「地球軍に増援…ですか?」

アスランはタリアからの召集にしたがい艦長室に集合していた。
そこで告げられるのは、敵対する地球軍への増援の報告があったこと。
アスランは、その報告に難しい顔をしながら聞き返す。

「ええ、そう。ジブラルタルかこちら―ダーダネルスのどちらかに対するものかは分からないけれど、どちらにしても本艦は戦闘にでます」

タリアは嫌そうに”地球軍へ増援”のむねを肯定すると、きっぱりとミネルバの戦闘出撃を明言した。

「…わかりました。では、パイロットには私から戦闘準備を伝えましょう」

戦闘に出れば、必ず誰かを傷つける。
その苦さを噛み締めたアスランは、やりきれないような顔をしたが自分からそう言った。
アスランの表情をジッと見ていたタリアは、その気持ちもわからないではないと心で彼に同情した。
だがその気持ちはおくびにも出さず、艦長としてアスランに聞いておかねばならないことを厳しい表情で口にした。

「アスラン。貴方に一つ言っておかなければならないわ」
「…何でしょうか?」

タリアの視線がどこか自分を探るような色しているのを、アスランは不思議に思った。
アスランはタリアの厳しい視線を真正面から受け止めて次の言葉を待つ。

「今回の地球軍の増援は、オーブ軍…とのことよ」

”オーブ”。
その言葉を聞いて、アスランは息を呑んだ。
まさか、という思いだ。

「あれも今は地球軍。敵なのよ。分かってるわね?」

確認するタリアの声。
”オーブ、大西洋連邦と同盟締結”
それを聞いた時からアスランは、「いつかは…」と予想していたが、できれば実際に起こって欲しくなかった。
平和を願う者が集まる国でもあり、亡命した自分を受け入れてくれた国。
アスランにしてみれば、オーブは第2の故郷のような存在になっていた。
その国と、戦う。

「いいわね?」

再びのタリアの声。
アスランは、苦しげな様子でしばし微動だにしなかったが、タリアの2度目の声にようやっと。

「……はい」

と、一言だけ視線を床に向けて答えた。
手のひらに爪が食い込むほどに拳を握り締めて答えるアスラン。
その姿を、タリアは沈痛な面持ちで見やった。



「オーブが派兵!?」

アスランから一番最後に戦闘準備の指令を受けたシンは、いつものようにサクラを預け、アスランと共にパイロットスーツに着替えていた。
ここまでに来る道すがら、作戦の大部分は聞いていたが、地球軍の増援がオーブ軍だと、シンは初めて知った。

「―ッ!クソッ!!」

そのことをアスランから聞かされたシンは、手をかけていたロッカー扉を逆上したふうで乱暴に閉めると、自身のヘルメットを引っ掴んだ。

「おい、シン!」

ズカズカとそのまま、ドッグへと続くエレベータへと飛び乗ったシン。
そんな、シンの態度を咎めるようにアスランは声をあげると、シンが乗るエレベーターに足を踏み入れた。
その直後に扉が閉まる。

「シン!」
「何なんですか!」

自分の方を見ようとしないシンの肩を掴んで、アスランはシンの視線を自身へと向けさせた。
しかしシンはすぐにアスランの手を払い、まるでアスランを射殺すかのように見てきた。

「…お前は、いったい何がそんなに気に入らないんだ」

アスランはぞんざいに手を振り払われたことなど全く気にしていないようで、むしろ痛ましげにシンを見て言った。
しかし、アスランの言葉はシンこそ自分自身に問いたいものだ。
2年前とはまったく逆の道を選択したオーブ。
けれどシンはその決定も気に入らなかった。
何故かなんてわからない。
気に入らないものは気に入らない。
自分の家族を殺したオーブも今、敵として自分の前に立ちはだかるオーブも。

「……」

沈黙してしまったシンに対して、アスランも何も言わなかった。
シンの瞳の中に迷いのようなものを見つけたからこそ、喉まででかかった言葉を飲み込んだのだ。
『本当はお前はオーブが好きだったんだろ…』
その言葉をアスランは飲み込んだ。
愛憎とは表裏一体。
シンはオーブが好きだった、だからこそ自分の家族を守ってくれなったオーブが憎い。
けれどオーブが好きだったからこそ、敵となって自分の前に現れたオーブが気に食わない。
アスランはそう思っていた。
けれどシンは自分がオーブを好きでいたことを認めたがらない。
だから、自分の気持ちの整理がつかなくていらだっているのだろう。

(つらいな、お前も…)

アスランは心でシンにそう語りかけると、ドッグへ到着するのを待った。
そう、これから戦場で待つものを知る由もなく…。