「はあ…」

ようやくたどり着いたジブラルタル基地でルナマリアは日用品の買い物に出かけていた。
常であればつかの間の休息だと嬉々として買い物に出かけるのだが、今回ばかりはそんな気分ではなかった。
それでも気晴らしになれば、とジブラルタル基地内に設置されたショッピングモールに来てみたが、耳には何度もアスランの声が繰り返されていた。

『キラは…幼馴染で…恋人…だ』

”キラ”という人がアスランの恋人なのだろうと予想はついていたことだったが、まさかその人がフリーダムのパイロットと同一人物であるとは夢にも思っていなかった。
あの爆発だ。とてもではないがパイロットが生きているとは思えない。
そう思ったからこそ、アスランだってあの時にあれほど激昂したはずだ。
ブリーフィングルームで聞いた”キラ”という名前に、まさかと思い。シンに対する怒りでフリーダムのパイロットが”キラ”だと確信したルナマリアだから、シンの態度はあんまりだと思ったからこそアスランの代わりにその頬を張ってやったのだ。
もちろん、あんまりなシンの態度にルナマリア自身が我慢できなかったというのもある。
それからシンとは顔をあわせていない。
そしてアスランとも、その後、真実を告げられた時から会っていない。
だが、ルナマリアにはアスランに言わなければならないことがあった。

おそらくアスランが存在を知らないであろう、彼自身とあの人との子供のことを。

アスランの言動から、どう見てもアスランが子供のことを知っているとは思えない。
それに、ルナマリアが聞いたあの岩場でのオーブ代表と”キラ”は、”キラ”がアスランの元から去ったというようなことを言っていた。
だからルナマリアは憶測を立てた。
少なくともアスランと”キラ”はジャスティスとフリーダムが共闘していた先の大戦時までは共にあったが、その後なんらかの事情で”キラ”がアスランの元を去り、その間にアスランの子供を産んだ。 だからアスランは自分の子供のコトを知らない。

「伝えなくちゃ…」

プラントの民ならば誰もが知っているザラ家。
ザラ夫人はあの”血のバレンタイン”で命を落とし、前最高評議会議長のパトリック・ザラも大戦時に殺害された。
元々ザラ家には親類縁者が殆どおらず、現在ザラの姓を名乗る者は亡命した一人息子のアスラン・ザラ、だけだった。
それゆえ、ルナマリアは若くして天涯孤独の身となってしまったアスランには、想う者を失った今、自分の血を引く子供のことを伝えることが一番大切だと想ったのだ。

「ルナマリアー!」

と、1人心の中で決意を新たにしているところを相変わらず元気のいいヴィーノに呼び止められる。
駆け寄ってくる彼の手には何かが握られている。

「なあに?」
「珍しいこともあるもんだな。ルナマリア、自分宛の郵便物とってくの忘れただろ?」
「あ!」

ヴィーノがそう言いながらルナマリアに差し出したのは郵便物の束だった。
高度に情報化された昨今、郵便を利用する者は減るには減ったが、公的なものや重要な書類などは確実に相手に届けるためには郵便が利用されていた。
まさか郵便の配達員が軍内をうろつくことは出来ないため、ザフト軍では兵士宛てに来た郵便物を所属ごとに仕分け、それを各個人にとりに来させるという形態をとっていた。

「あーすっかり忘れてたわ。アリガト、ヴィーノ」

アスランのことを考えていて、基地に到着したら一番にやるべきことをすっかりルナマリアは忘れていた。
「どうってことないよ〜」とヴィーノは人好きのする笑顔を浮かべると、自分もこの場に買い物に来たのだろう、目当ての店へと消えていく。
それを見送るとルナマリアは手元の束に目をやる。
ここで一通り差出人を確認してしまおうとしたからだ。

「えー、と。これは銀行、これは軍からで……え?」

相変わらずあまり代わり映えのしない差出人に表情も変えず、一通一通、確かめているルナマリアの目が驚愕に見開かれた。

『ルイーズ・ライトナー』

事務的な封筒が並ぶ中、柔らかな色合いのそれには、そう差出人が書かれてあった。
ルナマリアはその封筒を急いで、裏返しにして宛名を見る。
そこには「アスラン・ザラ」の名。
どうやらアスランの郵便物がルナマリアのところに紛れ込んでしまっていたようだ。
ルイーズ・ライトナー。
前評議会議員でもあり、先の大戦時ナチュラルに断固として強固な姿勢を見せるべきだと意見を述べてきた急進派の1人だった。
ルナマリアの記憶する限り、彼女のもまた、自身の親しい友人を”血のバレンタイン”で亡くしていて、それから急進派に回った者だ。
だが、先の大戦時の後半になってくると、ザラ前議長の行き過ぎる独裁に異を唱えて彼の元から離反。
その後、アイリーン・カナーバらのクライン路線を支持する立場に回り、臨時評議会にて停戦条約締結の為に尽力した。
現在は議員を引退しているということしかルナマリアは知らない。

「そんな人がなんで…」

疑問はルナマリアに残ったが、丁度アスランのところに行くことにしていたため、その時に渡そうと考えた。

アスランに子供のことを伝える。

それにはルナマリアがどうしてそんなことを知っているのかから説明しなくてはならないし、上司命令に背いたことが明るみにでればルナマリアにどんな処分が待っているかはわからない。
それでももう、ルナマリアの決心は固まっていた。