「わたくしは、イレブンの…いえ日本人の皆さんと…」

街中のモニターというモニターが、エリア11の新総督であるナナリー・ヴィ・ブリタニアの就任演説を中継していた、まさにその時だった。
画像が乱れて始めて、画面の半分にイレブンを騒がせる仮面の反逆者が映し出されたのは。

「ゼロッ!!!」「ゼロだ!」

街中が、ゼロの姿に慌てふためいた。
それは、演説が行われている政庁の会場も例外ではなく、集まった貴族や軍人たちがざわめき出す。

『まずは私からもお祝い申し上げましょう、ナナリー皇女殿下。 総督就任、おめでとうございます』

人々が、ともすればナナリーの言葉よりも注意を向けたゼロの第一声はそんな祝辞であった。
だが、平坦な声で淡々と吐き出された声音は、とてもではないが心からのものだとは間違っても思えない。
共に映っているナナリーは、怯えたような表情を見せたが、それでも気丈に言い放った。

「それは、喜ぶべきことではありません!」

ナナリーの答えにブリタニア人は違和感を覚えた。 だがそれは、エリア11の総督をことごとく消してきたゼロの登場の前には些細なこととして彼らの中で片付けられてしまった。
ゼロは、その返答に何を思ったのだろうか。口数の多いゼロにしては、長い沈黙を保った。

『…今日は、お聞きし損ねたことを問いかけようと、こうして参りました。殿下』
「聞き忘れたこと…?」
『ええ。とても大切なことを』

先日、ナナリーの乗る移動艦が渡航中、黒の騎士団によって奇襲をかけられたことは一部の人間しか知らなかった。
それゆえ、それを知らない大多数の者たちは、まるで面識があるかのような二人のやりとりに驚いた。

『貴女が復活させると仰った”行政特区日本”。それを実現させるためになら、貴女は御身のどんな苦労も不幸すら受け入れますか?』
「ええ。私自身のことでしたら、どんなことだって受け入れます」

”行政特区日本”。それは、一年前の惨劇の発端。
それを復活させるとは一体どういうことだ、と人々はざわめいた。
しかし、彼らがより驚いたのは目の不自由な、幼いとも形容できるナナリーが取り乱すこともなく稀代の悪党と対等に話していることだった。

『その前に立ちはだかるものが、貴女が心から愛したものでも、その骸を超えてゆく覚悟はありますか?』

しばしの沈黙をもって、ナナリーはその問いに答えた。
はっきりと、ゼロの声がいつもよりも少し震えていたことに、高かったことに気づかずに。

「…ええ。悲しむのがわたくしだけならば、わたくしはその骸すら超えて”行政特区”を成功させてみせます」

そのきっぱりとした物言いに、会場に詰め掛けていた者たちは、ナナリーに対する認識を驚きと共に改めた。
侮れない皇女なのかもしれない、と。
だが、彼らのそんな思いはすぐに忘れられることになる。

『…そうか、それを聞いて安心したよ』

今まで男だとばかり思っていたゼロの声が、突然、女としか思えない高さになり、口調もがらりと変化した。
そして、ゼロはおもむろに手を仮面にやる。
まさか、と誰もが思った。

『ナナリー…お前はお前の信じるようにすればいい。私は私の道を行くから』

仮面が外されると共に、その胸元に流れ落ちた癖のない黒髪。
憂いを帯びた瞳が輝く白皙の美貌。
そして、そこに浮かべられたアルカイック・スマイル。
様々な憶測が飛び交った、ゼロの素顔が今、さらされた。

「マ、マリアンヌ皇妃!!」

ほとんどの者が、その美貌の色彩から日本人ではないことを悟り、しかも、ゼロが女性であったことに驚きを隠せなかった。 だが会場にいた者たちは、その驚き以上に目を見開き、恐れおののいた。
ゼロの仮面の下の素顔は、彼らがよく知っていた者に瓜二つだったからだ。
そう、ナナリーの母親であり、宮殿で見殺しにされたも同然のマリアンヌに。
マリアンヌを知る貴族や軍人は、誰もが思い出だしていた。
皇妃には、ナナリーの他にもう一人皇女がいたことを。
そして、その皇女はシュナイゼルが目をかけるほど頭脳明晰で、母親譲りの美貌を持っていたことを。

『私は、ルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』

半ば、政庁の会場に集う者たちが確信していた名がゼロの口から紡がれる。
ゼロ―いや、ルルーシュは誰もが見惚れるほどの笑みをたたえて宣言した。

『憎しみしか生み出さぬ、神聖ブリタニア帝国。必ずこの私の手で崩壊させてみせましょう』

誰もが、その微笑と言葉に息を詰める。
沈黙が支配する世界で音になるのは、ルルーシュの言葉のみ。

『優しい、世界を。正義を信じる者が救われる”合衆国日本”を。その成就を、私はここに誓おう』

のちに、全ての戦いの始まりとされるのが、この夜のことだった。


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