「やっぱり来ちゃったね、兄さん」

あてどなく道を歩いて行くと、霧靄のむこうから、聞きなれた声が自分を呼んだ。

「ロロ…」
「もう少し、あっちでゆっくりしていてもよかったんだよ。僕はいつまででも待ってたんだから」

眉を八の字にして、困った兄さんだなぁ、とぼやくロロだが、その顔には隠しきれない笑みが浮かんでいる。 変わらない笑顔がまぶしくて、ルルーシュは目を眇める。

「あちらでの仕事は終えてきた。あとは…みんながどうにかしてくれるさ」
「それってやり逃げっていうんじゃないの?」
「まあ、そうとも言うな。だが、悪徳非道の独裁者が生きていてみろ。世界は一つになどなれないさ。誰かが形代になった方が人の気持ちはまとまりやすい」

なんでもないことのように言う兄が悲しくて、ロロは少しだけ泣きそうな顔になった。

「兄さん…もう、何にもないから…兄さんが心配することはもう何もないよ」

相変わらず細い兄の体を、精一杯の背伸びをしてロロは抱きしめる。
ルルーシュも、自分と変わらないほど細いロロの体を、記憶を取り戻して初めて、心からの愛情を込めて抱きしめた。

「兄さん…お疲れ様」

その腕の強さに、何か伝わるものがあったのだろう。 ロロは、涙を流して、せぐりあげながら、兄へねぎらいの言葉を向けた。

「あぁ…ありがとう、ロロ」

そうして、その言葉で、ようやく肩の力が抜けたのか、残してきたすべての者たちへの惜別の涙をルルーシュは一筋流した。

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