「どうしたんだ、一人でこんなところで」

インド洋での戦闘後、結局ここ、マハムール基地に着くまでルナマリアにサクラを取られてしまい、シンはサクラと満足に遊ぶことも出来なかった。 自分の訓練規定があることに加え、サクラがまだ子供であるため一日の半分近くを寝て過ごしているから仕方の無いことだが、その貴重な時間をルナマリアに邪魔されたことがシンには悔しい。  

それに、先の戦闘時に彼―アスラン・ザラに言われたことがどうにも胸に引っかかり、すっきりとした気持ちで過ごせないでいた。 だからシンはなんとはなしに一人になれるであろう甲板へ出て、考えに耽っていたのだ。

そんなシンにかけられた言葉。

「べつに…なにも…」

それは、今しがたシンが考えていた言葉を発した人、アスランの声であった。
シンとて反抗的な態度を取りたいわけではないが、先日受けた屈辱といまだ彼を認められない心がせめぎあって素直な態度が取れない。

「そうか…」

ぶっきらぼうなシンの態度にもアスランはほんの少し苦笑するだけで、何も言わずにシンが立つ隣へと歩み寄り、その背を手すりにもたれさせた。
二人に言葉は無い。その沈黙はシンにとっては心地いいものではなかった。

「あの…」

どんな言葉を言かけようか、シンは考えもしていなかったがとにかくこの沈黙が嫌でかまわず口を開いてしまった。 けれど、やはり考えなしでは言葉が続かない。

「何だ…?」
「いえ…なんでもありません」

結局、言うことが見つからずシンは口をつぐむ。 シンは俯き、唇を噛んだ。
そんなシンの様子を見たアスランは柔らかく微笑んだ。もっとも下を向いていたシンは知る由も無かったけれど。

「君は…あの子を―サクラを守りたいか?」

唐突なアスランの質問にシンは弾かれたように彼を見た。
その顔にはただ穏やかな、けれどどこか寂しげな表情が浮かんでいるだけだ。

「当たり前じゃないですが!だから俺はっ!!」

その問いに力いっぱい答えるシン。
そう、あの時守れなかったものも、今なら守れる。
彼が”自覚しろ”と言った、この力で。

「そうか…」

シンの答えにアスランは目を細めてシンを見た。
その眼差しは優しさに満ちていて、攻撃的な気分になったシンの気をそいだ。

「なら、お前は間違うな。守りたいものがあるなら、守り通せ。後悔などしないように、な」
「なんです…それ」

アスランの言い様が出来の悪い生徒を諭すようで、少々シンの癪に障ったが、その言葉は彼の心からのものだとシンにも感じられた。

「俺からの訓示、かな…それとこないだ言ったことだが」

その言葉にシンの肩がピックッと震えた。
アスランもその反応に気づいたが苦笑するだけで、あえて何も言わなかった。

「もう一度言うぞ、自分の力をもっと自覚しろ。…でないと…」

アスランはそこで一旦言葉を切った。
シンも今回は何も言わずにただ耳を傾けている。

「その力…いつか自分にはね返ってくるぞ」   

アスランはその言葉だけを表情を引き締めて、やはりあのヤキンでの戦いを生き抜いたつわものだと思わせる風格で告げた。シンはその迫力に反論も忘れた。   

「それは覚えておけよ」   

そう告げるとアスランは、踵を返しその場を後にする。 甲板に残されたのは、はじめと同じようにシン一人。

「なんなんだよ…一体」

アスランの言葉により、更なる混乱へと突き落とされたシンは、一人夕日に染まる紅の中でたたずむのだった。