「うわー、そんなこと言ったんですか?」

膝の上にサクラを乗せながら、レクルームにてアスランと向き合うのは、レイと共に戻ってきたルナマリアだ。 タリアの元に行ったレイとは違い、レクルームにまっすぐ戻ってきたルナマリアは、そこでアスランとサクラを連れたシンに出くわした。
そして、サクラと遊びたい―もとい、サクラで遊びたいルナマリアは、シンからサクラを取り上げて、レイが呼んでいたと言って部屋に帰してしまったのだ。 嘘だと知れたとき、何か文句を付けられるだろう、と思ったのだが、アスランから聞いた事情を考えると、あながちそれも嘘にならないようだ。

「ああ…」

シンの行動に呆れたように感想を言うルナマリアに苦笑しながら、アスランはそう返す。

「まあ、サクラがここに居られるのは嬉しいけど…あ、そうだ」

 その言葉に、本音を垣間見せたルナマリアは、話の間に何事かを思い出したようだ。
 ルナマリアは先程帰ったときから手にしていたショッピングバッグの中からピンクのものを取り出した。  

 「ハイ。お人形、直ったわよ」  

そう言ってルナマリアは、サクラの前にそれを出すと、サクラは顔を輝かせ、それをギュウッと抱きしめた。  そのピンクのものは、サクラが常に持っていたハロ(と思われる)のぬいぐるみであった。
実は、ハロぬいぐるみ、ある時、その縫い目がほつれ中の綿が出てきてしまったのだ。
その時のサクラの嘆きようは大変なもので、目にいっぱいの涙を浮かべて大泣きしたのだ。 それに慌てたのがシンで、綿の出たぬいぐるみを手にしたサクラごと抱きかかえて、ルナマリアのトコロへ助けを求めに来たのだ。
 まあ、それは解れを縫い直せばどうとでもなるものだったので、ルナマリアが妹のメイリンに頼んで、事なきを得て、  今、その完成したものがサクラの手元に返ったというわけだ。  

 「それは・・・」  

 笑顔でそのぬいぐるみを抱きしめるサクラを見ていたアスランは、その形に見覚えがあったのか、ぬいぐるみを凝視して、ルナマリアに問いかけた。

「え、これですか?見て分りません?私なんかよりも貴方のほうがよく知っているんじゃあ…」
「ということは…やっぱり」
「ええ、貴方がラクス様にお作りになった…って、それより、私オーブの代表には失望しました」
サクラが大事そうに抱えているぬいぐるみが、かつて自分が作成した”ハロ”だということに気恥ずかしさを覚えたアスランであったが、 すぐに、ルナマリアの突然の話題転換と、その内容に訝しげに眉根を寄せた。

「ええ、本当に。だって、オーブは大西洋連邦と同盟は結ぶし、変な人と結婚するし…」
「…結婚…」
「あ…知らなかったんですか?でも、恋人である貴方を差し置いて、何をしているんでしょうね」

衝撃を受けているアスランの様子を見て取ったルナマリアは、てっきりオーブ代表が恋人の自分を差し置いて結婚などをしたことにショックを隠しきれないのだと思った。 だが、そんなルナマリアの見当は外れていた。

(結婚してどうするつもりだ…ますますロマ家の思う壺じゃないか)

アスランは平和を願う同士としてまた友人としてカガリの身の上を心配し、カガリとの結婚によって増長するであろうロマ家の支配力のことを憂えていたのだ。

「でも…結婚って言っても代表、式の途中に攫われたみたいです…」
「攫われた…?」

憂えた顔をしているアスランを慰めるようにルナマリアは声をかけた。 そして、その言葉がアスランの思の淵から引き戻し、彼女の次の言葉に自失した。

「はい。オーブ側は隠したがっているみたいなんですけど、ココだけの話、どうも攫ったのは
あの”フリーダム”と”アークエンジェル”らしくて…」
「フリー、ダ…ム…」

掠れたアスランの声に気づかずにルナマリアは続けた。

「式の会場から”フリーダム”が代表を攫って、”アークエンジェル”と共に逃亡した、と…」
「本当にフリーダムなのかっ!?」

ルナマリアが言葉を言い終わるやいなや、大変な剣幕でアスランはルナマリアに詰め寄った。 突然のアスランの豹変振りにルナマリアは驚いた。

「え、ええ。間違いなく、フリーダムだと…そう…」

アスランはその答えを聞き、何故か泣き出しそうな顔をした。 ルナマリアにはその表情の意味は分らなかったが、胸を締め付けられるような悲哀を感じた。

(生きていた…アイツが生きていた…)

アスランの知る限り、フリーダムを操れるのはこの世にただ一人、彼女しかいない。
そして、そのフリーダムが起動しているのであれば、彼女が生きているのは間違いが無い。
2年間、その生死すら不明であった彼女が。
だが、そこには新たな疑問と解けない疑問が残る。
何故2年前、自分のもとから姿を消したのか。
何故、自分のもとに戻ってはくれないのか。

(――――キラッ)

声にならない名前を心で叫び、アスランは無意識のうちに胸元に手をやり、そこに下げたものを握り締めるのだった。