「これで、満足かっ…キラッ」

カガリはキラを見ず、吐き捨てるように言った。
そんなカガリの態度は予想していたのか、キラはただ困ったように笑うだけだった。

「うん…ありがとう、カガリ。ラクスも」

2人の顔を見回したキラは、視線をミリアリアのところで止めた。
今だ中性的な美しさを持つキラであったが、やはり線の細さと柔らかさは女性のものだった。
ミリアリアは、キラの姿を見て改めてその美しさに目を見張り、この場にキラが居ることに大変驚いていた。

「それに、ミリアリアも…」
「キラ………」

キラは、ミリアリアに驚かれるのも無理はないと感じていたのだろうか。
その顔にはやはり苦笑が浮かんでいた。

「何が”ありがとう”だ!お前は何を考えている!?」

キラに話しかけれたのはミリアリアだったが、噛み付くようにそう返したのはカガリだった。
カガリは先程、アスランにしたようにキラに歩み寄ると、乱暴にその肩を掴んだ。

「カガリさん…!」

それを咎めるように、ラクスの制止があがったが、カガリは気にも留めなかった。
そして、キラも安心させるようにラクスにただ穏かな顔を向けて、カガリに向き合った。

「お前、これでいいのか!!今まで何も口出しはしなかった。だがな、あんな状態のアイツはもう見ちゃいられない。お前、まだアイツを好きだろう!?」

カガリはキラが失踪してから、ほとんどの時間をアスランと共に過ごした。
周囲は邪推したが、それは恋愛が絡んだ甘い理由からではなかった。 実際は、意気消沈して自殺未遂さえ起こしかねないアスランを純粋に心配したことに端を発しただけのことだった。
キラ失踪後のアスランの様子はカガリが最もよく知っていた。
だからこそ、結婚式中にフリーダムに攫われアークエンジェルに搭乗することになった時、カガリは何よりもキラに失踪の理由を問いただしたかった。 しかしながら、いつも寂しげで浮かない表情ばかり浮かべるキラの様子に、聞くに聞けなくなってしまった。
ただ、キラの心が今だアスランを思っているのではないかと感じた。

「…………」
「何か言えよ、キラッ!!」

今日とて『自由の女神』と名指しされたキラだったが、始めはこの呼び出しに応じようとはしなかった。
だが、無理矢理にカガリが連れてきたのだ。
アスランに会いたくないなら岩陰にでも隠れて入ればいい、だが、その場にはいろ、と。
そこまで言われてキラはようやく頷いた。
カガリは確かめたかったのだ。
キラの心はまだアスランにあるという自分の推測が当たっていることを。
だが、カガリは未だそれには確信が持てないでいた。
だから、ここはキラに尋ねるしかないと、悲鳴のような声でキラに問うた。

「キラッ…」

再三のカガリの呼びかけに沈黙を守っていたキラだったが、ようやく口を開いた。
その表情は俯いてしまったために、見ることはできなかったけれど。

「………好きだよ…嫌いになんてなれるわけないじゃないか…」
「ならどうして!!どうしてアイツのところへ戻らない!?」

ようやくキラの口からアスランへの想いを聞き出すことには成功したが、それでもキラの失踪からいままでの行動の理由が分からなかった。
あの時も、今も。
好きなら、離れなければいいじゃないか。
今はともかく、キラが失踪した時には2人にとって障害となるものなんて何も無かったはずだ。
むしろ2人に関わった全ての者たちが2人の新しい門出を諸手を挙げて祝ってくれただろう。
だのに、何故キラは自分の意思でラクスと共に姿を消した?
アスランとの事を祝福していたラクスがキラの失踪に手を貸したこともカガリには分からなかった。

「…もう、彼のところには戻れないんだ……」

キラの頑なな言葉にカッとしたカガリは思わず手を挙げた。
そして、キラの口から”アスラン”という名前を再会してから一度も聞いていないことに気がついた。
今も、あえてキラは”彼”と言ったのだろう。
ますます、カガリの怒りには火が付きそのまま手をキラの頬めがけて振り下ろそうとしたが、すんでのところでその手が止まった。

「戻れるわけ…ないじゃないか……」

そう言ったキラの顔が持ち上がり、表情が明らかになった。
カガリが手を止めたのも、その表情そのせいだった。
今にも泣き出しそうな表情。
だが、決して涙は流していない。
涙がないぶんその表情は一層悲壮であった。

「お前…」
「戻れないんだ…もう彼に会わせる顔がない…恋人としても、母親としても失格の僕は……」

力なくそう言ったキラは、膝から崩れ落ちて、その場に座り込んでしまった。

「「キラッ!」」

ラクスとミリアリアの声が重なり、キラの元に走りよってきたが、カガリはキラが言った言葉の衝撃に身動きできずにいた。

「母親、だって……?」

”恋人”ということには合点がいくが、”母親”とは…?
カガリはまさか、という思いに駆られるのだった。