「好きだよ、ルルーシュ」

うららかな午後の陽光の中、かぐわしい香りを楽しみながら紅茶を口に運ぼうとしていたルルーシュへ唐突にスザクは告げた。
一瞬動きを止めたルルーシュだが、すぐに硬直は解け、何事もなかったかのように紅茶に口をつけた。

「知ってる。俺もスザクが好きだ」

そうして茶器を元に戻すと、ルルーシュは花のような笑みをスザクに向けて言った。
そこに嘘はないし、ルルーシュの言葉が真実だということをスザクは理解している。

「うん、僕も知ってる」

スザクはルルーシュの綺麗な笑顔を見ながら、何度繰り返したか分からない答えを告げた。
最低一日に一度、ひどい時には十度以上、二人はこのやり取りを繰り返していた。
C.C.にジェレミア。
今日は誰も傍にいないが、彼らが傍にいたとしても二人はそれを繰り返す。
けれど彼らが聞きあきたはずの二人のやり取りを邪魔することはない。
ただ交わされる言葉でも、二人の間では大切なものだと誰もが理解していたから。
ルルーシュは、決裁待ちの書類に視線を戻している。
穏やかな、顔だった。
スザクが好きになった、ルルーシュだった。

「…ねえ、ルルーシュ」

いつもならスザクがルルーシュの答えを聞いて終わるはずの会話だが、今日は少しばかり違った。
スザクがもう一度ルルーシュを呼んだ。

「なんだ?」

ルルーシュは、また柔和な笑みを乗せてスザクに向き直った。
穏やかな日差しの中で微笑むルルーシュは、まるで女神さまだな、とスザクは少しばかりルルーシュの美貌に見とれた。

「スザク?」

自分を呼んだきりぼうっとしたままのスザクを不審に思ったルルーシュが名前を呼ぶ。
現に立ち返ったスザクは、先ほど喉まで出かかった言葉を音にしようとした。

「…やっぱり、なんでもない」
「…スザク?」
「本当に、なんでもない。君があんまり綺麗だから思わず名前を呼んじゃっただけ」

冗談めかしてスザクが言うと「おだてたって何もでないぞ」と、ルルーシュは肩をすくめた。

「お世辞じゃないよ、真剣にそう思ってるのに」

スザクの言葉を冗談にするルルーシュに文句を言いつつ、音にできなかった想いがスザクの胸にくすぶる。

(ねえルルーシュ。僕は本当に君が好きだった。君に恋していたよ)

今スザクがルルーシュに向ける想いは、恋にも愛にも、そのどちらにも分類することができないものだった。
じゃあ一体スザクの気持ちはどんなものか。
それはスザク自身にも形容しがたいものだった。
ただスザクが言えるのは「好きだ」の一言。
ルルーシュへのスザクの想いはただ、その一言に尽きた。
それ以上でもそれ以下でもない想い。

激しさのない、ただ穏やかで凪いだ海のように波打つ想い。
その果てにあったのが、二人の今のような関係だった。

血反吐を吐いて血潮にまみれて辿り着いた、果ての果て。
これが選びとった中の「最良」であるはずなのに、スザクはいつも「もし」という仮定の話を考えずにはいられない。

もし、ルルーシュがゼロにならなければ。
もし、スザクが帝国軍人にならなければ。
もし、二人のうちどちらかが信念を曲げていれば。

こんなことを考えてもどうしようもないのに。
複雑に絡まった糸のような軌跡。スザクは過去にあった様々な分岐点からの仮定を考えてしまうのだ。

結局、それらをすべてほどいて二人がたどり着いた結末がここなのだから、そんなことをいくらしても無意味なのに。

「まったく呆れた奴だ。そんなことを言ってる暇があるなら書類の整理をしてくれ」

ほどけた糸の終着点。
けれど、あの頃の硬く凝り固まった関係を懐かしく思う自分がスザクの中には確かに存在した。

「えー、僕がやっても仕事が増えるだけだとおもうよ、君の」

二人が成就を願った、ゼロレクイエム。
完成の日はすぐそこに迫っていた。


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