「イザークッ!?」    

聞き覚えのありすぎるその金切り声。    
アスランはアカデミー時代からの条件反射で咄嗟にその名前を呼んでしまった。
その声は幻でもなんでもないらしく、その声の持ち主である見事な銀髪の麗人がアスランの目の前にいた。
しかしながら、常であれば”花のかんばせ”と名高い麗人の顔は、今はさながら夜叉のように歪められている。

「貴様というヤツは!!これは一体どういう了見だっ!!!」   

アスランはイザークの突然の登場に面くらい、言葉が続かない。
そしてアスランのその態度はイザークにとって火に油をそそぐようなもので、早くも、もともと丈夫でないイザークの堪忍袋の緒が切れさせた。

「きーさーまーっ!!!」

堪えきれなくなったイザークが、激情のままにアスランに殴りかかろうとしたその時。
振り上げたイザークの腕をとめる者があった。

「おいおい、イ…隊長。まずはそりゃあないだろ」

もちろん、気性の荒いイザークにそんなことを出来る人物など、たった1人しかいない。
それは緑の軍服を纏ったかつての戦友、ディアッカだった。

「ディアッカ…」
「よっ。ひさしぶり…でもなかったな」

ディアッカがそう言うのも、アスランと2人は先日、プラント本国にて再会を果たしたばかりであった。
ユニウス・セブンの破砕作業において通信ごしには言葉を交し合ったが、顔を突き合わせて話をしたのは先の大戦以降、初めてのことだった。
3年前、ディアッカが最後に見たアスランは、生気を無くし、生ける屍といっても過言ではない姿をしていた。
それゆえ、ユニウス・セブンの破砕作業中にアスランのしっかりとした声を聞いた時には、ディアッカは安心したものだ。
もちろんそれはイザーク同じ事である。
アスランが立ち直っているということを確認したからこそ、イザークはプラントアスランに『戻って来い』と告げたのだ。

「話せ、ディアッカ!コイツを一発殴ってやらねば気が済まん!」
「あのなあ、これだってコイツ、フェイスなんだぜ。そんなことすりゃあ軍法会議ものだ」

イザークはディアッカのもっともな意見に、ぐうの音も出ず、乱暴にディアッカの腕を振り払った。 そして、キッとアスランを睨みつけ、口を開こうとした。

「あら、アスランこちらの方々は?」

だが、それは何処か高飛車な物言いによって阻まれた。
それは、アスランの腕に未だに自身のそれを絡めたままのミーアだ。
ミーアは、アスランとの楽しい朝食の予定の出鼻をくじかれて機嫌が悪いのか、眉を寄せて不快を示している。
そう聞かれたアスランは、今だ突然の再会のためによく回らない頭でこの場の対処を思案していた。
『こちらの方』とミーアに言われたイザークとディアッカは本当のラクスと面識がある。
このような質問をアスランにすれば、自分から「私はラクスではない」と言っているようなものだ。
ディアッカはともかく、根が真っ正直なイザークからすれば、いくらプラントのためとはいえ、必然的にプラントの国民を騙しているミーアの存在を許すはずはない。
この場に、アスラン達しかいないのであれば、全ての事情を話してとりなすこともできるが、その他の一般兵やすぐ側にシンとルナマリアがいる今の状況では、それすらも叶わない。
だが、そのアスランの心配も杞憂に終わる。

「…失礼しました。私はジュール隊を任されておりますイザーク・ジュール…」
「その副官のディアッカ・エルスマンです」

苦虫を噛み潰したような表情であったが、イザークは隊長らしくそう名乗り、ディアッカもそれにならった。
ミーアは名乗った2人に、「ごくろうさま」とだけ言い一瞥すると、2人には興味はないとばかりに、アスランにしなだれかかった。

「ねえアスラン、早く朝食にいたしましょう。私、もう時間があまり残ってないんですのよ」

周りの状況などなんら気にしない様子のミーアにアスランは辟易させられたが、周囲の手前、邪険に扱うこともできない。
それを見ていたシンとルナマリアは、明らかに不快な表情をその表情にのせた。
そして、優秀な副官であるディアッカしか気づかなかったことだが、その時にイザークが手のひらに食い込むほど拳を握り締めた。

「申し訳ないですがラクス様。
 議長からアスランにと言付けを賜っているので、アスランを俺たちにお貸しくださいますか」

そして、イザークの様子にもう限界だと感じたディアッカはアスランに助け舟をだしてやった。
アスランは怪訝な表情をディアッカに送ったが、ディアッカの視線をうけ、それが自分への助け舟だと理解した。

「ということなので、ラクス。お見送りには出向きますので…
 シン、ルナマリア、ラクスを頼む」
「じゃ、そういうことで…。ほら、隊長」

アスランはそう言うだけ言うとそそくさとミーアの腕を解くと、ディアッカが目配せして示したダイニングの外へと踵を返す。
先程ミーアに名乗ってから微動だにしなかたイザークを促して、ディアッカもアスランに続くのだった。