「アスハ代表のご厚意により本艦はただ今よりオーブに停泊します。その間、溜まった疲れをいやしてちょうだい」
ユニウスセブンの破壊作業から一夜明けたミネルバでは艦長のタリアがクルー達にオーブ停泊の旨を伝えていた。
アーモリーワンを不本意な形で出航してから十分な補給も受けられなったミネルバは、オーブ首長であるカガリの
招きによりオーブが世界に誇る”モルゲンレーテ”での整備を受けることになった。
「うわっ!あれ見てみろよ。さすがモルゲンレーテ。技術だけなら俺らもかなわないね」
「マジかよー。技術開発はプラントだって早いはずなのに―!」
最新の軍事技術が集約されているモルゲンレーテのドッグにて、ミネルバを降りたそうそう直ぐに騒いでいるのは
整備班のヨウランとヴィーノである。
「本当ね〜。これじゃあ連合に狙われても仕方が・・・・っと」
整備班の二人がドッグ内を目を輝かせて走り回る姿を目にしながら、そんな感想を漏らしたのは紅の軍服を纏った
ルナマリアだ。彼女が素直にもらした感想を途中ではばかったのは後ろにいるシンのためだった。
しかし、シンは何処かを見つめることに夢中でルナマリアの感想に気づかなかったようだ。
ルナマリアがシンの視線を辿ると、その先にはドッグを一望できるガラス張りの廊下をアレックス―いや、アスランが
いた。
「やっぱり、戻ってきてほしいわよね・・・私達としては」
先の大戦で”英雄”とまで呼ばれた程の力量を見せられたルナマリアは、ポツリと呟く。その言葉に、ギュッと拳を握り締めた
シンは突然走り出す。
「ちょっとシン!!何処に行くのよ!」
突然の行動に驚くルナマリア。
「やっぱり・・・・もう一回言ってくる!プラントに戻って来ないかって!」
その言葉を聞きルナマリアは一瞬、唖然とした表情を見せたがすぐに、
「それなら私も行くわ!」
とシンの後を追ったのだった。
二人がアスランの姿を追ってたどり着いたのは少し奥まった場所にある休憩室であった。
ドッグから離れているせいか近くに人がいる気配はない。アスランはその休憩室のベンチに腰掛け、
握り締めた両手を額にあてて苦悶の表情を浮かべていた。その顔は、あまりに悲壮で声をかけるのを躊躇うほど
であった。シンとルナマリアは出入り口の影から彼の様子を伺っていたが、彼のその表情に話しかけられずにいた。
「やっぱり・・・無理かしら・・・」
「けど、こんな国にいてあの人のプラスになるか?」
「それは・・・」
二人がヒソヒソと話をしていると、反対側にあったもう一つの出入り口の扉が開いた。とっさに息をつめた二人。
そして―――――
「おかえり・・・」
痛いくらいの静けさの中に穏やかな声が響いた。その声に弾かれるように顔をあげ、即座にその人物に駆け寄る彼。
シンとルナマリアが見たのは、反対側から現れた人物を抱きしめるアスランの姿だった。
「・・・・ッ・・・」
小刻みに震えるアスランの肩に、押し殺した嗚咽。彼が泣いているのは明白だった。そして彼の背に回される
腕。宥めるように、いたわるように、その動きはただ果てしなく優しくて。
「ッ父の・・・・俺は・・・・ッ」
回された腕の動きに促されたように押し殺せなくなる嗚咽。それは二人が見たアスランの姿。本当の英雄の姿。
「うん・・・わかってるよ。だから・・・ね?」
自分を抱きしめるアスランを少しのぞき込むようにして、その人はそう言う。
そうするとアスランは、その人の肩に顔を埋めて声を押し殺すコトを止めた。そして、視線に気づいたのか
二人の方を視界に捕らえたその人物。紫の曇りの無い眼とシン・ルナマリアの視線がかち合う。
すると、その人は柔らかに微笑むと彼の背に回した片方の手で”静かに”とのジェスチャーをした。それを二人に伝えると
、アスランをもう一度抱きしめるためにその腕を彼の背に戻した。
そこからは何人も立ち入ることは不可能な世界。二人以外の存在を全て排除したかのような世界。
シンとルナマリアは、その世界に立ち入ることを諦めてその場を後にした。
元来た道を引き返す二人に先ほどから言葉は無い。
「ねえ・・・あの人がオーブにいるのはさっきの人がいるからかしら・・・・?」
ルナマリアは独り言のように呟いた。それに答えるシンの声は無い。
先ほどの光景を見た二人にはわかってしまったのだ。彼にどんなにプラントに帰ってきてくれるように言っても彼は
戻ってこないことを。だから、今二人の胸には同じ問いかけが去来する。
”もし私があの人だったなら・・・貴方私と共に来てくれますか?"
そんな詮無い問いが。
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*ブルースター*信じあう心
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