「君達もここで休んでいくといい」

デュランダルとの会食も終わると、食事中の重苦しい話題を払拭するかのような晴れやかな笑顔と共にシン達パイロット一同に自身が滞在しているザフトの保養所への宿泊を勧めた。

「やった!ありがとうございます議長!」
「え!?いいんですか?」

デュランダルの言葉にいち早く反応したのは、やはりというべきか、ルナマリアであった。
シンもその提案に笑みを浮かべている。
その様子をアスランは、こんなところはまだまだ子供だ、とをほほえましい思いで2人を見つめていた。

「艦には俺が戻るから、ぜひそうさせてもらえ」

ザフトの勢力圏とはいえ何が起こるかわからない戦時中。
そのため、主力の戦艦にMSのパイロットが一人もいない状況はあってはならないことだ。
アスランは自らその役をかってでるつもりらしく、早速出入り口へと歩みを進めようとした。
その時。

「アースラン―!!」

アスランの進行方向から、ここで遭遇するには彼にとってあまり好ましくない人物が走りよって来た。
もちろん、その人物とは偽りのラクス・クライン―ミーア・キャンベルである。
長いスカートの裾を踏まないようか自ら淑女のようにその裾をつまんでいる。
もっとも本当の淑女であれば他人の目がある場で異性に抱きつくなどという行動にはでなかったであろう。

「アスラン! 今日のステージは見ていらした?
わたくし貴方がおいでになっているなんてさっきまでちっとも知りませんでしたわ」
「ミ…ラクス…」

抱きつきながら矢継ぎ早に言葉を浴びせかけられたアスランはその行動をたしなめようとして、思わず彼女の本当の名を口にしてしまいそうになった。
だがそこはアスラン。その言葉を飲み込んで、彼女に”ラクス”と諦めたように呼びかけた。

「これはラクス・クライン。お疲れ様でした」

デュランダルは、アスランにその身を押し返されたミーアに向かってうやうやしく礼をとると、アスランに向き直り、彼独特の食えない笑みを浮かべた。 その笑みに嫌な汗が背中を流れるのをアスランは感じた。 

「ちょうどいいところにいらしてくれましたね。ちょうど彼らにここでゆっくりしてはどうかと言っていたところなのです。
せっかくですから、お2人でゆっくりしたらどうでしょうか」
「議長!!」

嫌な予感ほど当たってしまうもので、アスランはデュランダルを非難するような声をあげてしまった。

「まあ!ありがとうございますわ、議長。ねえそういたしましょうよアスラン」
「ですが、私は艦に…」

先程アスランに押し返されたことに懲りていないのか、ミーアはアスランの腕に自らのそれを絡め甘えるように上目使いでアスランを見た。
それに対してアスランはやんわりとその戒めを解きながらミネルバへと戻る旨を伝えようとしたが、それは途中で遮られた。

「ご心配なさらずに。ミネルバへは私が戻りましょう」

アスランの言葉を遮ったのは、レイであった。
レイは常よりも幾分か柔らな表情で、その許可を求めるためかデュランダルに視線を向けた。

「ああ、レイ。頼まれてくれるか」
「もちろんです、議長」

用意されていたかのようなレイからの提案にデュランダルは満足そうに微笑む。
そんなやりとりがなされてしまえば、アスランにはこの状況を打開する術は残されていない。
一連のやり取りをまじかで見ていたルナマリアは胸中でアスランへと同情した。

(隊長もかわいそうに…あれって絶対嫌がってるよね…)

確かにアスラン・ザラとラクス・クラインは婚約しているはずだが、それを決めたのは今は亡きシーゲル元評議会議長とパトリック・ザラである。
それに今アスランには恋人と呼べる人物―オーブ代表であるカガリ・ユラ・アスハがいる。 ならば、アスランにとってラクス・クラインは邪魔な存在としか言えないのではないか。
ルナマリアはそう考えていた。
そしてチラッと横にいるシンを見てみると、こちらは目の前に居るのがラクス・クラインだといっても全く興味がないらしく、視線が彼女を通り越し、その奥を見つめて先程からそわそわとしている。 シンのその視線の先に何があるのかは分りきっていた。
ミネルバのパイロット全員が突然、議長の会食に招待されたため急遽メイリンに預けることになったサクラだ。
なぜか突然損ね始めたサクラの機嫌は、結局シンたちがその場を離れる時までもなおらなかった。
それにいつもはレイを見るだけで満面の笑顔を浮かべるサクラも、今日はそのレイにも見向きもしなかった。
だから余計にシンは心配で今すぐにでもこの場から立ち去りたいのだろう。

(早くアタシもサクラと遊びたいんだけどなあ)

シンの表情をぼんやりと見ながらそんなことを考えていたルナマリアは、突然目を見開いたシンに驚かされた。

「サクラ―ー!!」

シンの視線を素早く辿れば、そこにはこちらに向かってとてとてと走ってくる可愛らしい幼児がいた。
どうやらいつの間にか機嫌はなおったようで、先程は見せてくれなったいつものような満面の笑みが顔一杯に広がっていた。