「どうすれば…」

サクラをレイに任せた後、ルナマリアはアスランとも分かれて自室に戻って来ていた。
そしてルナマリアの目の前には溜め息の原因である岩場で撮ったアスランの写真。
ルナマリアが聞いた内容は衝撃的なものばかりだ。
代表の口調から知れた何かしら問題を抱えるオーブの内情、未遂に終わったものの”ラクス・クライン”の暗殺がザフトの特殊部隊によって実行されたこと、そしてーアスランの恋人と思われる人の存在。
ザフトの軍人として、いや、プラントの住人の一人としてルナマリアが一番気にかかったことは無論あの場に登場した”ラクス・クライン”の存在だ。
彼女が”ホンモノ”だとすればルナマリアが接したラクス・クラインは偽者だということになる。
だが、いま地球のザフト軍基地を慰問している歌姫はデュランダル議長が全面的に信頼を寄せている存在だ。
人を見る目が確かなデュランダルが偽者などに騙されるまずはない。
そう考えれば、岩場の彼女が偽者だ。

「あーもう…」

考えがややこしくなってきたルナマリアは頭をかきむしって悪態をつく。
だが、ルナマリアにはある確信にも似た思いがあった。
あの岩場にいた、命を狙われたという”ラクス・クライン”こそ本当のプラントの歌姫なのだろうという思いだ。
ルナマリアがプラントの歌姫に対して抱いていたイメージは、”深窓の令嬢””守らなければならないプリンセス”といったものだった。
実際、ルナマリアに限らずプラントの大半の人はそう思っていたはずだ。
そう、彼女が先頭をきって第3勢力を立ち上げてザフト、地球軍の不毛な戦いを制した先の大戦までは。
ルナマリアが実際に聞いたわけではないが、彼女がヤキンドゥーエで全軍に向けて語りかけた言葉はザフト軍の中でも語り草だ。
凛とした意志の強い声音。
それはザフトの軍人が誰も想像しえなかった歌姫の声で。
けれど、その懇願とも取れる言葉は真摯で、プラントで平和を訴えていた彼女となんら変わりはなくて。
彼女の声を聞いた人々は、自分たちが歌姫と呼んでいた人が”裁きの女神”だったのだと。
その話を伝え聞いていたルナマリアは、先日ディオキアに現れたラクスに初めは憧れを持って接したのだ。
だが、彼女はルナマリアの想像していた彼女とは別人で、ルナマリアを失望させた。
そのルナマリアが想像していた人物像と岩場で見た”ラクス・クライン”はぴったりと当てはまる。

「一体どうなってるのよ…」

写真が広げられたデスクの上に頭を乗せて、ルナマリアはもう一つ、ルナマリア個人として最も気になることに思いを馳せた。
それはやはり、”キラ”という人のことだ。

『戻れないんだ…もう彼に会わせる顔がない…恋人としても、母親としても失格の僕は……』

この言葉から、おそらくあの人がアスランの恋人なのだとわからる。
でも”母親”とは?
素直に考えればあの人とアスランの間に子供がいることが予想できる。
しかしアスランに子供がいることなど聞いたこがないし、本人からも聞いたことがない。
だが、その時ふとミネルバにいるサクラのことがルナマリアの頭をふとよぎる。

「まさか…ね」

ルナマリアはその可能性を否定して、またも答えのでない思考の淵へと落ちていった。



「キラ………」

アスランは一人、自室にて岩場での邂逅を思い返していた。

『キラからお預かりしたものです…貴方にお返ししてくれと……』

そう言ってラクスが返してきた母の形見。
アスランがキラと話をした最後のあの日、アスランがプロポーズのつもりで渡したもの。
それをキラが返す、と。
ますますアスランにはキラの気持ちが見えない。
キラが姿を消す理由も、もう一度フリーダムを駆る理由も、なにもかもアスランには分からない。
だが、あの指輪を返してきたということは、もうキラの心は自分にないからなのではないか。
そんな恐怖がアスランを苦しめる。
アスランは胸元をくつろげると、首にかけていたものを手にぎゅっと握り締めた。

「お前の気持ちは変わってしまったのか…?」

それはキラが失踪した時にアスランに残していった唯一のもの。
アスランが贈った形見の指輪とは異なる銀の指輪。
アスランはそれをキラが失踪してからずっと、胸に肌身離さずつけていた。
彼女の変わりになるはずもないと知りながらもアスランには片時も離せなかった。

「答えてくれ…キラッ!」

返事がないと分かりきっていても、ここにはいない彼の人へ恨み言にも似た問いをアスランは止められなかった。