眉を寄せ悲痛な面持ちのまま胸に手をやったアスランを、ルナマリアはただ黙って見ていた。 彼女はアスランのその悲哀の原因を”恋人”であるオーブ代表の結婚かと推測したが、どうやらそれとは異なることに気づいた。
アスランの様子を見ていれば一目瞭然。彼が代表結婚の報よりも取り乱した”フリーダム出現”の知らせ。
先の大戦時、アスランの搭乗する”ジャスティス”とかの”フリーダム”はラクス・クラインを擁する第三勢力として共に戦った仲だ。 ”フリーダム”に搭乗する人物とアスランが面識を持っていないほうがおかしい。
それならばー、とルナマリアは見当をつける。

(この人にこんな顔をさせているのはその人かしら―?)

アスランを見つめながらそんなことを考えていると、その視界に自分の膝の上にいるはずのサクラが現れた。 どうやらルナマリアが思案に耽っている間にいつのまにかアスランの側へと行ってしまったらしい。
未だに表情がはれないアスランを下から覗き込むようにしているサクラの行動にルナマリアは少々焦った。 もちろん、アスランが幼い子に大人気ない振る舞いをしないような人であろうとは思うが、悲嘆に暮れるアスランを今はそっとしてあげたかったのだ。

彼女が戻らない理由が分らず、縋るように手を伸ばした胸元。
答えの返らない問いを心で叫ぶアスランの視界に、茶色い小さな影が映ったのはその時だった。
先程出会ったばかりの”サクラ”という名の幼児。
本来ならばこのような軍艦に置いておくべきでないことなどアスランとて重々承知していた。
だがそれでも、何からも自分の手でこの子を守りたいという彼の情熱にほだされた。
それに加えて、この子が彼女を彷彿とさせるからということも要因の一つでは無いとは言い切れない。

(俺も馬鹿だな―)

自嘲するように口元を歪ませると、小さな影が自分を覗き込むようにしてきた。
サクラはどこか悲しそうな顔をして、アスランの痛みを感じているかのようだ。
サクラはその手に持っていたぬいぐるみとアスランを見比べると、突然それをアスランに押し付けた。

「えっ―――」

突然のその行動に戸惑ったアスランは、押し付けられたぬいぐるみをどうすればいいかわからずその手に持て余した。  先程の悲痛な表情が一転し、彼の顔には困惑の色がのる。  

 「ぷっ……」  

そんな2人のやりとりを静かに見ていたルナマリアはたまらずといったように笑を抑えきれなくなったようだ。

「あはははっ、ははっ―――」

なぜ笑っているのか分らないアスランは呆然とするばかりだ。
しばらくしてその笑いすぎのためか目じりに溜まった涙を拭いながら、おかしくて堪らないと前置きをして言った。   

「クスクスッ―それ、貴方に貸してあげるそうですよ」

笑いが残るルナマリアが”それ”と言ったのは、もちろんサクラがアスランに差し出したぬいぐるみのことだ。 未だに事態を理解できずにいるアスランが更にルナマリアの笑いを誘うのだが、そんなことはアスランの知ったことではない。

「だから―貴方の元気が無いからサクラの大好きなぬいぐるみで元気出して、って言いたいんですよサクラは」

ね、サクラ。 そうルナマリアがサクラの方に問いかけると、サクラはコクコクと可愛らしく小さな首を縦に振っている。
今度はアスランが手に持ったぬいぐるみとサクラを交互に見比べると、困惑していた表情は一掃され笑顔を浮かべた。
その表情の変化を目の当たりにしたルナマリアは目を見張った。
それはまるで本当に花が開いたような変化で、ルナマリアは我知らず顔を赤くした。

(うわっーーー反則みたいな顔ー)

これが、元から英雄と呼ばれるアスランに興味を持っていたルナマリアが、彼に更なる興味と好意を感じた瞬間だった。

「これを、俺に?」

傍らにいるサクラにアスランが確認のように聞くと、サクラは愛らしい笑顔でもう一度大きく頷いた。
するとアスランはそれにますます笑みを深くした。  

 「ありがとう」  

本当に心からのお礼をアスランが口にすると、それが分ったのかサクラは嬉しそうに今度はアスランの膝へとよじ登った。

「もう、サクラってば」

ご満悦、といった感じのサクラの様子に呆れたようなルナマリアの声。
アスランも初めこそ戸惑ったようだが、サクラの嬉しそうな顔を見ているうちにそんな戸惑いも忘れてしまったようだ。

その後しばらく続いた、このレクルームの”平和”は、例によってお説教の終わったシンがサクラを迎えに来た時に彼の絶叫によって破られることになるのだが、今はまだもうちょっと先の話である.