおよりくださいね。
お話相手がこんなおばあちゃんで申し訳ないけれど、レノアの話をさせて頂戴ね。                   ルイーズ・ライトナー』

「これだけ…?」

1枚目を読んだルナマリアは呟く。
おそらくルイーズ直筆のものであるだろうが、彼女自身へ直接連絡をつける情報などこにも書いていなかった。
だが、それでもルナマリアは諦めなった。もう1枚残っていた便箋に目を通し始めた。

『お前に”天使からの贈り物”があってな、今回ルイーズ女史に頼んだ。ま、念には念をな。
お前が死ぬほど知りたかったことだと。言っておくが俺は見てないぞ。
あんまりお前らが意地を張るからお節介したくなったんだと。それ見て、今後の身の振り方考えろって伝言だ。
それとな、ディオキアで言ったことを覚えているか?いいか、あれを忘れるな。
それがお前の命取りにもなりえるからな。
とにかく、俺は頼まれたことはやったぞ。後はお前しだいだ』

ルナマリアの期待とは裏腹に今回もルイーズに関わる情報はまったくなかった。
しかもこちらはルイーズとまったく別人が書いているようである。

「嘘でしょう…?」

ルナマリアは泣きたいような気持ちで情けない声をあげた。
軍の上層部にいった写真が原因なのだから、タリアに事情を話してデュランダルへ連絡してもらうことなどできるはずもない。
タリアはデュランダルとは旧知の仲らしいが、軍部の命令系統に組み込まれたタリアでは駄目なのだ。
直接、デュランダルへとこのことを知らせることが重要になってくるのに。

「これでホントに最後」

ルナマリアは最後の希望を託して、チップを端末に組み込んだ。
だがすぐにルナマリアの顔色は変わった。

「もうどうしろって言うのよ…」

端末はチップを読み込んだが、画面にはパスワード認証のウィンドウが出てきてしまったのだ。 しかもウィンドウにはパスワードを入力する欄しかなく、なんのヒントになるようなことも書かれていない。
ただ黄緑色をした鳥の形をした画像がパスワード欄の一番前に描かれているだけ。 ルナマリアは試しに”アスラン”や”キラ”と打ち込んでみたが、全て弾かれてしまう。
もうどうしようもなかった。

「あ、トリィちゃん!!」

だが、うなだれるルナマリアの直ぐそばでサクラが叫ぶ。
いつのまにかサクラはルナマリアの側に来ていたようで、画面を見ながら嬉しそうな表情をしていた。
サクラの声に、ルナマリアは映し出されている画面をみたがサクラが喜ぶような画像はどこにもない。

「トリィちゃん?」
「うん!これトリィちゃんなの!」

サクラは首を伸ばして見ていた画面をぴょんぴょん飛び跳ねながら指して言った。
ルナマリアはそんなサクラを抱き上げて、よく画面が見えるようにしてやる。

「これ!これトリィちゃん!!」
「これが?」

サクラが指したのは先程ルナマリアが気になった黄緑色の鳥の画像。
「まさか…」とルナマリアは思った。
だが万策尽きた今、試してみる価値はあるかもしれない。

「サクラ、これって”トリィ”でいいのね?」
「?うん。”トリィ”ちゃんっていうの」

ルナマリアはサクラにもう一度、確認すると、サクラを膝に乗せたままパスワード欄に”トリィ”と打ち込んだ。