「お前、あれがラクス・クラインだとでも言うのか!?ええ!アスラン!!」
ダイニングを辞し、そこから少し離れた空き部屋に3人が連れ立って入ると、イザークは堪えきれずにアスランの胸倉を掴み壁に押し付けた。
周囲を気にする必要もなくなった今、ディアッカはイザークを止めるつもりなど無いようで、やれやれとばかりに溜め息をついた。
「イザ、−クッ…!」
「おいおいイザーク、それ離してやんないと、アスラン喋れないぜ」
しかし、このまま放っておけばイザークがアスランを縊り殺しかねないと判断したディアッカはイザークをいさめた。
イザークは「ふんっ」と鼻息も荒く、乱暴にアスランの襟首から手を離した。
「あれは一体何者だ…説明しろ…」
「やっぱり気づいていたのか…」
「あのなアスラン…一般人はともかく、俺ら、お姫さんとは何度も顔合わせてんだぜ。
気づかない方がどうかしてるだろ」
「あんな品性の欠片も感じられないラクス・クラインがあるか!!」
イザークとディアッカは、アスランの予想通りミーアに気がついていた。
ディアッカの言うとおり本物のラクスを知っている者ならば、最初の議長を擁護する演説はともかく、その後のコンサートの様子をみれば一目瞭然であろう。
だが幸か不幸か、プラントで歌姫として活躍していた当時のプライベートなラクスを知る者はほとんどいない。
あの頃のラクスのメディアへの露出といえば、自らの歌のプロモーションのみといって過言でなく、私生活のラクスと交流があったのはかつてクルーゼ隊に所属していたアスラン達3人と今は亡きニコルくらいであった。
「実はだな…」
先程ダイニングで顔を会わせた時には、すでに全てを話さなければと悟っていたアスランだ。
観念したように、アスランは口を開いた。
(本当に今日は厄日だ…)
もしこの時のアスランの心の声が聞こえていたとしても、いったい誰が彼を咎めることができたであろうか。
「で…あいつは議長が用意した偽者、ということか…」
アスランの説明を聞いたイザークの第一声はそれだった。
「イザーク、偽者という言い方は…」
「いや、俺だってそう言いたいぜ」
イザークのあまりの言いようにアスランは、それを諌めようとしたが、ディアッカまでも同じ事を言う。
「ディアッカ…」
ディアッカを声を荒げたアスランが呼ぶと、いつもの皮肉げな表情とは異なり怖いくらいに真剣な表情をしていたディアッカと視線が合った。
「俺だって議長に助けられた身だ…デュランダル議長の人望の厚さ、政治的手腕、そのどれも認めるさ。
だがな、いくらプラントの混乱を抑えるためとはいえ、普通、似た声の持ち主を探させて整形までさせて、お姫さんの代わりを務めさせるか?」
そう言われたアスランに反論はない。アスランとて、そこまでするデュランダル議長の行動を不審に思わないではなかった。
だがラクスが今もプラントの人々にとって平和の象徴であることは周知の事実で、議長の説明をうけたアスランはそれも仕方の無いことだと納得してしまっていた。
「しかし…」
「デュランダル議長を信じたい気持ちはもちろんある。いや、あった…というべきか」
アスランが反論もないながらも口を開けば、厳しい顔をしたイザークが気になる言葉を呟いた。
「どういう…意味だ…?」
イザークのその言葉尻を聞きとがめたアスランは聞き返す。
イザークは無意識で言ったのか、少しバツの悪げな顔をして小さく舌打ちし「ディアッカ」と目の前の副官を呼んだ。
「はいはい…。ったく、人使いが荒いんだから…」
口では文句を言いながらも、ディアッカは嫌がってなどいなかった。
先程とは違い相好を崩し、イザークの命令を受け取った。
しかしその顔を引き締めると、またも真剣な眼差しをアスランへと向けた。
「あのユニウス・セブンの落下事件を覚えてるか?」
「もちろん…」
ディアッカの言葉に、今回の戦争の引き金ともなったあの落下事件を思い出し、アスランは少しばかり眉を寄せた。
あの事件がなければこんな事態には発展しなかったのではないかと思うたび、事件を起こした者の言葉が頭をよぎりアスランを苦しめていた。
「あの時、ユニウス・セブンにいた奴らが搭乗していたのは”ジン”だ。
それはお前も分っただろう?」
そう言われてアスランは、戦闘した機体を思い出そうとするが、如何せんその後に続いた言葉が強烈過ぎて、機体の種までは記憶に残っていなかった。
何も言わないアスランのことは気にせずに、ディアッカは話を続ける。
「だがなもうザフトに”ジン”は無い。残っていたってせいぜいが実験用だ。
なんたって、”ジン”のほとんどはユニウス条約で廃棄されたからな」
「…ディアッカ、それは本当なのか…」
ディアッカのその言葉に何かを悟ったように目を見開いたアスランは、思わずディアッカに聞き返していた。
「ああ。俺とイザークが考えてることは、お前がいま思ってることでたぶん当たってるよ。
お前のことだから、察しはついたんだろ?」
ディアッカのその問いかけにアスランは神妙な顔をして頷いた。
通常、同盟や条約などで兵器の廃棄が決定すれば、中立を保つ機関が組織され、その条約通りに兵器の破棄がなされたか確認される。
それは書類上だけでなく、組織の者が派遣され兵器の廃棄現場まで出向き確かに、廃棄がなされたかまで調べるという念のいれようだった。
そして、今ディアッカが言ったように”ジン”がユニウス条約にてすべて廃棄されていたならばまず、あの場には現れない。
だが、実際にはユニウス・セブンに現れたのだ。
それは何故だ?
廃棄される”ジン”をどうにかすることが出来たのはいったい誰だ?
ユニウス条約締結後、すぐに臨時評議会は解散し、現在のデュランダル議長を始めとする新しい評議員が選ばれた。
それゆえ、兵器の廃棄に実際あたったのは現評議会、そしてその最高責任者は―――。
「まさか…」
アスランは己の考えをすぐさま打ち消した。
まさか、という言葉がなんども頭を駆け巡る。
「俺だってそう思いたかったさ。だが、それだけじゃないんだよ…」
混乱するアスランと同様、苦々しく顔をゆがめたディアッカは追い討ちをかけるように言った。
「つい最近、なぜか特殊部隊に大幅な人員の配属があった。前線で大規模な作戦を展開しているならそれも分る。
けどな、特殊部隊が配属された前線なんて、今回はまだ聞いちゃいねえ。なのに、だ。
それにその配属人数と同じ数だけの”アッシュ”がいつの間にか無くなってた。
”アッシュ”は絶対数がまだ少なく、実戦配備はされていない。乗れるのは特殊部隊のやつらだけだ。
特殊部隊が配属された前線がないのに、なんで、兵士と機体がなくなるんだ?」
畳み掛けられるようなディアッカの問いに、アスランはすぐさま答えられない。
だが頭の中には漠然とだが、その答えが見えてきていた。
「特殊部隊は、今は議長の直属だ。この意味がわかるだろ、アスラン」
※ユニウス条約のとことか、特殊部隊のとことかは全部模造です
その点についての「え、じゃあこれはどうなのさ?」とかいうご質問・疑問がお有りの方は
どうぞご遠慮なく!
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