「いったいなんなんだろ…」

メイリンは妙にざわめく基地内の雰囲気に首をかしげながらここで与えられた部屋に戻って来ていた。
先日、デュランダルの演説を見た地球軍の一部がこのジブラルタル基地に賛同を表明して集まってきているとは聞いていたが、それとは違った雰囲気だ。
それに何とはなしに嫌なものを感じるメイリンは足早に部屋に入ると、その原因を調べるためすぐに端末のある机に飛びつく。
その時、勢いづいて部屋に入ったものだから扉が盛大な音をたてて閉まる。

「あ……!」

メイリンが閉まる直前の扉に気づいた時と同時にそれは音を立てた。
バタンッ!と閉まった扉の音にメイリンは一瞬首をすくませると、おそるおそる端末の机と丁度反対側にあるベッドの上を見る。
そこには、お気に入りのハロぬいぐるみを枕にしてすやすやと寝息をたてたサクラ。
シンとレイがどちらもサクラを見ていることが出来ないため、メイリンがサクラを2人の用事が終わるまで預かることになったのはミネルバがジブラルタルに到着してすぐのこと。
常であればその役目はルナマリアが引き受けていたが、つい先日のことがまだ尾を引いているようでメイリンが自分が預かると申し出たのだ。
もうすっかり遊び相手としてメイリンを認識しているサクラは手放しでメイリンと遊べることを喜び、昼前から夕刻まではしゃぎとおしだった。
けれどやはりはしゃぎ疲れたのか、夕刻を過ぎると睡魔が襲ってきたようで、すやすやと昼寝とも夕寝とも言えぬ時間に寝入ってしまった。
そしてサクラが寝入ってしまった後、メイリンは所用のため一端部屋を出て今戻ってきたのだ。
今立てた扉の音がサクラを起こしてしまったのではないかと危惧したメイリンだったが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。
メイリンは安堵の溜め息を付いて、気になった現在の基地のことを調べようと端末に向かった―と。

「アス…むッ!!」
「ごめん…っ。ただ外に出たいだけなんだ…静かにしてくれ…」

ひとりでに扉が開いたと思ったら、ずぶぬれのアスランが突然あらわれた。
メイリンは驚いて大声を上げそうになったが、当のアスランに口を押さえられて彼の名前を呼ぶことはできない。
懇願にも似た口調でそう言われたメイリンが静かに頷くと、アスランは少しだけ表情を緩めてメイリンの口元を解放した。
手を離したアスランは外の様子を窓から伺う。

「追われてるの……どうして…?」
「そんなことは後からレイにでも聞いてくれ」

外を伺うアスランは先程の少し緩めた表情ををすぐまた緊迫したものに戻し、メイリンの疑問にも少々荒っぽく答えた。
更に言い募ろうとしたメイリンだったが、それは乱暴なノック音に遮られた。

「本部だ。室内を検分したい。ドアを開けろ」
「メー…ちゃー…ん?」

扉の向こう側にいる相手にアスランは軽く舌打ちしたが、それに続いて聞こえてきた声に驚き、その声の主へ目をやる。
ここからどうやって脱出するかで頭が一杯になっていたアスランはもう1人のこの部屋の住人にまったく気がついていなかった。

「サクラ…」
「あれ…ア、シュちゃん」

サクラは目をこしこしと擦りながら、眠る前にはいなかったアスランの姿を認めて嬉しそうに笑った。
だがその間も扉を叩く音は止まない。
このまま何の答えも返さなければすぐにでも追っ手が部屋に無理矢理入ってくることはアスランに用意に想像できた。
それではまたサクラにいらぬ恐怖を与えてしまう。
そう思ったとき、アスランはもう言葉を紡いでいた。

「俺が出たら声をあげろ。銃で脅されていたとでも言えばいい」
「え…でも…」
「メーちゃん?アシュちゃん?」

アスランの言葉に戸惑うメイリン。
何が起こっているのか分らないサクラはキョトンとした顔でアスランを見つめる。
アスランはその視線に気づいて、安心させるようにサクラに向けて微笑んだ。
メイリンは自分がどう行動すべきか混乱する頭の中で必死に正解を探していたが、目の前で幼い子に微笑むアスランの姿を見て正解を探すことを止めた。

「こっち!サクラちゃんも」

決意を秘めた瞳をしたメイリンはアスランの手を取ると、まだベッドの上にいたサクラを呼ばわった。