「フリー、ダム…」

『私は正当なるオーブの継承者、カガリ・ユラ・アスハ!
オーブの民よ、私たちの誇り高き理念を忘れ去ったのか!?
直ちに戦闘を停止し、撤退せよ!』

回線を全周波に合わせて聞こえてくるカガリの声も、今のアスランの耳には入っていなかった。 ミネルバのタンホイザーを空から正確に打ち抜き、10枚の青い翼を広げて颯爽と姿を現した白い機体。
それは、先の大戦時の愛機・ジャスティスの兄弟機。
狂おしいほど恋焦がれている彼女の搭乗機であるフリーダム。
アスランの目にはそのフリーダムしか目に入らなかった。

『代表首長、カガリ・ユラ・アスハとして命ずる!撤退せよ、オーブ軍!』

フリーダムの登場と、隣に寄り添う機体からの通信に戦場は一時、その全ての戦闘を停止させたが、沈黙を破ったのは呼びかけられているオーブ軍自身だった。
オーブの攻撃を皮切りに、戦闘を停止させていた他の者たちも先程まで自分が向き合っていた敵との戦いに戻る。

『オーブよ!!』

悲痛なカガリの声が今なお聞こえたが、カガリが搭乗するストライクルージュに他ならぬオーブ軍が攻撃を加え始めたことで、カガリの通信は途絶えた。
フリーダムはストライクルージュを庇うように、攻撃してきたオーブのムラサメを鮮やかな手つきで打ち落とす。
そして、まるで「もう無理だ」と言うようにストライクルージュを後方にやって来たアークエンジェルへと押しやると、自身は戦闘へと身を翻らせた。

「キラッ――!!」

アスランは、カガリの声が聞こえている最中から何度も周波を合わせてフリーダムへと通信を呼びかけていた。
だが、アスランに声が返ってくることはない。

「キラッ!!聞こえているんだろう、キラッ!?」

よく知る、フリーダムへの通信コード。
自分が、そのコードを忘れるはずが無い。だから、フリーダムにはおそらく自分の声は届いているはずだ。
それなのに、求める声はアスランの耳をうたない。

「答えてくれっ、キラッ―――!!」

まさに血を吐くような叫びをあげたアスランをあざ笑うかのように、目の前では華麗な舞踊を披露するがごとくフリーダムが、ザフト、及び地球軍と戦いを繰り広げていた…。



「一体、なんなんだよ、アイツらは!!」

アークエンジェル、フリーダムの地球軍、ザフトを問わない攻撃により混乱しきった戦場は、両軍ともいったん兵をひくことを余儀なくされた。
ミネルバも最寄の基地にて、フリーダムより受けた損傷を修繕しなければならなかった。
そして、そのミネルバのドッグではパイロット達が自分の機体の損傷をみているところだった。

「あれが”フリーダム”に”アークエンジェル”だって!?ただ、戦闘を引っ掻き回しにきただけじゃないか!!」

シンは、アスランを睨みつけた。
おそらくそれは、アスランが戦闘中にフリーダムを攻撃するそぶりさえ見せなかったことが理由だろう。

「………」

アスランはシンの詰りにただ苦しげに眉を潜めるだけだ。
今回出撃したザフト軍の軍艦、MSにフリーダムは甚大な被害を及ぼした。
ミネルバのMS部隊にもその被害はある。
シンのインパルスも、レイのザクも。
特にルナマリアが搭乗していたザクは両脚をビームサーベルにより綺麗に切られ、戦闘の後半は戦闘不能に陥ってしまっていた。
しかしながら、彼の機体によって直接命を奪われた兵士は誰一人としていなかった。
ルナマリアとて軽傷をおっただけだ。
死亡した者達はすべて、地球軍側の攻撃か救助が遅れたことが原因である。

「クソッ…!!」

もやもやとした気持ちのまま戦闘に出て、そこで見せつけられた他の追随を許さない力。
戦闘後に聞かされた、フリーダムとの戦闘における死亡者の数。
そして、目の前のアスランがとった戦場でのフリーダムへの態度。
その全てがシンを怒らせていた。

「ちょっ、シン…!!」

ちょうどそこにいてアスランとシンの会話を聞いていたルナマリアが、罵りの言葉を吐き捨ててドッグの出入り口に向かったシンを追った。
そしてシンを追いながら、ちらとルナマリアはアスランを振り返った。

(やっぱり、フリーダムと何か…?)

ルナマリアは以前、アスランと初めて会った時のことを思い出していた。
あの時の、”フリーダム”と聞いたアスランの表情。
今の表情とまったく同じものであった。
ルナマリアは心に疑問を抱えながらも、前に向き直りシンを追うことに専念した。

「キラ…」

ポツリと一人小さな声でその名を呼んだアスランは、決意したように拳を握り締めると、強い瞳でドッグの出入り口に向かった。