「オー・・・ブ・・・」

中ば呆然としながらシンは掠れた声でタリアの言葉を繰り返す。

「ええ。まあ、もし分らなかったとしても然るべきところに引き渡すことになるでしょうね・・・シン?」

シンの呟きが耳に入っていなかったタリアはそのまま話を続けたが急に黙ってしまったシンに訝しげな視線を向けた。 シンは何かを堪えるようにその手を音がしそうなほど握り締めていた。 その表情は床を睨みつけるようにしていたが、面を伏せたシンのその表情をタリアには分らなかった。

「サクラを・・・オーブに連れてくって言うんですか・・・」

自分の呼びかけに応えず様子のおかしいシンにタリアは眉を寄せたが、シンの独り言にも似た疑問に律儀に答えてやった。

「何度も言わせないで頂戴。あの子はオーブに引き渡しま・・・」
「っ!俺はそんなの認めない!!」

タリアの言葉を途中でシンの怒り交じりの声が遮った。 シンはもう床を見つめてはいなかった。その怒りの度合いを示すかのような赤々とした双眸は今はタリアを見据えていた。 それまで静観していたアスランは、何の話をしているのかは分らなかったが、シンの態度が上官に対する態度では無いのは 明白で、思わず1歩前へと進もうとした。しかし、タリアはそれを目線で制しシンを正面から見据えた。

「不敬罪で独房に入れられたいの、シン?」

シンの無礼な態度に冷静な態度で対応するタリアとは反対にシンの中には激情しか渦巻いていなかった。

家族を奪った憎いオーブ。
父を、母を、そして大切な妹を殺したオーブ。
「攻めたのは地球軍だ」
それは知っている。けれど民を守るのは国の役目。その国−オーブが俺に何をしてくれた?
俺の家族は死んだ。
オーブは守ってはくれなかった。それにアスハ達は何もせずにオノゴロで自爆した。
そんな無責任なオーブへサクラをやるのか?
あの子を。オーブへ。
・・・認めない。俺は、認めない。

「俺は認めません!」
「あなた、まだそんなこと言ってるの?あの子は元々オーブの施設にいたのよ。そこに戻すと言ってるだけでしょう。 今回はこんな結果になってしまったけれど、また養子の話だってあるかもしれないのだから。それがあの子の為にもなるわ」
「っ!なら俺がサクラを養子にします!!」

コーディネーターの成人は13歳。その歳を迎えれば法律上は成人と認められ、諸々の権利が与えられる。
その中には成人を向かえた者は養子を迎えても良い。とする権利も存在した。

「シン、あなた・・・」
「俺は16です。もう成人は過ぎてます。その権利があります」
「・・・確かに、”権利”はあるわ。そうね、ならあなたがサクラを引き取ったとして、あの子をどうするの? どこかに預けるというの、それも1人で?それなら今オーブへ引き渡したほうが、あの子にとって幸せな道よ」
「・・・俺の傍に居させます」
「ここは軍艦よ、それを分っているの?落ちる可能性だってあるのよ!?」

いよいよシンを責める色合いが濃くなってきたそのタリアの厳しい言葉にもシンは決して譲らなかった。 いや、譲れないのだ。 自分が助けて、自分に1番懐いてくれた庇護すべき子供。 サクラをシンは自分が無意識のうちに助けることが出来なかったマユを重ねていた。

「落ちません!ミネルバは決して落ちない!絶対に!!」

タリアにはシンのこの反応は予想外であった。何らかの不平をもらすかとは思ったが、最後は納得してもらえると考えていたのだ。 どうやら読みを誤ったようだ。ここまでなりふり構わないシンを見るのはタリアにとっても初めてだった。 常ならば冷静なレイが傍に居るからか、途中でそれが止められていたのだろうか。

「・・・どうしてそんなことが言えるのよ。”絶対に”なんて」

もう諦めたような口調になったタリアは静かに尋ねた。

「俺が”絶対に”守ります。必ず守って、ミネルバを沈めません」

シンはきっぱりとそう宣言した。