「失礼しました」

実に他の模範となる敬礼をするとアスランは艦長室を後にした。

「・・・失礼しました」

そんなアスランに続いたのは軽々と・・・とまではいかないが、 しっかりと片手でサクラを抱いたシンだった。
そして艦長室の主は、そんな二人を呆れたように見送り溜め息をついた。

「・・・シン。何か不満か?」

未だに自分への態度を軟化させようとはしないシンにアスランは苦笑しながら問うた。

「・・・いいえ。でも・・・なんであんなこと・・・」
「・・・理由が要るか?」

シンが言うのは先程アスランが提案した、サクラの乗艦をフェイスの権力を用いて艦長に認めさせたこと、その全責任をアスランが負うということだった。
さしもの艦長もアスランの強固な意見を覆すことができず、フェイスの権力を出されたら引き下がるしかなかった。 そしてアスランが自分から言い出した、全責任を彼が負うことを条件にしぶしぶサクラの乗艦を許したのだった。  

 「だって・・・理由も無しに・・」  

シンはそういうと自分の腕の中にいるサクラを見た。サクラは少し体の位置が心もとないらしく、シンの肩をしっかり掴んでいた。 だが、それよりも高いところに抱き上げられているのが嬉しいようで、きゃらきゃらとした笑顔を振りまいている。  

「理由・・・か」  

アスランはそんなサクラに優しい瞳を向けた。

サクラ・・・。
名前までこの子は彼女を思い出させる。
懐かしい、あの月での最後の思い出。今でも脳裏に鮮やかによみがえる薄紅色の雪。
そして、決して忘れることの出来ない、後悔の原点。  

俺のようにはさせたくないからな」  

「え?」  

サクラの相手をすることに気を取られていたシンは、アスランが独り言のように呟いた言葉を聞き取ることはできなかった。  

「いや、何でもないさ。それより、俺にも紹介してくれないか?」

一瞬、物憂げな表情したアスランであったが直ぐにそれを払拭し、サクラを視線でさした。
その表情にシンは引っ掛かりを感じたが、サクラの乗艦の責任者とも言えるアスランにサクラを紹介しろと言われればそうしないわけにもいかない。

「ほら、サクラ。こっち、見て」

シンが、サクラの注意をアスランに向ける。シンに促されたサクラは先程笑顔を向けてくれた人を認めると、また可愛らしく微笑んだ。

「よろしく、サクラ。俺はアスラン・ザラだよ」

自分でも自覚しない内に最高の顔見せていたアスランを、シンは驚いたような瞳で見た。
なんせ、ザフト内で”英雄”として名高い彼は同時に、”鉄面皮”としても有名だったからだ。
シンは噂でした知らないが、歌姫でもあり婚約者でもあったラクス・クラインの隣にあってさえもその顔に笑顔が浮かぶことは稀だったらしい。

『そこがクールでまたいいのよ!!』

とはホーク姉妹の談だ。プラントの大半の女性はそう思っていると力説もしてくれたのも彼女らだ。
だが、今シンの目の前にいるアスランを見ると、そんな噂が立つことが不思議になってくる。

「・・・・」

サクラは、アスランのその笑顔と共に差し出された手を小さな手で精一杯握り返すと、 こちらもシンが見た中でも一番といえそうな笑顔を向け、口を”こんにちは”と動かすのだった。