「これからよろしくな、ティエリア・アーデ」

彼とそっくりな顔、聞き間違えるほどの声。

ああ、でも。

確かに、あの人とは違うのだと、私が誰よりよく知っている。


彼と、親密になって過ごしたのはほんの短い間だった。
今にして思えば、彼が私に向けていたのは決して”愛”ではなかったように思う。 頑是ない子供に対する同情のような想いを”愛”と呼ぶなら、”愛”だったのかもしれない。
でも、”恋”ではなかったと思う。

『ティエリア…』

甘い声…というのだろう。
きつく私を抱き締めて、耳元で囁く彼の声が好きだった。
私を、”私”であっていいのだと肯定してくれているようで酷く安心できたからだ。
初めて知った。
自分が肩肘を張って日々を生きてきたこと。どこか、心を預けられる場所を無意識に探していたこと。

『ほら、なに照れてんだよ。こっち来いって』

初めて彼と肌を合わせた日。事が終ると、彼はそのまま私を抱き込んで眠りについた。
私を抱いたのは、きっと同情だったのだろう。
てっとり早く私を慰めるための。
それでも、初めて何の隔てもなく触れた彼の体温が心地よくて、どうしようもなくなった。
こう言ったら彼は、はじめてのことだからきっと誰でもよかったんだろう、と皮肉げに笑うかもしれない。
だが、私が彼の体温に心地よさを感じたのは、彼が彼だったからだ。
思い返せば、いつだって、茨のように周囲を拒絶していた自分を気遣っていてくれた。
計画のためだったのだろうが、自分の身を省みず私を救ってくれた。

『よろしくな。ティエリア・アーデ』

マイスターとして彼と初めて出会った日のことが鮮やかに思い出される。
あの日には、まさか自分が彼に対してこんな感情を抱くことになるなんて思いもしなかった。
こんな甘く切ない想いを抱くなんて。
目の前にいるのは、彼によく似た男。
だが、決して彼ではない存在。
新しい『ロックオン』と顔を合わせるまでは、その存在が恐ろしかったが、会ってしまえば何のことはなかった。
ただ、私が心寄せた”彼”は、本当にもういないのだと思っただけだ。

「こちらこそ、よろしく。『ロックオン・ストラトス』」

いまだ彼を失った傷は痛みをもって私の心を苛むけれど。
彼が望んだ世界を導くまでは、彼に恥じないように生きていこうと思う。
だから私は、頬笑みさえつけて、目の前の男に手を差し出した。

ねえ、ロックオン。
貴方が私に向けたものが同情だったのだとしても、もうそれは構いません。
いつか貴方の傍に行けたなら、その時こそきちんと貴方から”恋”を得て見せるから。
だから、どうか。
私がそこに行くときには、同情でもいいから笑って迎えてくれませんか。

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