「どうかしたの、シン?」
メイリンが休憩時間をレクルームにて過ごしていると、サクラを抱えたシンが現れた。
シンがサクラを抱えて歩いていることは日常茶飯事なので、別段メイリンも気にしはしなかったが、出入り口できょろきょろとあたりを見回すシンの姿が見えたので、気になって声をかけたのだ。
「メイリン!あのさ、ルナ見なかったか?」
どうやらシンの目にはメイリンの姿が入っていなかったようで、声をかけられたことに多少驚いているようだった。
だが、それがメイリンだと気づくと、心底たすかった、というような顔でメイリンの姉であるルナマリアのことを聞いた。
「お姉ちゃん?たしか…どこかに出かけたよ?」
実は、ルナマリアは艦長命令で出かけているのだ。
タリアからの呼び出しをルナマリアに伝えに言ったのがメイリンであったので、メイリンはルナマリアが艦長命令でミネルバに居ないことを知っていた。
だがその呼び出しも密かに行われたことから、口外してはならないことなのかとメイリンは感じてシンに伝えなかった。
「いないのかよ…。どうしようか…」
「何かあったの?」
メイリンの言葉を受けて、肩を落として溜め息を付いたシンはそんなことをぼやいた。
心底困ったというふうな調子のシンの様子に、不思議に思ったメイリンは問いかけた。
「実は今からちょっとした任務があってミネルバを空けるんだ。
だがら、ルナにサクラを見ててもらおうと思ったんだけどさ…いつも預かってもらってる医務室も、軍医さんが丁度いま外してて無理だからなあ…」
シンが困りきった顔でサクラを見ると、サクラはべちょんっ、と小さな手でしかめっ面したシンの顔を叩いた。
サクラなりにシンを気遣ってその顔を止めさせようとしたのだろうが、思いのほか叩く力が強かったようでシンの顔は先程よりもよっぽど歪んだ。
「っ―――!」
「…よかったらアタシが預かろうか?」
シンがヒリヒリする顔に悶絶しているとメイリンから有り難い申し出が出た。
ちょうど鼻のあたりが赤くなってしまったシンの顔にメイリンはくすくす笑っていた。
「いいのか!?」
「もちろん。あたしもサクラちゃんと遊びたいし」
メイリンが、ね?、とサクラの顔を覗き込んで言うと、サクラもメイリンと遊びたいようで笑って頷いている。
そういえばディオキアでサクラの機嫌が最高潮に悪かった時にその相手をしていたのはメイリンだったとシンは思い出した。
どううらそれを切欠に機会がなくてあまり遊ぶことができなかったメイリンと一気に仲良しになったらしい。
「悪いな。じゃ、サクラ、いい子にな」
シンはそう言ってサクラをメイリンに渡すと、サクラの頭を軽く叩いた。
サクラもシンが戦闘に行く時と同じように、メイリンと一緒に手を振って見送った。
ミネルバでのそんな出来事より、時間は少し遡って、日差しの強いディオキアの街のオープンカフェにアスランの姿があった。
「本当に久しぶりだな、ミリアリア…」
感慨深げに言うアスランの前には、かつての戦友であるミリアリアが座っていた。
カフェに来る途中、アスランがオーブを出てザフトに戻ったことを聞かされたミリアリアは、厳しい顔をしてアスランと向かい合っていた。
だが、最後の言葉の声音に、ひどい疲労の色がにじみ出ていて、喉元まででかかった軍に戻ったアスランを非難する言葉を飲み込んだ。
「で、なんでザフトに戻ったあなたがこんなところにいるの?」
少し突き放したようなものの言い方だったかとミリアリアは思ったが、アスランはあまり気にしていないようだった。
アスランには自分がザフトに戻ったと聞いて、ミリアリアはいい顔をしないだろうということは分かっていた。なので、罵倒されないだけましだとさえ内心では思っていた。
「ああ…実はな…」
アスランは、すでに戦闘とは関係ない生活を送っているミリアリアにアークエンジェルを探していることを言ってどうなるのかと思い、理由を話すのを逡巡した。
だが。
「アークエンジェルを探してるんでしょう?」
逡巡するアスランを尻目に、ミリアリアはそう言って、持っていた鞄からディオキアの海で撮った写真を取り出してアスランに見せた。
少し驚いた様子をみせたアスランであるが、ミリアリアはそれに構わず続けた。
「私もダーダネルスのこと見てたわ…」
「そうか…」
ゆっくりとアスランはその写真をめくりながら呟いた。
あの戦闘でのことを思い出しているのか、アスランの表情が曇る。
「でも、あなたはアークエンジェルを探して何をしたいの?」
アスランは曇った表情をいっそう歪ませて苦しげにミリアリアを見た。
けれど、すぐにその視線を外して遠くを見ながらその問いかけに答える。
「ただ、話したいんだ……会って、話したい…」
あえて名前を出さなかったが、ミリアリアにはアスランが誰と話したいのか、誰と会いたいのか手に取るように分かった。
先程も写真を見るアスランの指が、ある一枚で硬直したように止まったのをミリアリアは見ていた。
それは”フリーダム”が映っていた写真だ。
先の大戦が終わった直後に失踪した彼女のことをアスランは今だ想い続けているのだろう。
何も言わず、指輪だけを残してラクスと消えた彼女。
その真実は誰にも分からなかったが、唯一、ミリアリアだけは度重なる偶然からそれを知っていた。
「会わせてあげられるわ」
ミリアリアの口からでた言葉にアスランは弾かれたようにミリアリアを見た。
その目は驚愕に見開かれている。
それは本当か、と目だけで問いかけている。
「方法がないわけじゃないから…でも、ザフトのアスラン・ザラじゃなくて、ただのアスラン・ザラじゃなければ会わせてあげられないわ」
その日の昼ごろ、海の底に潜伏していたアークエンジェルに、ターミナルから回されたミリアリアの通信が入る。
『ダーダネルスで天使を見ました。また、会いたい。
紅の騎士が自由の女神を探しています。 ミリアリア』
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