「アスラン、眠るなら寝室に行ったら?」
心地よい陽光に、自宅のテラスにて読書をしていたアスランは気づかぬうちに眠り込んでいたらしい。
直接目をやく眩しさに、幾分その目を眇めたアスランの目の前には、クスリと笑うキラがいた。
「いくら暖かいからって、風はまだ冷たいんだから風邪ひくよ」
まるで子供に注意するように言うキラ。
アスランの母ではないが、実際キラは子持ちだ。たとえ彼女が若々しく見えて、いつも娘と姉妹に間違われても、だ。
「サクラはまだ帰ってこないのか?」
キラが用意したのであろうコーヒーがテラスと続きになっているリビングでよい香りをさせている。アスランは、キラの腰を抱いてそのリビングへと促すと、自分もテラスを出て部屋のソファに座った。
「まだ夕方まえだよ?ふつー帰ってこないでしょう」
どこか不機嫌なアスランの声の調子に、キラは堪えきれない笑みをのせて答えた。
(もう、本当に子供みたい)
さすがに大声で笑い出すのは失礼だと思っているのか、キラは精一杯わらうのを堪えているのだがどうにもうまくいかない。
今日、サクラは大好きだと公言してはばからない”彼”と出かけている。
ずば抜けた才能を両親から受け継いでいるサクラだったが、どうにも朝の起床に限ってはアスランではなくキラの資質を継いでしまったために、いつも学校に行く時は遅刻ギリギリだった。
だが今日ばかりは、今はそれを改善したキラが起きてくるよりも早く起床して、準備に余念が無かった。
アスランはそんな娘の行動にやきもきしているのだ。
キラが未だにクスクス笑っていると、アスランは自分の指定席から移動してきてキラの隣にドスンと座った。
「………アイツにはサクラをやらんぞ………」
ボソッと呟いたアスランの言葉に、キラの我慢も限界だった。
「あはははは!!なに言ってるんだよ、あの子、一昨日15歳になったばかりじゃないか」
ひーひー、と涙まで浮かべて笑うキラ。
昨日、身内ばかりでサクラの15歳の誕生日を祝ったのは記憶に新しい。
それをアスランは忘れてしまったのだろうか。
「だが結婚はできる歳だろう…それに…」
「それに?」
13歳で成人と認められるコーディネーターでも15歳では、親の承諾なしには結婚はできない。
ならば自分で認めないって言ってるんだから、まだ大丈夫じゃない、とキラはアスランの親ばかぶりにまた笑いがこみ上げてきた。
だが、神妙な顔で続きを言おうとするアスランを邪魔してはいけないと思って、その笑いを飲み込んだ。
「お前がサクラを産んだのは17の時だろう…?」
だから、それを考えると…と、その後をごにょごにょと濁していうアスランは胸中複雑なようだ。
少しだけ自分のその頃のことを思い出して、あの時のどうしよもない切なさを思い出したキラは顔をいくらか顔をゆがめた。
だがすぐに柔らかく笑うと、隣にいたアスランの頭をぐいっと掴んで自分の胸元に引き寄せた。
「キラッ!?」
慣れ親しんだ、キラ独特の甘い香りがアスランの鼻腔をくすぐる。
突然のキラの行動に驚きの声をあげたアスランの反応に、キラはいっそう慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
「君の奥さんはサクラじゃなくて、僕だよね?」
「…当たり前だろ?」
意識して拗ねたような口調で言ったキラに、表情が見えないアスランは質問の意図が分からなくて戸惑っている。
アスランの答えを聞いたキラは、アスランの頭を抱えたまま自ら数人がけ用のソファに身を横たえた。
アスランは咄嗟に手を付いてキラを押しつぶすことを間一髪で避けた。
「キラッ!!」
少しばかり悪戯が過ぎると、怒り交じりのような声になってしまったアスランであったが、自分の眼下にあるキラの表情を見て息を止めた。
「なら、サクラがお嫁さんに言っちゃっても僕がいるからいいじゃない」
ね?とアスランの首に手を回してキラはそう言った。
アスランはしばし呆けていたが、それはそれは幸せそうな笑顔を浮かべると、その柔らかい体をつぶさないように覆いかぶさって、顔を近づけながら
「それも…そうだな…」
と呟いた。
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*薔薇*美しい少女
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