「シン・アスカ、参りました」

シンが敬礼をしながら艦長室に踏み越めば、そこには見慣れぬ姿が一つ。
しかし自分と同じ紅の軍服を纏うその人物がこちらを向けば、それは先日出会ったアスラン・ザラだということが分った。

「アンタ、こんなところで何して・・・」

目を見開き、驚きに彩られた声でシンは無礼だと分っていながらもアスランを指さしてしまっていた。

「シン。言葉を改めなさい。彼はフェイスよ」

そんなシンを母親のようにたしなめたのはタリアだ。
アスランはシンの態度に苦笑しながらも、どこか居心地が悪そうである。

「っ!・・・失礼しました」

その言葉に振り返ったアスランの胸元をよく見れば、そこには輝くフェイスの紋章。 タリアの注意にシンはハッとしたように今度はアスランに向けて敬礼をしてみせた。
その行動がいかにも16歳の少年らしく、アスランは目を細めた。 そして、それはシンとは程対照的な16歳であった2年前の自分のことをアスランに思い起こさせた。

(あのころは、何もかもに余裕が無かったな・・・)

大切なモノを守るために多くのモノを犠牲にし、結局最後は自分の手で最も大切なモノを壊すことになった。
そんな苦々しい思い出がアスランの脳裏をよぎる。

「アスラン、少し待ってもらってもいいかしら。シンに急ぎの用があるの」
「ええ。私はかまいません」

感傷に浸っていたアスランは、その声に現実へと引き戻さ焦ったように少し早口で了承した。
シンは己にいったい何の用事があるのか全く検討も付かなく、今までの行動に何か叱責される要素が無いか真剣に思い返した。

「シン、用事というのはね・・・」
「ハイ」

叱責されるような自分の行動を思い出せなったシンであったが、反射的にその言葉に身を硬くした。
しかしながら、その続きは予想だにしないものであった。

「サクラのことよ」
「え?」
叱責を恐れて、目を軽く閉じて顎を引いていたシンは頭を素早く上げて、目の前のタリアを凝視した。

「今までごくろうだったわね。もうカーペンタリアに着いたのだから、貴方が面倒みなくてもいいの。 本部にあの子を引き受けてもらうわ」

シンはその言葉に目を見開く。
なぜならシンは今の今までそんなことを考えたことも無かったのだ。
あの日、血まみれの部屋のベッド下で震えていた小さなサクラ。
サクラを助けて、自分が面倒を見ることを許可されてからは、戦闘のなかった航海の間中ずっと傍に居た。
たった数日間なのに、それがシンにとっては当たり前であったかのように、その生活はしっくりくるものだったのだ。
だから、シンはタリアに言われたようなことを考えたことが無かった。
サクラと離れてしまうことなんて。

「それは、どういう・・・」

少し震えたシンの声。今の自分は相当みっともない顔をしているだろう。などと、混乱する頭の中でどこか変に冷静な部分でシンはそう考える。

「どういうことも何も、言葉の通りよ。サクラはザフト本部―いえ、正確には政府ね―が預かってくれるそうよ」
「そんな、預かるってそれは・・・」
「さあ、具体的なことはよくは分らないけれど、元いた施設を探すのが一番でしょうんね」

サクラの白紙に近いデータ。タリアはそのことを思い出し、一瞬だけ暗い顔をした。しかし混乱しきっているシンにはそんな些細なことには気づかない。

「けどサクラはまだ声も戻っていないんですよ!!今、環境を変えたりしたら!」
「シン!それは分っているわ、あの子がまだ完全にあの事件から立ち直っていないことも。けれど、いつまでもあの子をココにおいてはおけないわ。 ココは軍艦なのだから。それに、ココを降りたほうが余程いい治療が受けられるのよ。これはあの子のためでもあるの」

シンの切羽詰ったような声音に叱責めいた口調でタリアは名を呼び、諭すように続けた。
タリアの言っていることは正論だ。シンに反論なんて残されてはいなかった。だがシンはそれでも、いまだショックがぬけ切らない声で最後の質問を投げかけた。

「それでサクラがいたっていう施設は見つかったんですか・・・?」
「いえ、まだよ。ただ、サクラがいたのはオーブだということはわかっわ」

そのタリアの言葉にシンの顔から血の気が引いた。