※どの戦後でも構わない同棲アスキラ(♀)


「キーラ!疲れてるのは分るが、もう9時だぞ。いいかげん起きろ」

戦争が終わってやっと平和を取り戻した世界には、今日も変わらぬ朝が来る。
朝特有のさわやかな空気の中で、すでに洗濯物を干してきたアスランはいまだ目覚めていないキラを起こしに自分たちの寝室に戻って来ていた。

「ぅ……ん…あと…ご、ふん」

あまり広くはない寝室にでんと構えたダブルベッド。
その中で蓑虫のように布団に包まって、寝汚いものの常套句を返すキラ。

「キーラ…」

何度その言葉に騙されてきたかしれないアスランは大きな溜め息を付いた。
アスランだってキラが疲れていることはよく分っている。
それはここ数日の殺人的な忙しさのせいだ。
しばらく2人とも自分の仕事が忙しくて、まともに顔を会わせるのが朝だけという擦れ違いの生活を送っていた。
そしてようやく、お互いの仕事がひと段落したのが週末前の昨日。
キラもアスランもほとんど同時刻に帰宅したのだが、疲労がピークに達していた2人はシャワーを済ませると直ぐに深い眠りに落ちていった。
隣に恋人(実際は配偶者と言っても過言ではない)がいる週末に、若い2人がそれはないだろうと思われるかもしれないが、夜の営みに励む体力すら2人にはその時残ってなかったのだから仕方がない。
だが、アスランは一晩ぐっすり眠れば疲れなんてどこかに言ってしまうという人なのだ。
そのため今日も朝早くから、掃除、洗濯、と家事をこなしていた。

「せっかくのトーストが冷めるぞ」

一応、朝食の用意は最後に回してできるだけ睡眠時間を延ばしてやっていたのだが、いっこうに起きてくる気配のないキラに、アスランは自ら起こしにやってきたのだ。
昨夜はほとんど何も口に入れず寝入ったので、キラだって腹が相当減っているはずだ。
いくら睡眠を愛するキラだとて、空腹には勝てまい。
アスランはそう思って、ダイニングに満ちるトーストの香りがこちらに入ってくるようにわざわざドアを開けたままキラのベッドの横に腰掛けてキラに告げる。

「トースト…」
「そ。キラがこないだ気に入ったって言ったジャムもあるぞ」
「ジャム…」

鸚鵡返しにアスランの言葉を呟くキラの声。
アスランはいつも思うのだが、こういう寝起きのキラを相手にしていると幼少時代が思い起こされ、懐かしい気分にさせられる。
だが、こんな時に思い出に浸っている場合ではない。
キラはアスランに話しかけられなくなれば、また眠りの世界へと飛び立ってしまうからだ。

「ほらッ!キッ……!!!」

アスランは思い出を振り切ってキラの毛布を取り払ってでも起こそうと手を伸ばしたのだが、アスランはその中から突然出された2本の腕でベッドに引きずり込まれた。
もちろん、その腕はキラのものだ。

「いったい何するんだ、キラ!」
「えへへ〜」

毛布を自分から蹴飛ばして、アスランを引きずり込んだキラは彼の首に両手を回して悪戯が成功した子供のように満面の笑顔だ。
対するアスランは突然のことに咄嗟の反応が遅れたが、全体重をキラにかけることは何とか避けることができた。
だがそれもすれすれで、胸は殆ど重ね合わさっている。

「まったく、どうしてそうおまえは………?」

体を支えるためにキラの顔の直ぐ側に腕をついて、目の前でキラに説教をしようとしたアスランは違和感に言葉を止めた。
それは胸に当たる感触。

「キラ…」
「ん〜?」

明らかにおもしろがっているキラの顔。
アスランは自分が入ってきた方と反対側のベッドの下を見た。
そこには脱ぎ捨てられたパジャマ。
そうだった…。
アスランは自分の迂闊さをのろった。
キラは肌に当たる毛布の感触がことのほかお気に入りで、よく下着のみで寝ようとする。
だがそれでは風邪を引く、と、頑固オヤジのようなアスランの強固な意見でいつもはパジャマを着せられていた。
しかし、アスランの目を盗んではことあるごとにキラはパジャマを脱ぎ捨てしまう。
実を言えばアスランがキラにパジャマを着るように説得しているのは、実はキラのためだけではなくアスランのためでもあるのだ。
もしそんな魅力的な格好で隣にいられては、とてもではないがアスランの精神衛生上極めてよくないからだ。
理由はいわずもがな。
翌日のことも相手の予定も考えず、本能のまま突っ走ってしまうことが手に取るようにわかるからだ。
それゆえ、常にアスランはキラの就寝時の格好に気を配ってきたのだが…。

「お前……襲ってほしいのか」

わざと自分に押し付けているようにしか考えられなくなってきた相手の胸。
ちなみにキラは就寝時はブラは外す人だ。
すなわちキラが今、上半身に付けているものと言えばキャミソールのみ。
もうだんだん自分の理性を保っているのが難しくなってきたアスランは、いささかこめかみをヒクヒクさせながらキラに問うた。

「……うん…って言ったら?」

アスランに対する答えは、小悪魔そのものの言葉と笑顔。
ここで引いたら男がすたる。
据え膳食わぬはなんとやら。

「…映画でも見に行こうかと思ったんだがな…」
「じゃ、止める?」

絶対にそんなことをアスランがしないと分っているくせに聞いているキラもたいがい意地が悪い。
もちろんそこで言ったアスランの答えなど知れていた。

「馬鹿言え…」



お昼近くにようやくベッドから出てきた2人を迎えたのはすっかり冷たくなってしまったトーストだった。

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*サイネリア*いつも快活