「えっ!ラクス様がいるぜ!!」
「はあ!?嘘だろっ!!」
ディオキアに到着したミネルバのレクルームではそんな叫び声があがり、大勢のクルーがモニターに映る基地の様子を食い入るように見ている。
そして、ハッチが開くと我先にと争って会場へと駆けて行った。
その後をルナマリアとメイリンと共に続いて、会場へと進んでいく。
「へえ〜。ラクス様がいらっしゃらるなんてスゴイですよね、隊長」
先日、整備士たちが噂していたように曲調が変わったラクスを、真実を知っているアスランは複雑な思いで眺めていた。
それにアスランには本物のラクス自身に対して言葉で言い表せないよう感情を抱いているため、容姿がまったく同じミーアを見ると嫌でもその感情が思い起こさせれるのだ。
そう、彼女と再会させてくれ和解への切欠を与えてくれた感謝と何も告げずに彼女と共に姿を消したことへの恨み。
「聞いてらっしゃいます隊長?」
難しい顔をして自分の言葉に返答をみせないアスランに、ルナマリアは怪訝にアスランを呼んだ。
その言葉にハッとなったアスランは直ぐにその難しげな表情を解いた。
「いや、すまない。なんだ?」
「やっぱり聞いてなかったんですね…いいですよ。でも、ご存知なかったんですか、ラクス様がここへいらっしゃるの?」
やはり聞いていなかったアスランに一つ溜め息をこぼしたルナマリアは、アスランが突然婚約者が現れたことに対して動揺しているのだと思った。
「まあ…」
「そうですよね。連絡なんて取れる状況でもなかったですしね…」
曖昧に言葉を濁したアスランに、この基地までの道程を思い返したルナマリアは自然と顔を曇らせた。
しかしその後、顔を輝かせてパチンと手をあわせ鳴らす。
「そうだ!サクラは喜ぶんじゃないかしら?」
そのルナマリアの言葉に、サクラがいつも大切そうに胸に抱いているピンクのぬいぐるみを抱いていることをアスランは思い出した。
(そういえば、あれはハロをかたどっていたな…)
まあだからと言って2つか3つ程の子供が、ラクス自身が好きだということにはならないんじゃないかとアスランは考える。
そんなことを思っている間にルナマリアはちょうど自分たちより前のほうにいたシンと、彼に抱きかかえられたサクラに歩み寄っていく。
「隊長も行きましょう」
ルナマリアの行動を眺めているだけだったアスランに、隣に居たメイリンはそう声をかけるとその腕を引っ張って前方の姉たちのところへと歩み始めた。
「ほらサクラ、あれお前が持ってるぬいぐるみと同じだぞ」
自分の腕に抱えたサクラの顔を覗き込みながら、ぬいぐるみとステージ上で動き回る赤いハロを交互に指差したシン。
しかし、サクラは何の反応も見せず、ずっとステージを大きく写したモニターを怒った様な顔をして見つめている。
「サクラ?」
シンはサクラの初めて見る表情に戸惑ったようにサクラを呼んだ。
声を取り戻せていないことをのぞけば、あの凄惨な事件の後遺症もなく、ミネルバでの生活に慣れてからはシンやその他のクルーに迷惑をかけるでもなく、いつも笑顔であったサクラだ。
いったい何がサクラにこんな顔をさせているのか。
「シン!」
そんな時、後から名前を呼ばれシンは振り返った。するとそこにはルナマリアが満面の笑みで駆け寄って来ていて、その後方にはメイリンに腕をとられこちらへ向かってくる アスランの姿が見えた。
「ルナ…」
「?…どうしたのよ情けない顔して」
精神的にいつも頼りにしてしまってるルナマリアが来てくれたことに無意識のうちに安堵の息をついたシン。
そしてそのシンの顔を情けないと酷評するルナマリアは、シンが抱えているサクラの様子がいつもと異なることに気が付いた。
「サクラ?」
ルナマリアの呼びかけにやっとシンとルナマリアの方を向いたサクラは、だがやはり怒ったような顔をしたままだった。
おもむろにサクラは小さな指でステージをさすと、しきりに首を振る。それはそんなに激しく首を振ったら、その細い首がとれてしまうのではないかと危惧するような強さだった。
「サクラ!分ったからそんなに首を振るな、な?」
シンもそのように危惧したのか、ひとまずサクラに首を振ることを止めさせたが、サクラの機嫌はますます下向したようで、先程よりも更に強く睨みつけるかのようにステージを見た。
「とりあえず宿舎のほうに行きましょうよ。この煩さが嫌になったのかもしれないから」
「あ、ああ…行くよ、サクラ?」
対処の仕方が分らずおろおろしていたシンは、いちもにもなくルナマリアの提案に飛びついた。
ちょうどその時、人ごみを掻き分けるようにしてやっとシンたちのもとにたどり着いたアスランとメイリンが来た。
「どうかしたのか?」
困惑しているようなシンと先程と打って変わった表情のルナマリアを目にしたアスランは何かあったのかと不思議に思った。
「それが…なんだかサクラがこの喧騒に参っちゃったみたいで…とりあえず宿舎のほうに行こうかと思いまして」
「そうか、それなら早く行った方がいい…確かにここは子供にはちょっと煩すぎるな」
苦笑交じりにアスランはそういうと、急いでこの場から立ち去ろうとするシンと擦れ違いざまにサクラの顔を覗き込んだ。
確かにその顔は、いつものサクラと違い心底機嫌の悪い―というより何かに憤慨しているような表情をして、唇を動かした。
それは一瞬のことであったが、軍人として身についてしまった習性からその唇の動きを読んでしまったアスランはハッとなって横をすり抜けたシンの背中を見つめた。
アスランの読みに間違いがなければ、ステージを指差したままサクラはこう言っていたはずだ。
『おねーちゃん、ちがーう』
そう、サクラは言ったはずだった。
「隊長?」
立ち尽くすアスランを不思議に思って呼ぶメイリンの声も耳に入らず、アスランしばしの間愕然としていたのであった。
|