"Would you like a drink?"

こう言っては失礼だが中年にさしかかろうかという女性乗務員が、私にたずねてきた。

「イエス。グリーンティープリーズ」

どうせ後から種類を聞かれるので、先に告げることにしている。
私の答えに"Sure."とにっこりほほ笑んだ彼女は手早く緑茶をいれる。
センキュウ、と何時までたってもなれない英語で返して私はそれを受け取った。
すぐには口の中に入れるのをためらうほどには熱いお茶を両手で持ち、暗闇が広がり始めた窓の外に視線をやる。

(十三時間…便利な世の中になったものです)

これが当たり前の世の中だが、感嘆の溜息をつかずにはいられない。
ほんの百年前まで、かの国へ赴く際には長い長い月日をかけての船旅をしなければならなかった。
それよりももっと昔なんて、海を越えたすぐ先の国へさえ命がけの旅だったのだ。

(時の流れは本当に早い)

しばし感慨にふけると、数時間前までいた活気あふれる会場の空気を思いだす。
年に二度の大祭。
この年末が終われば次は夏まで待たねばらならない。
その間にも様々な主旨の企画に参加するだろうが、やはり夏と冬の二大祭典は特別だ。

(…そういえば…)

追い込みも最終段階に入っていた先週、今から会いに行く人から電話があった。
あいにく電話もとっているひまもなく、短い言葉で用件を尋ねた。
そうしたらあの方は、『クリスマスだから…その、な』なんて途切れ途切れにメールを送ってきたのだ。
多忙のためお伺いすることかないません。
ちょうど自分の精神もギリギリのところだったのでかなりそっけない返信になったが、お断りした。
紳士的なあの人らしく、忙しいなら仕方がない、なんて送ってよこしたが、『菊!お前の男どうにかしろ!俺はあんな甘いんだか辛いんだかわからないものは食いたくない!』 とフランシスさんから苦情がきた。
彼は聖誕祭の菓子を私のために用意してくれたらしいが、無駄になったのでそれをお隣のフランシスさんのところに押しつけたらしい。
昔からお二人は寄ると触ると喧嘩なのだが、何かあると二人で行動を共にする。
お互い文句を言ったり、意地を張って競い合っていたりするけれど、『くされ縁』のお手本みたいな二人だ。

(あれはプディングの埋め合わせにはなるでしょうか…?)

会場から直接空港へ向かったから大したお土産などは買ってこれなかった。
空港の土産物屋で菓子を求めてみたものの、常日頃渡しているものと落差がありすぎる気がする。

(フランシスさんを真似して赤い薔薇の花束というのも乙かもしれないですかねえ)

フランシスさんの真似だと言ったらあの人は果てしなく嫌な顔をしそうだが、それでも受け取ってくれる気がする。
まあ彼の国を象徴する花だからぴったりと言えばぴったりのなのですけれど。
思考にとらわれているうちに手元のお茶は飲みやすい暖かさになっていた。

(空港からは一時間、ほどでしょうね)

到着予定時刻は現地時間午後七時。
彼の家は空港から車で一時間ほどのところにあるから十分年越しには間に合う。

(どんな顔をなさるのでしょうね)

少し前、あの猫型ロボットが持つ未来のドアが喉から手が出るほどほしかった時期があった。
けれど、実際あったら情緒がなくてつまらないものだろう、と今の私は思う。
十三時間。
手続きが面倒だけれど、胸を躍らせる時間も悪くない。
楽しい想像に笑みが止まらなかった。

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