「だから俺は何ともありませんってば!」
レイとの単独任務の最中、あやしげな施設にて突然レイが取り乱した。
そんなレイを目の当たりにして、原因の分からないシンは大慌てでミネルバへ連絡を取った。
ミネルバでも、地球軍のものと思われる施設に精鋭とはいえたった2人でそこへ向かわせたことに不安を感じていたため、シンの連絡をうけてすぐさま基地を出航したのだ。
「いや何があるか分からないからね。検査をしておくことに越したことはない」
救援のミネルバが到着すると、シンは苦しむレイと共に医務室に運ばれた。
どんなに何ともない、と主張しても軍医は強引にシンに検査を受けさせた。
医務室には、メイリンに預けたはずのサクラがいつものようにいる。
ミネルバ出航と共に職務につかなくてはならなかったメイリンが、医務室に連れてきたのだろうと予測できたが、サクラが医務室にいるからこそ、シンは検査など受けたくなかった。
サクラがこのミネルバに搭乗してからというもの、シンは戦闘において怪我一つせずサクラ以外のことで医務室の世話になることなどなかった。
それゆえ、検査のためにベッドへとくくりつけられたシンをサクラは心配そうな目で見つめていた。
そんなサクラの不安げな顔など見たくないから、シンは頑なに拒否したのだが。
『君が病原菌をサクラ移してからでは遅いんだよ』
とのたった一言で、シンはしぶしぶながら検査を受けた。
さすがは軍医殿というべきか。シンに対するサクラの使い方を心得ている。
「もう大丈夫。心配かけてごめんな」
シンは軍医の言葉に少しムッとしたような顔をしたが、ベッドの側で未だにゆれる瞳で自分を見つめるサクラを抱き上げた。
だが、サクラはシンに抱き上げられてもいつもの笑顔に戻らず、シンが寝ていたのと反対側のベッドを見つめていた。
「レイか?」
シンはサクラの視線の意味を正確に理解して問うと、コクンと頷く。
シンも検査を受ける間中、カーテンが引かれたベッドを見つめてレイのことを案じていたのだが、まだ彼は出てきていない。
「大丈夫だよ。すぐにレイも出てくるって」
シンの言葉に、まだ浮かない顔をしているサクラは「本当?」と瞳で聞いてくる。
「ホントだ…」
「ホントだって」と言おうとしたシンは、唐突に開いたベッドのカーテンの音に最後まで言葉をつづれなかった。
「レイッ!」
まだ少し顔色は優れないようであるが、レイの様子は医務室に運ばれてきた時よりは随分ましになっていた。
レイのそんな様子にシンも安堵の息をつく。
「おや。もう大丈夫なのかい?」
「ええ、ご心配には及びません。お世話になりました」
紅い軍服をサッと着込みながら、軍医にそう返すレイ。
シンの腕に抱かれたサクラは、今まで心配していたレイが自ら起きだしてきたのだから、もっと喜んでもいいようなものだが表情は晴れない。
レイはサクラの様子に気がつくと、本当に微かにではあるが微笑んでシンの側に歩み寄った。
「心配するな。シン、迷惑をかけたな」
前半はサクラに、後半はシンに。
レイはサクラの小さな頭をポンポンと叩いてそう言うと、すぐさま扉へ向かってしまった。
「レイ………?」
呼び止める暇もなく扉の向こうへ消えてしまったレイ。
常とはどこか、何かが異なるレイの様子にシンは疑問を投げかけるかのようにポツリと彼の名前を呟いた。
もちろん、それに返るレイの言葉などあるはずもなく、シンと同じようにレイの異変を感じ取ったサクラが困惑げに扉を見つめていた。
「艦長。いったいどうしたんですか?」
セイバーから降りるなり、艦長自ら出迎えれたアスランは困惑した様子だ。
タリアの後方に見えるたくさんのライトに照らされた施設に目をアスランは目にしながら聞いた。
「少しね。面倒なことになったのよ」
タリアはまるで疫病神にでも出会ったの様に苦々しく言うと、今度はアスランに問い返す。
「ところで…貴方の方は…?」
本当はこのように他のクルーが居るところで聞くべきではないとタリアも感じていたが、アスランの顔が青白く、血の気が引いていたので気になってしまったのだ。
「ええ…おかげさまで…」
アスランはただそう答えただけだが、タリアにはアークエンジェルのクルーとの話し合いがうまく行かなかったことなど直ぐに分かった。
この冷静沈着なアスランがこんな表情をしたり、歯切れの悪い返事をする時は必ずあの船に関わることだと、付き合いの短いタリアだがよく知っていた。
「そう…なら直ぐに着替えて、こちらに来て頂戴。貴方にもついてきてもらいますから…」
だからタリアはあえてそれに触れずに、事務的に艦長命令をアスランに告げた。
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