「いい加減にしろっ!」
「んもーアスランたらつれないわね」
約束どおりミーアを見送りにきたアスランは、無理やりキスをしようとしてきたミーアを引き剥がしてヘリに押し込んだ。
キスを拒否されたミーアは頬を膨らませたが、アスランに構ってもらえることが嬉しいのか言葉とは裏腹に楽しそうな笑顔で、ヘリの窓からアスランが見えなくなるまでその姿を眺めたのだった。
飛び立っていったヘリを見て、アスランは一つ肩の荷がおりたと安堵の溜め息を付く。だが、アスランの頭の中には先程、別のヘリでここを発ったイザーク、そしてディアッカの言葉が何度も繰り返されていた。
『俺は正直、議長が信じられない。それに、お前には悪いが―ザラ前議長の二の舞、いやそれ以上の事態になりそうな気がする』
苦い表情のままそう言ったディアッカ。そして、それに同意を示すイザーク。
『消えた”アッシュ”と特殊部隊の兵の行方はわからない。
だが、地球、プラント、全ての計器の記録を調べたら、地球軍やザフト軍の交戦、ゲリラのテロでもない戦闘があったことがわかった』
淡々と言うイザークに対して、ディアッカはどこか困ったような微笑を湛えてアスランに告げた。
『オーブでな、早朝に戦闘があった。で、なぜかそこでは原子エネルギーの反応があったんだな、これが。
もちろん分っていると思うが、そこが原子力発電所の近くだったとかいうオチはないぜ』
アスランはその言葉に目を見開く。それが意味するところは…。
『アイツはオーブに…』
「―って聞いてるんですか、隊長!!」
ルナマリアの大声で、頭の中で何度目か分らない会話の繰り返しをしていたアスランは、ルナマリアがこの場にいたことを思い出した。
「すまない、ルナマリア…で、なんだ?」
少々焦って取り繕うような笑みを浮かべれば、じとーっという視線を送りながらルナマリアはこれ見よがしに溜め息を付いて見せた。
「ご自分の婚約者なんですから、貴方が責任をもってお相手してくださいよね。
確かに、ジュール隊長やエルスマン副官とのお時間を大切にしたいお気持ちだって分ります。
けど、私一人でラクス様のお相手なんてとてもじゃありませんが務まりません」
ルナマリアが言っているのはダイニングでの出来事のことだ。
確かに、早くミーアから逃げ出したいばかりにその場にいたルナマリアとシンに預けてきてしまった。
「さっきは、すまなかった。いや、本当に面目ない」
始めは厳しい視線を揺るがせなかったルナマリアも、平身低頭で謝るアスランにもう一度大きな溜め息をつき口を開いた。
「もういいですよ。でもこれっきりにしてくださいね」
「本当にすまない。…そういえば、ルナマリア一人だったのか?シンは…?」
気づいてみればダイニングではルナマリアの隣にいたシンの姿がない。
「隊長がジュール隊長達とダイニングをでた後すぐに、サクラのことを理由に部屋に戻ってしまいましたよ」
憤慨した様子で言うルナマリアにアスランは苦笑するしかない。
「悪かった。ルナマリアもサクラといたかったんだろ?」
ミネルバの中でもシンと同じかそれ以上にサクラを可愛がっているルナマリアの気持ちを考えて、もう一度謝罪をしてしまったアスラン。
ルナマリアはアスランに「もちろん」と答えた後、さわやかな笑みを浮かべながら続けた。
「そりゃあたしだってサクラと遊びたかったですよ。でも、その後シンに会った時にちょっと仕返ししてやれたからいいんです」
「仕返し?」
シンを気の毒に思いながら、少しほおを引きつらせたアスランは思わずルナマリアに聞き返していた。
「ふふふ。シンにこう言ってやったんです。
”あたしはラクス様のお相手をしなきゃいけないから出かけられないのよねえ〜。
あら、シンは暇よね?サクラはミネルバでレイに見ててもらえればいいし、出来ないなんて言わないわよね、シン?”」
「そ、そうか―」
”すまない、シン”そうシンにも心うちで謝ると、アスランは精一杯の笑顔をもってルナマリアに相槌を打ったのだ。
そして幾分前から考えていたことをアスランはルナマリアに提案した。
「そうだ、ルナマリア」
「はい?」
「もうその敬語を止めてくれないか?隊長っていう呼び名も」
アスランのその言葉に、目を丸くしたルナマリアは何を突然という面持ちだ。
その顔を見たアスランは苦笑して、続ける。
「確かに俺はフェイスだが、お前達と同じ紅服には変わらないだろ?
それなら俺に敬語を使うほうがおかしいだろう」
アスランの言葉に最初は戸惑ったルナマリアも、少し考えた風な様子を見せて「なら…」と。
「なんて呼べばいいんでしょう…じゃなくて、いいの?」
アスランはそのルナマリアの反応に優しい笑顔を浮かべた。
「普通に、アスラン、でいいさ」
こんなふうな提案をアスランがする気になったのはひとえに懐かしい旧友たちとの会話によるものだったのだろうか。
それとも、その会話によって思い出された恋しい人の影と思い出のためだったのかもしれない。
『しかしディアッカ。そんな情報を一体どうやって…』
隊長とはいえ一介の兵士でしかないイザーク、そしてその副官のディアッカが知りえるとは思えない程の情報量。
それを怪訝に思ったその問いにディアッカはおかしそうに笑った。
『前にな、お前の”お姫さん”に教えてもらった方法さ』
その言葉でアスランが思い出すのは、彼女は趣味でよくハッキングをしてまわっていたことだ。
『アイツは…』
アスランが呟いたその言葉には、時を共にしたあの幼い頃の思い出を懐かしむ色合いが濃く滲み出ていたのだった。
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