「総士。俺はここにいる。ここでお前を待ってる…ずっと…」
その言葉をあの海に向かって呟いたのは何年前だっただろう。
もう見えない目で海を見つめながら、彼の言葉を噛みしめたあの時は。
『今まで傷つけて…ごめん』
ずっと互いを誤解したままで、傍を離れたことだってあった。
こじれた糸は簡単には解けなくて二人で迷路に迷い込んでいた。
『今までお前を傷つけた分だけ、優しくしたい』
だから想いが通じ合った時は本当にうれしかった。
すれ違った分だけ互いの想いは募って、焦がれ死にそうなほどだったから。
でも。
『いつか再び、出会うまで』
その言葉を疑うわけじゃない。
けれど時々大きな不安に襲われる。
彼は、あの子だけを残して二度と再び彼とは出会えないのではないか、と。
「ママ?」
はっとすれば、随分と成長した娘が自分の顔をまじまじと見つめていた。
彼と自分に、というよりは姿を変えてこの島を守っている彼の妹によく似ている。
音の同じ名前を付けたからだろうか?
「なんでもない。ごめんな、ぼうっとして。で、何の話だったけ椿?」
「もうっ! 最近いっつもそれじゃない! だーかーら…」
くるくると変わるその表情を眺めているだけで幸せな気持ちになれる。
この年月、寂しさがまったくないというのは嘘だ。だが、確かにその寂しさをうめて余りある幸福をくれたのは、彼が残したこの子のおかげだった。
「あ、おじーちゃん! ちょっと聞いてよ、またママが」
曖昧な答えしか返さない自分に焦れたのだろう。
頬を膨らませて椿の祖父にあたる、父に頬を膨らませて言う。
苦笑しながら椿の言葉を受け止める父と、言葉をまくしたてる椿。
十二年。
彼がいなくなって、もう十二年がたった。
いつまでも待っている。
その言葉に嘘はない。
けれど。
「あ、またママ聞いてなかったんでしょう!」
「ごめん、ごめん」
お前がいない日々は、やっぱり辛いよ。
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