「………?」
シンが少々遅い帰還をした時に持っていた小さな桃色の貝殻。
サクラはデスクの上に置かれたそれを不思議そうにじっと眺めていた。
つい先程シンはミネルバに帰還したのだが、休暇中に緊急救助要請などをしたものだから艦長に呼び出しを受け、すぐさま艦長室へと行ってしまった。
サクラを構ってくれていたレイもその時に異なる呼び出しを受けて、部屋を出て行った。
あまりサクラを一人にさせたくない2人ではあったが、他の人間に頼む暇もなかったために仕方なくサクラを1人部屋にのこしたというわけだ。
シンとレイがいなくなった最初のうちこそ、遊び相手がいなくなってしょぼんとしていたサクラだったが、じきにシンのデスクに置かれた貝殻を見つけ、それをじっと眺め始めた。
「………???」
サクラは初めて見る貝殻が一体なんなの分からなかった。
それゆえに、先程からじっと見つめては首を傾げて、それが何か考えている。
あんまりにも考えすぎて、サクラの形のよい眉間には誰かさんのような皺が寄っている。
そうしていると、サクラは今度はそろそろと人差し指でそれに触れようとした。
ゆっくり、ゆっくり―――。
「コラ、サクラ。それは触っちゃダメだぞ」
まさにサクラの指先が未知のものに触れようとしたその時。
サクラの背後から腕が伸びてきて、ひょいっとそれを取り上げてしまう者がいた。
もちろん、それは持ち主であるシンである。
「これ、大事なものなんだ。だから、こーゆー風に仕舞って…と」
怒られたと思ったのかただ純粋に驚いただけなのか、サクラはビクッとその小さな方を振るわせた。だがシンはそんなサクラの反応に気がついて、その頭を”怒っていない”とでも言うようにぽんぽんと叩くと、手のひらに乗るような透明なビンに貝殻を入れてコルクの蓋をした。
「な?」
シンはサクラに透明なビンに入れた貝殻を見せてやるが、サクラはまだその貝殻を見ていた。
「どした、サクラ?」
シンは、ジッとビンを見つめるサクラを訝しげに思って問うた。
「……」
「ん?この貝殻のことか?」
サクラはシンに問いかけられると、『それ』とビンの中の貝殻を指差した。
サクラが何を聞きたいのかよく分からないシンは取り合えず、サクラが指したものを確認した。
だがサクラは、シンのその言葉を聞くと大きく目を見開き、シンの横をすり抜けて、自分の絵本を持って来た。
「絵本?」
絵本はどうやら『人魚姫』らしい。
サクラはシンにその絵本を開いて、可愛らしい絵の一点を指差した。
「それが?」
サクラはしきりに絵本の絵の一点とシンが持っているビンを交互に指して何かを訴えかけているようだ。
「んー――」
「おい、シン」
サクラの意志が汲み取れず、うんうんシンが唸っているとそこへレイがやって来た。
「あ、丁度いいところにレイ!」
「は?それより、これから―」
「そんなことは後で聞くからさ。ちょっとサクラが言ってることがよく分からないんだけどさ、レイも考えてよ」
シンに用事があって声をかけたレイではあるが、サクラが絡むとレイもあまり強く出ない。
レイは仕方が無いというような顔をして、「なんだ?」とシンに。
「それがさー…」
シンがそう説明を始めると、レイはふむふむと頷いていたが、すぐに何かが分かったようだ。
「サクラ、お前が言ってるのはこの貝殻とあれが違うってことか?」
レイが、絵本の中の貝殻とビンの中の貝殻を指してサクラに問うと、サクラはこくっと頷いた。
一方のシンには事態がまだうまく飲み込めておらず、首をかしげている。
「どういうことなんだよ、レイ?」
「おそらくサクラは本物の貝や貝殻を見た事が無いんじゃないか?
その絵本にある貝殻とお前のそれが大きさや形が違うから、それも貝殻だって聞いて不思議に思ってたんだよ、サクラは」
レイは、すらすら説明して「そうだろ?」とサクラに同意を求める。
サクラはまた頷いて同意を示すと、レイはふわりとサクラの頭を撫でてやった。
「サクラが知っている絵本の中の貝殻もあるけどな、中にはシンが持っているようなものも貝殻というんだ。
どっちも”貝殻”というものなんだ」
普段の彼からは想像できないような優しい調子でレイが説明してやると、サクラは「わかった」とばかりにニッコリと笑った。
「そんなこと言ってたのかあ。よかったよレイがいて。
て、そう言えばレイ、俺に何か言おうとしてなかった?
」
シンはそもそもレイが自分に何か用事があって戻ってきたことを思い出した。
レイは、頭に手をのせていたサクラをひょいッと抱き上げて、「ああ」と言って続けた。
「お前のことを読んでくるようにアスランから頼まれたんだ」
「アスラン…て、隊長か?」
「他にアスランがいるか?」
つい先日までレイも隊長と呼んでいた人物のことであるが、なぜそんな風に名前で彼のことを呼んでいるのか分からずシンは混乱していた。
そんなシンの様子が分かったレイはその理由を完結に説明してやった。
「アスランから”隊長”はもう止めてくれと言われたんだ。おそらく、お前も今から同じ事を言われるぞ」
それでもシンはよく意味が分かっておらず先程のサクラのように「???」状態だ。
そうこうしているうちにレイはサクラを抱き上げたまま、入り口に向かっていた。
「ほらシン、早くしろ。置いていくぞ」
レイに抱き上げられているサクラも「早く」というように手を振っている。
レイは言葉通り本当に先に言ってしまうことを知っているシンは急いで手の中のビンをデスクに戻し、その後を追うのだった。
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