※「世界に二人」設定+まだルルはスザクが好きだった

遠き懐かしい、夏の日。
恋することを知った。
その恋は、すべての情を捨て去ったと思っていた私に形のない淡いものを信じる気持ちを残した。
だが、それは跡形もなく消え去った。
すべては今宵、塗り替えられる。

「…ルルーシュ、無事か?」

ルルーシュがトウキョウ租界にてゲフィオンディスターバーを作動させた直後、蜃気楼には神虎からの通信が入った。もちろんそれは星刻からの連絡である。

「…星刻…ああ…無事、だ」

声はぬれていないだろうか。
みっともない掠れたものではないだろうか。
冷酷なメシアの仮面を完璧に被れているだろうか。
ぎゅっと拳を握って、必死でルルーシュは声を取り繕った。 涙の後を見られるわけにはいかないから、ルルーシュは音声回線だけをオンにして星刻に対応した。

「そうか…予定よりも時間がかかったが何か問題でもあったのか?」

神虎の中で声しか聞こえてこない通信に不審を抱いた星刻は、ルルーシュの身に何かあったのではと危惧した。 平素から人に弱みを見せないルルーシュのことだから、素直に言葉を返すとは星刻とて思っていなかった。それは、生まれ持っての気質だろうから、常の星刻なら気にしなかった。
だが、今日のルルーシュには何か、心を締め付けられるものがあった。 言いようのない不安が星刻の胸を覆っていく。

「…いや、何も…何も想定外のことなどなかった…そう…なにも」
「…ルルーシュ?」

まるで自分に言い聞かせるようにつぶやくルルーシュ。 問いかけに答えるまでの沈黙が長いのも星刻は気になった。

「…映像回線もオンにしてくれないか?」
「なぜ、そんな必要がある…”黎総司令”」

黒の騎士団の者たちの目がある時、ルルーシュは星刻をこう呼んだ。
それは公私を明確に分けるためだ。だが、今は蜃気楼と神虎のみを結ぶ通信で、他の者が割って入る余地はない。
これはやはり、何かあったのだと星刻は思った。

「ルルーシュ、ごまかすな。いいから、映像をオンにしてくれ。…すべてを知っている共犯者と顔を合わせながら最後に語らいたいと思うのはそんなにおかしなことか?」

はじめはいささか強い調子でルルーシュに詰め寄った星刻だが、まるで遺言のようなことをやわらかな声音で告げた。
それにルルーシュは反応した。

「分は悪いか…?」
「…大体の主戦力はトウキョウへと回してあるからな。実質、ナイトオブラウンズ2人とその精鋭は私一人で相手している状態だ。とてもではないが優位であるとは言えない」
「なんとかもってくれ…私にはそれしか…」
「だから、君の顔を見せてほしい。君の顔を見れば、君と思い描いた天子さまの新しい国の構想を思い出して、何が何でも生き抜く気持ちがもてるだろう?」

星刻の言い分に、ようやっとルルーシュは回線をオンにした。 ルルーシュが計画したトウキョウ決戦は、カゴシマで星刻がナイトオブラウンズの二人を足止めしなければ成功する確率は格段に下がる。 だから、ルルーシュは星刻の言葉に従った。
傷ついたルルーシュの心は、信頼や恋情より信じられる計略でつながっている星刻を求めたのだ。

「…ルルーシュ」
「…なんだ?」

星刻は、ルルーシュの目元が赤いことにいち早く気づいた。
よくよく見れば、少しだけ眦に涙が残っている。
その涙の透き通っていることといったら。
この数ヶ月、C.C.と呼ばれる魔女以外では、星刻がルルーシュの一番そばにいた。 だから、そのささやかな変化にすらすぐに気がついた。
本当のことを言えば、星刻は死ぬ前に一度、もう一度ルルーシュの顔が見たかったのだ。
計略などではなく、ただ、恋しい人の姿を見たかった。

「あと、1時間。1時間でカゴシマの決着をつける」

死ぬかもしれないと思ったから、星刻はルルーシュの安否を確かめるために連絡を入れた。 想い合う言葉を交わさなくても、姿をこの目に焼き付けるだけでよかったのだ。
その、涙を見るまでは。

「1時間、だと…? いくらお前でも、それは…」

星刻の宣言にルルーシュは表情を変えた。
たった今分が悪いと言ったのはお前ではないか、という顔だ。

「あの時、私は君を守ると約束はできなかった。だが、今。今なら」

そう、いつかの夜に、星刻はルルーシュを守ると約束できないといった。だか、あの時と今では状況が違う。今、星刻は信念を曲げずにルルーシュを守ることができる。 だから、言葉に出しても誓える。

「ルルーシュ。1時間で決着をつけたら、すぐに私はトウキョウへ向かう。そうしたら…」

あのときを思い出したのだろうルルーシュは、目を見張った後、なきそうな顔をした。
だが、星刻は言葉を続けた。

「必ず、君の傍らで君を守る。君を守って、世界を変えて見せよう」

必死で涙をこらえた顔をしたルルーシュは、それでも笑った。
それは、星刻が初めて見たルルーシュの満面の屈託ない心からの笑みに違いなかった。

「頼んでなど、いないぞ」

声は涙にぬれていた。
だが、その涙は決して悲しみからくるものではなかった。

幼い日の甘い思い出とともになくした悲恋の涙は、一人の男の恋歌によって、喜色へと塗り替えられた。

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