「―と、いうわけなのよ」

大体の事情を聞いたアスランはまじまじと目の前にいるシンと、この話題の中心である子供―サクラを見た。 シンは未だにアスランに対する禍根があるのかそっぽを向いている。
そしてサクラは、子供らしく見慣れぬ自分に対して 興味深々といったようにアスランを凝視している。
柔らかそうな栗毛とその不躾ともとれるまっすぐな瞳を受けてアスランは唐突な懐かしさに襲われた。 以前からこの子を知っているような既視感に見舞われたのだ。 そして自分でも知らぬうちにサクラに微笑んでいた。するとその微笑を見たサクラは少しばかり頬を染めて可愛らしい笑顔をアスランに向けた。 その笑顔は―――

(ああこの子は・・・)

花のように笑ったサクラの表情は彼女とだぶるのだ。
忘れえぬ懐かしいあの人に。
そう、今は傍にいない彼女に、その笑顔が。

「艦長、サクラは俺の養子にします」

思い出に一瞬囚われていたアスランであったが、シンのその声に現実へと引き戻された。

「シン!いいかげんに現実をみたらどうなの?」

シンの頑ななその意見に、タリアは金切り声を上げた。

「現実は見てます。なら、艦長はあんな国に居てサクラが無事でいられるていう保障があるって言うんですか!? 俺はそんなの信じられない!けどここに居れば、サクラを俺が”絶対に”守ってやれる!」

その自信は若さゆえの過信であろうか。しかし、そのシンの言葉には本気しか感じられない。
タリアは開いた口が塞がらないとばかりに絶句している。
そんなタリアと対照的にアスランはシンの言葉にかつての自分を重ねていた。


『――もそのうちプラントへ来るんだろう?』

あの時、彼女だけでも無理を言ってプラントへ連れてくるんだった、と。

『お前も一緒に来い!』

彼女が否と応えても無理やりにでも引きずってでも連れ帰るのだった、と。

そう、その後、何度悔やんだかわからない。

自分とともに在れば、自分が全力で守ってやれる。彼女を傷つかせることは絶対にしない。
そう自分ならできるのに。

しかし、悔やんでも悔やみきれない過去があっても、過ぎ去った時間はもう二度と戻ってこない。
だが分かってはいても”もしも”の仮定を考えない日は無かった。

”もしも、自分が傍で彼女を守れていたなら・・・”と。

その後、彼女と再会して共に在っても、その思いは変わることは無かった。
そして彼女を失った今、それは更に強いものになっていた。

自分にはできなかったこと。けれど彼には出来るかもしれないこと。
ならば自分は―――。


「艦長」

話を聞いたきり沈黙を通していたアスランが唐突に口を開いた。 タリアはやっとアスランもシンを説得する気になったのかと期待を込めた目をやった。しかし、彼の口から零れたのは全く別の言葉だった。

「その子の乗船許可をいただけませんか?」

真摯な瞳が、彼が本気だということを告げていた。
タリアの眼は信じられないとばかりに眼を見開き、シンも突然のアスランの言葉に我も忘れてアスランを凝視していた。

「全ての責任は私が負います。ですから、艦長は乗船許可だけ出してくださりませんか」
「・・・それは”フェイス”としての命令・・・なのかしら?」

具体的な提示に驚きから素早く立ち直ったタリアは鋭い視線と探るような口調でアスランへ問うた。 アスランは静かに頷き。

「そう捉えていただいてもかまいません」 力強くそう一言答えたのだった。