「止めろ、止めるんだ!キラ!!」

タリアが危惧したことは現実となってミネルバを襲った。
彼女の呼び出しからそう時間をおかず、オーブ軍と因縁のボギー・ワンをつれた地球軍は現れた。
すぐさまシンの乗るインパルスは出撃し、アスランや他のパイロットたちもそれに続く。 状況は先日のダーダネルスとあまり変わらなかったが、やはり数が勝る地球軍側が優勢であった。 だが、変化はすぐに訪れる。
大天使だ。
かの船は再び姿を表し、先日と同じようにオーブの代表とやらが自軍を引かせようとしたが無駄に終わった。 そしてオーブ軍はアークエンジェルやオ―ブ代表を名乗った者が乗るMSを攻撃しはじめる。
もちろんそれをアークエンジェル側が黙って見ているはずもなく、先日鮮やかな剣舞を披露したフリーダムが応戦してきた。また驚くことに、アークエンジェル自身もダーダネルスでは一番に攻撃をしたミネルバを庇いながら地球軍側に応戦したのである。これに戸惑ったのはミネルバの司令塔であるタリアだ。

「本当に戦いをとめたいだけだって言うの!?」

到底信じることのできなかったオーブ代表だという者の言葉を感情的な声でタリアは自問した。 だがそれよりも困惑を深めたのは、インパルスに続いて出撃していったアスランであった。
確かに彼はあれしきのことでカガリやラクスが引くとは思えなかったが、何よりも彼を打ちのめしたのは再び現れたフリーダムである。 アスランに彼女と戦う意思などあろうはずがない。
だからアスランは、先日に岩場で感じた恐怖とぐるぐると彼女に対して抱いた危惧を無視してフリーダムに通信を入れつづけた。
その間にもフリーダムはザフト、地球軍と関係なく自らに向かってくる敵を峰うちにしていく。 アスランはセイバーでことごとくそれを邪魔しつづけ、フリーダムを自身に引き付けさせた。
もちろん、フリーダムに向かって彼女の名前を叫びながら…。

「キラ!!もう止めてくれ!こんなことをしてももうどうにもならない!」

それは血を吐くように。
アスランとて自分が世話になり、顔見知りもいるオーブ軍と進んで戦いたいわけではなかった。
だが、仕方のないことだと、そう割り切るしかない。
オーブ、正確にはその裏にいる地球軍を止めなければ、自分の故郷ともいえるプラントが攻撃される。 それに戦争がこれ以上長引けば、先の対戦と結末を同じくするのは必至。
そう考えれば、良識的な指導者であるデュランダルがプラントを率いるうちに早期決着をつけさせて 講和条約を結ばせるのが、この戦争を一番早く終わらせられる道だ。
消えた特殊部隊が関わっていたラクスの暗殺未遂、作為的なユニウスセブンの落下。 例えこれらにデュランダルが関わっていたとしても、それを確かにする証拠がなければどうにもならない。
だからここで自分と彼女が争うなんてなんの意味もないことなのだ。 先日の岩場での邂逅よりずっと悩みつづけたアスランがおぼろげながら出した答えがそれだった。
なのに。

『…そ、だね…どうにもならないかもしれないね…』
「キ、ラ…?」

弱弱しいがセイバーのコックピットに響いたのは焦がれてやまない彼女の声。 夢にまで見た、キラ、の声。

『でも…僕はこのままにしておけない…』
「なにを…」

二言目の口調は初めの時と打って変わって、決意を秘めた力に満ちていて。
アスランはその声を聞くことに夢中になってしまったから気づけなかった。
いや、彼女が自分を攻撃してくることはないと思っていたからかもしれない。
なんにしてもアスランは目の前のフリーダムがビームサーベルをセイバーに向かって構えたことに 気づくのが一拍遅れた。

『ごめん…これでホントのサヨナラだから…』

フリーダムは鮮やかにセイバーの四肢を切り落とし、セイバーが重力にしたがって青い海原へ落下していく。
どうにもできず海に叩きつけられるのを待つしかないアスランの耳には、彼が一番恐れていた彼女からの“さよなら”が確かに響いていた。


「あ、シン!」

ボギーワンたちとの死闘をどうにか潜り抜けたミネルバ一行は、甚大な被害を受けたもののパイロットを一人も欠員することなくジブラルタル基地への航路を進めていた。
パイロットの中でも一番の被害を受けたルナマリアは片腕の打撲とその他裂傷などの傷を負ったが、命に別状は無く、レクルームにて彼女を心配していた妹のメイリン、ヨウランやヴィーノと談笑を楽しんでいた。
そして丁度そこへ彼女たちの話題にのぼった鬼神のごとき戦闘をやってのけたシンが現れたのだ。

「ああ、ルナ…。大丈夫だった?」

心ここにあらずといった風情のシンはルナマリアの呼びかけに、気のないふうに答えた。
シンの様子にルナマリアを始め、その場にいた者たちはいつものシンと違うことに首を傾げる。
常のシンであれば照れたようにながらも、自分の手柄を褒められると子供のように喜びに満面の笑顔を見せるからだ。

「そういえばさ…あの人…」

不思議に思うルナマリアたちを尻目にシンは自動販売機で自分の目的を達成することしか頭にないようで、周囲の様子にを気にもしていない。
そしておもむろに口を開く。

「あの人…?」

ルナマリアは鸚鵡返しにシンの言葉を呟いた。

「そう…アスラン・ザラ。あの人ってさ弱いよね…」

ルナマリアたちに背を向けているためどんな表情をしてそんなことを言っているのかは知れないが、その言葉は少なからず周囲に動揺を与えた。
それもそのはず。
アスランの乗るセイバーは先程の戦闘で、あのフリーダムに四肢を切り落とされて使い物にならなくなってしまった。
そのため、シンが言ったことはミネルバクルーの大部分の意見と一致していた。
だが、その場にいた中でメイリンだけがセイバー、いやアスランがフリーダムに攻撃を一つとして加えなかったことを知っていたためシンの言葉にどこか複雑そうな表情を浮かべる。

「ちょ、シン!」
「まあ、俺には関係ないけどさ…」

シンはそれだけ言うと、もうこの話は終わりとばかりに無理矢理会話を打ち切った。
ルナマリアはシンに対して言いたいことがあったが、レクルームに姿を現したレイに先を取られた。

「おい、シン。いつまでサクラを待たせとくつもりだったんだ?」

レイは腕にサクラを抱えながら少しばかり呆れた口調だ。
話の話題のサクラはといえば、いつものように可愛らしい笑顔を浮かべている。
だが、今日は常とは違ったことがあった。

「サクラ!っと、ごめん、レイ」

シンは今までの無表情はどこへいったのか、サクラが現れると最高の笑顔を浮かべてレイたちの元へ駆け寄る。
ここまではいつもの通りだった。
けれど。

「シーンちゃ」

鈴が転がるような、子供特有の甲高い声がレクルームに響いた。
その瞬間、シンとレイ以外の時間が一瞬止まった。

「サクラ、いい子にしてたか?」
「う」
「そっか、えらいぞ」

傍からみればとても和やかな風景が広がっていたが、次の瞬間、レクルームは周囲の絶叫に包まれた。