「本当に美しいですねえ…そうは思いませんか、雲雀クン」

天井一面に敷き詰められ、ハラハラと床にも舞い落ちる桜を眺める骸は至極おだやかな口調でソファに横たわる雲雀へ話しかける。
忌々しい桜と骸による暴行のお陰で起き上がることすらままならない雲雀は、そんな骸の言葉に無視を決め込む。  
そんな雲雀の様子に骸は別段腹を立てたわけでもなく、クフフと彼独特の笑いをこぼすと構わず会話を続けた。  

「日本では桜の木の下には死体が埋まっているとよく云うそうですね。知っていましたか?」  

それまで少し離れた場所で花見をしていた骸はおもむろに立ち上がると、雲雀が横たわるソファへ近寄り、片足をついてその上へと乗り上げた。
近づくいっそ禍々しい骸の双眸。
吐息がかかる距離になっても雲雀は瞬き一つせず、骸も湛えた微笑を崩さなかった。
無視を決め込んでも近づく視線を逸らすことは彼にとって敗北を意味するようで、その高すぎる矜持ゆえ自分にそれを許さなかった。
そんな雲雀の様子にますます笑みを深くする骸。

「ねえ、雲雀クン。桜がこんなにも色鮮やかに咲き誇るのは、その血を啜っているからだというのも本当でしょうか」

先程とは全く異なり、壊れものにでも触れるかのように頬に触れる骸。
その人とも思えないほど冷え切った手の温度と頭のイカレタ人物と自身が頭で判断した人物に触れられることへの不快から雲雀の肌があわ立つ。 鳥肌をたてるその反応に骸は満足すると、うっそりと笑いどこか夢見るような口調で囁いた。

「ああ、雲雀クン。貴方の骸を苗床にした桜はどれほどに美しい花を咲かせてくれるのでしょうね」

 びちゃ。  

ほとんど雲雀に馬乗りになりながらそう言った骸の頬に水音が響いた。
その音に虚をつかれたような顔をした骸は、手を頬へやりその水音を確かめた。
もちろん目の前で行われていたのだから知覚していたが、骸は無意識のうちに手をやっていた。
そして、その手を目に見えるようにもって来る。
そこには粘ついた彼の唾。
雲雀はいいざまだというように骸が声をかけ始めてから初めてその表情を動かした。
だが。

「―――ッ!!」

鈍い音と共に自分を襲った痛みに雲雀は喉を詰まらせた。
今の衝撃でもう1本ほど肋骨が折れたようだ。もうすでに麻痺してしまったと思っていた感覚神経がいまだに雲雀には残っており、その痛みを正確に脳へ伝達する。


「やはり、貴方は桜などにくれてやるのは惜しいですね」

今までよりも一層やさしげな声音。けれどその温度は殊更冷たい。
骸は馬乗りになったまま、いまだ痛みにむせる雲雀の襟首を無理やりに掴んで、その顔を自分の真正面に引きずり上げた。

「桜よりも貴方自身が私を楽しませてください。きっと貴方はあんな桜よりも数倍美しく咲き誇ってくださるはずですから」

痛みで朦朧とする視界の中で、赤と青の瞳が冷たくたぎる焔を宿しているのを雲雀は見た。

「血で染まる貴方も、情欲に白く染められる貴方もそれはそれは美しいでしょうね…散る花だからこその美しさ」

それを想像しているのか骸は、雲雀を嘗め回すように視線で犯す。

「私の下で綺麗に咲いてくださいね、恭弥」

この日一番の笑顔を浮かべた骸は上機嫌で目の前の花を堪能する時間を楽しんだのだった。

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