「そう・・・。その考えは軍人として立派なものね。でもね、シン。 軍艦に子供を搭乗させるなんて艦長の私が許すわけがないでしょう」

それは、そうだろう。ミネルバの全権はこのグラディスにある。その意見を覆せるのはザフト軍内でも、議長かあるいは―。 血がにじみ出しそうなほどにその薄い唇を噛むシン。そして、そこに追い討ちが掛けられる。

「それに、残念だったわね。サクラはもうこの艦内にはいないわ」

その言葉にシンは瞠目した。
そんなはずは無い。サクラならば、アーサーが・・・。
そこまで考えてシンはハッとした。あの時の不審な彼の様子の理由がはっきりとしたからだ。

「クソッ!」

シンは安易にアーサーへとサクラを預けた自分を呪い、直ぐにその踵を返そうとその背をタリアに向けた。

「無駄よ。もう止めなさい」

シンの背に威厳に満ちたタリアの声がかかり、シンは恐ろしい形相で仮にも艦長である彼女をにらみ付けた。

「艦長――ッ」

その赤い瞳がまるで炎のようだと、そう思いながらタリアはシンのまなざしを受け止めた。 そして、それを見ていたアスラン、その瞳が怒りの中にも悲痛な色を滲ませているのが見て取れ、は態度にこそ出さなかったがその痛みに同情した。

「いい加減にしなさいと―」

タリアがシンと対峙し、とどめの一言を刺そうとしたまさにその時。
何の前触れも無くシンが今しがた出て行こうとした扉が開き、そこから小さな影が飛び出して来た。 そして、その影は突進するようにシンの足元に縋り付いた。

「なっ―!」 「サクラ!!」

その小さな影は、タリアが艦から降ろしたと言ったサクラであった。 シンは自分の足元に必死でしがみ付くサクラに言い知れぬ喜びが溢れ、膝をついてその小さな体を抱きしめた。

「アーサー!これはどういうことなの!?」

感極まってサクラを抱きしめているシンに呆気に取られたタリアであったが、すぐさま正気を取り戻すとサクラの後を追ってか 遅れて部屋に入ってきた副官へとキツイ叱責をした。

「一応、入り口のタラップまでは行きました。それでもこの子がシンを気にしてるみたいなんで
『シンも後から来るよ』って言ったんですよ。そしたらその子、顔色変えて中に走っていっちゃったんです」

いつにないほどピリピリとしたタリアの物言いに、自然言い訳がましくなるアーサーの言葉は知りつぼみに小さくなっていった。

「まったく・・・」

タリアはかぶりを振ると、大きな溜め息を付きまだあらん限りの力で小さな体を抱きしめているシンを見やった。 そして、シンもそのタリアの視線に気がついたらしく、サクラを抱きかかえてタリアに向き直った。

「艦長」
「認めないわよ。民間人の、それも子供の乗艦を認めることは軍人としても、一人の母親としても認めるわけにはいかないわ」
「けど!今のサクラには俺しかっ―」

(あの時の俺みたく一人ぼっちのサクラには俺しか―俺しかわかってやれるヤツがいないんだよ!)

シンとて自分が無茶なことを言っているとは分っている。けれどどうしても譲れない。
この子は―サクラは自分が守ってみせる。 今のシンはそのことしか考えていなった。
いつまでも平行線を辿る二人の論争。シンに抱きかかえているサクラはその二人の怖い顔にだんだんと不安げに澄んだ瞳を揺らした。

「艦長。私にもお話を詳しく聞かせていただけないでしょうか」

その二人の論争を止めたのは、今までずっと黙っていたアスランであった。 彼は艦長の言葉通り、シンの件が終わるまで口を挟まずにいるつもりであったが、二人の様子を見る限り、 何時までたっても終わりが見えないと判断し、事情の説明を願ったのだ。

「そうね、貴方にも話したほうがいいでしょうね」

そこにアスランが居ることを半ば忘れていたタリアであったが、このような状態を見せていて関係ないと突き放すことは 出来ないと、今の事情をかいつまんで説明した。