※ちょっと月光の設定を流用。でも今のところ星刻とルルは明確な恋仲ではないです。
まったくのお遊び話なんで、設定がおかしくても軽くスル―してくれると嬉しいです。


「…やはり、この作戦は中止しよう」

常に冷静な中華連邦のbQで、現在は『黒の騎士団』の総司令も務めている黎星刻はしっかり一分固まって重々しく言った。

「馬鹿もの! では何のために私がこんな格好をしたと思っている!!」
「いや、それは…」
「なんだ、その顔は? 私に何か問題でもあるのか?」
「いやっ、まったく!!」

むしろ問題がなさすぎることがこの場合、問題だった。
現在、ルル―シュと星刻それに裏方でC.C.とカレンは、あるカジノの落成記念パーティーに潜入するためエリア11に来ていた。
そのカジノというのは、“娯楽”というものを心底愛していたクロヴィス主導によるもので、落成の祝宴には高い地位にいる貴族や皇族も来る予定である。
ルルーシュは、情報収集のためその祝宴に目を付けたのだ。
もちろんいくらだって情報を外から手に入れる方法はあるのだが、より中枢部に近い人間たちから自分で聞きだした方が早いとルルーシュは踏んだ。
…というのは、建前で本当は来るかもしれないと言われている新総督ナナリーを一目でも見たいからだった。
ルルーシュはあの神根島での一件以来、行方知れずで、つい最近まで己の素性をすっかり忘れていたのだ。その間、ルル―シュの面倒を見ていたのは今、ルルーシュの目の前にいる星刻だ。
ルルーシュ以外の人々には、どうして星刻がルルーシュを助け、面倒を見ていたのか理由など明白だったのだが、肝心のルルーシュにはその理由が皆目わかっていなかった。
だからこそ今、星刻が計画を中止しようと言った意味がわかっていないのだ。

「…ルルーシュの鈍さもここまでくると罪ね。私、黎司令に同情するわ」
「ふふふ。報われないやつだ」

呆れた目線を向けながら呟いたのはカレンで、くすりと笑みをもらしておもしろがっているのは魔女ことC.C.だ。
二人の視線が行きつくのは、似合いすぎるほどに似合っている黒いバニー服を着たルルーシュのところ。
そこまでのボリュームはないが、その形はきっと杯にかたどっても遜色がないほど美しいのだろうと思わせる張りのある胸。
きゅっとしまった、大きな男の手で作った輪なら回ってしまいそうなほど細いウエスト。
まっ白いバニーの尻尾が目を引く、ぷりんと音がしそうなヒップ。
そして、滅多にお目にかかれない精緻な美貌。
バニー姿のルルーシュは、男なら誰でも惹かれずにはいられない魅力を振りまいているのだ。
星刻の懸念は、ルルーシュ以外誰でも簡単に想像がつく。

「じゃあ、いったい何が問題だというんだ」
「…それは…」
「C.C.もカレンも無理なら私しかいないだろうが」

以前ルルーシュを捜索するためにカレンはエリア11のカジノにバニー姿で潜入しているため、あちらに顔が割れている。 また、C.C.もブリタニア軍に追われている立場に変わりはない。
ルルーシュだって二人の境遇とそうは変わらないのだが、今ルルーシュには星刻という強力な後ろ盾が存在していた。
実質的に中華連邦を動かしている黎星刻。
彼が記憶喪失の少女として全面的に保護しているルルーシュには、ブリタニア軍もそうは手出しできないだろうと一同は考えたのだ。
もしもルルーシュがあの“ルルーシュ”だと知られた時には知らぬ存ぜぬを押しとおすことも不可能ではない。
それほど星刻には力があるのだ。
たとえ現在、六歳も年下の女の露わな肢体におろおろとしている少しばかり情けない姿をさらしている男だったとしても。
C.C.とカレンは、いまだ「やはり中止を…」と言ってルルーシュに噛み付かれている星刻に生ぬるい視線を向け、てきぱきと潜入捜査の準備を進めた。




「くそぅ…私、結構自信あったんですよ」
「ふふふ、ジノ。まだまだ、と言ったところかな」

クロヴィスが建設を指揮したカジノの落成記念パーティー。
そこで恐ろしいほどの強運を見せたジノだったが、さしものジノも天があらゆる才能と運を与えたようなシュナイゼルには叶わなかった。

「…でも殿下、何もあそこまで徹底的にやらなくても…」
「殿下は昔から面倒事が嫌いだからねぇ。何度も相手をするのは面倒だから一番初めに徹底的に相手を叩きのめすんだよ」
「そうね、昔から殿下はそういうお人だったわ…あぁ、鞭を手に私をぶったあの日もそうだったのよね」

どこかうっとりとしながら言うカノンに、スザクは少々ひきつった笑みを見せた。
ロイドはカノンのこんな姿は慣れっこなのか、微妙な顔をしたが何も言わなかった。

「じゃあ、今度はカードで勝負していただけませんか、殿下」
「…君も懲りないね」

(あちゃー、ヴァインベルグ卿も懲りないねぇ)

ジノがカードの再挑戦を申し込んだとき、ほんのわずか、シュナイゼルの眉が動いたのをロイド見た。
きっとロイド以外の誰も気づかなかったほど小さな変化だ。
だが付き合いの長いロイドは、シュナイゼルが内心苛立っていることを明確に感じ取っていた。
恐らくジノは先ほどよりもひどい負け方をするに違いない。

「へー、ジノはカードもできるんだ」
「まぁね、これでも私、カードは得意なんだ」
「あれだけ無茶なことしていたら得意にもなるでしょうね」

頭脳を使うゲームはからきし駄目なスザクが尊敬のまなざしをジノに向けるが、過去の思い出から現実に戻って来たカノンが意味深な口調で言った。
ジノは、「あはは…まぁ、私も若かったんですよ」と笑ったが、それがおさまるとどこか遠くを見つめた。

「…何か、あったんですか?」

いつも明朗快活なジノが切なげな表情をしていて、彼自身に聞くに聞けないスザクはこそりとカノンに質問した。

「あぁ…枢木卿は知らないのね。ブリタニアの宮廷では誰もが知っているんだけどね、ジノ、幼い頃に初恋の皇女様を亡くして、その方のことで自棄になって無茶をやった時期があるの。その時に色々、それこそ後ろ暗いところがあるこういう場所とかにも出入りしてたのよ」
「ジノが…」

いつも明るく、悩みなんてまったく無さそうなジノにそんな時期があったことはスザクを驚かせた。
そして同時に、そんな風に思っていたことに対して申し訳なくなった。

「まぁなんとか自分の中で折り合いをつけて今に落ち着いたのだけど」

できの悪い弟を見るような目でカノンが言った。
と、一行が向かっている先で、異様な興奮が満ちている気配が漂ってきた。

「今夜一番のにぎわいを見せているのは、どうやらここのようだね」
「で、殿下どのゲームでお手合わせ願えますか?」
「そうだなぁ…。君が一番とくいな…」

スザクとカノンが昔話をしているうちに立ち直っていたジノは、一同の先頭を歩いていたシュナイゼルにゲームの種類をどれにしようか、と問うた。
シュナイゼルは盛況な様子のそこかしこの台を見て満足げに口を開いた。
だが、その言葉の続きは人だかりができている台から上がったひときわ大きな歓声で遮られる。

「あら、あの人たち何のゲーム見てるのかしら?」
「あそこらへんて、ポーカーの台って感じじゃないの」

なんとなくという具合でロイドが言ったのだが、その間にも彼らの先頭をきるシュナイゼルは興味を惹かれたようでずんずんとその台へと進んでいく。
ゲスト同士の競い合いか、それともディーラーとの対決が見ものなのか。
いったいこんなに大勢の者たちの関心を引き付ける台には何があるのかと、シュナイゼルは心を弾ませて台へと進む。
もちろん、シュナイゼルがそうなのだから、後に続く4名はその背を追う。
そして、その先で彼らが見たのは―――。



「フラッシュ!!」
「こちらはフォーカードです」

にっこりと営業用の頬笑みをつけてやれば、悔しそうな顔をした男はそれでもルルーシュの頬笑みに見ほれていた。

「おい、また勝ったぞ」
「あの美貌に、あのテクニック…さすが黎特使がお連れになった…」
「…ですが本当に“ディーラー”というだけのお抱えかしら…」

ざわめく台の周囲はルルーシュの強さと美貌に対し、口々に感想を言い合っている。
それはもちろん、ルルーシュのけた外れの勝負強さと精緻な美貌によるところが大きい。 だが、それをより一層大きくしているのが、ゲームには加わらないものの、先ほどからルルーシュの傍から離れない星刻の存在だった。
目立ってどうする!!
と先ほどから何度もきつく星刻をねめつけるのだが、その度に星刻は何を思っているのか、公の席でついぞ見たことがないような柔らかい微笑みをルルーシュに向けるのだ。

(あの馬鹿者め!!)

唇は微笑みの形に保ちながらも胸中では星刻を罵る。
常は冷静沈着で、ひじょうに頼もしい仲間であるのだが、いかんせん、このように役に立たないことが多々あるのだ。

(…そういえば、あいつが使い物にならないのは私が作戦に直接かかわっている時のような…)

とても重要なことにルルーシュが気づこうとした、その時だった。

「ルルーシュ様っ!!!」

大声で、それこそざわめいていた人々の誰もに聞こえる声で、ひじょうに今この場で聞きたくはない自分の名が呼ばれたのだ。
嫌な汗がつーと背中を伝うのを確かにルルーシュは感じた。
しかもなんとなく聞いたことがあるような気がしないでも声音だ。

「ルルーシュ様!! 生きていらしてくださったんですね!!」

あんぐりと口を開けている人々の間をすりぬけて、大きな体が目の前に迫る。
ルルーシュは声も上げる間もなく、がしゃん!という音と共に骨が軋むほど暖かい何かに抱きこまれていた。

「生きて、いたんですね…」

チップを蹴散らして台の上に乗り上げながらぎゅうぎゅうと、まるで抱きつぶすかのごとく抱き締めてくる腕の持ち主の声。 ルルーシュは記憶の彼方から犬のように自分を慕っていた年下の学友の名前を思い出した。
ジノ。
少女と見間違うほどに線の細い少年だったはずだ。あの頼りなげな姿から、こんな体躯に成長するとはとてもではないが想像できない。
だが先ほどちらりと見えた金髪と、こんな風に自分の名前を呼んだ喜々とした声音は確かに記憶のそれと重なった。

(な、なぜジノが…!!)

つい先日まで記憶を失っていたルルーシュは、ジノがブリタニア皇帝直属のナイトオブラウンズに任命されているとは知らなかった。
それを知っていれば、ここまで慌てなかっただろうが後の祭りだ。
あたふたとルルーシュがどう対処しようかと頭脳をフル回転させていた時だ。
ぐい、とジノが抱き締める以上の力強さでルルーシュの体は後方に引っ張られた。

「帝国最強騎士、とは思えぬ所業ですな、ヴァインベルグ卿」

ルルーシュの腰に手をやり自分の傍らにぴたりと沿わせて、皮肉たっぷりに言ったのは星刻だった。
その眉間には今まで見たこともないほど深いしわが刻まれている。
そうすると余計に老けて見える。
とルルーシュはこの場で何の役に立たないことを思った。

「…中華連邦、黎特使」
「ほう、私のことを御存じか」

星刻の言葉はとてもではないが先ほどまで鼻の下をのばしていた男のものだとは思えないほど凛として、堂々としたものだ。
その変わり身の早さにルルーシュは呆れて、少しばかり冷静さを取り戻した。
そして、成長したジノの後ろに見えた顔を見てこの場からいっそう逃げ出したくなった。

「ジノ、いったい何をして…ルルーシュ!?」

ルルーシュの姿を見て声を上げたのは、柔和な顔をした幼馴染、枢木スザクだ。
自分を捕えようとした憎い相手だが、ここでその憎しみをぶつけるわけにはいかない。
私は記憶喪失、と自分自身に必死に言い聞かせながらルルーシュは困惑した表情を作った。

(どうしてこうもうじゃうじゃと…!!)

不安げに見える表情を作り、視線をさまよわせる。
その中で裏方のC.C.とカレンを探すのだが、目の端に映ったカレンはルルーシュの必死のSOSにお構いなしで何か別のことを伝えようとして。 そのうえC.C.は楽しそうに薄笑いを浮かべている。

(役立たずの魔女め! カレンも早く、この場をどうにかする作業に入れ!)

そうルルーシュが思った時だ。
ルルーシュは即座にカレンが何を伝えようとし、どうしてC.C.が笑いを浮かべていたのか理解することになった。

「ジノも、枢木卿もいったい何を騒いで……ルルーシュ…?」

名女優もかくやという頼りなげな風情の演技だったが、次の人物を目に入れた瞬間ひくり、と口の端をひきつらせてしまうルルーシュだ。
それもそのはず。
こうして顔を合わせるのは約十年ぶりとなる異母兄シュナイゼルが目の前いにいたのだから。

(どうして兄上まで…!!)

新総督ナナリーが来ているかもしれない皇族主導のカジノ落成パーティー。
そのナナリーよりも皇族としての地位が上位のシュナイゼルが来ていても何ら不思議はない。
だが不幸にもルルーシュは現在シュナイゼルがエリア11に来ているとは知らなかったのだ。
ひきつりそうな頬をなんとかとどめて何もわからない表情を作り続けるルルーシュ。ルルーシュはどうやってこの場面を切り抜けようかと持前の頭脳をフル回転させていた。
と、ルルーシュの腰を抱いていた星刻の腕の力がさらに強くなる。
声を上げる間もなくルルーシュは顔を星刻の胸に埋めて抱き込まれてしまった。

「これはシュナイゼル宰相閣下まで…ルルーシュとは? 先ほどからあなた方は何を仰っているんです? これもこのように驚いているではありませんか」

そう言いながら星刻はルルーシュの髪をすく。
ルルーシュは押し受けられた胸から顔をあげて、星刻をにらむ。
だが星刻はそれに気づいても、ただにこりと微笑みかけてルルーシュの額に口づけるだけ。
そうじゃない、と大声で怒鳴りたいのだが、シュナイゼルたちの手前それもできず、ルルーシュは我慢して星刻に抱き締められ続けた。

「ここならあのような不埒なふるまいもないと思ったのだがな、なぁ芦花」

星刻はジノ、スザク、そしてシュナイゼルまでも厳しい瞳で一瞥した。
ジノは今にも飛びかかって、星刻が芦花と呼んでいるルルーシュを奪おうとしている。
それをやんわりと制したのはシュナイゼルだった。

「我が帝国の騎士のふるまい、申し訳ない。私もちらりとしかお目にかかっていないが、その女性があまりにも私の異母妹に似ていね。私たちはそれに驚いたのだよ」
「ほう、妹君に…。残念ですが、これは私個人で抱えているディーラー。そのような高貴な方とは比べるもない女です」

私個人、というところがやけに強調されていたような気がしないでもないルルーシュだが、うまくこの場を治めてくれそうな気配の星刻に大人しく従った。
驚きにかたまっていたスザクだが、どうやっても芦花と呼ばれる女性の後ろ姿があのルルーシュにしか見えず、シュナイゼルに小声で話しかけた。

(あの殿下、差し出がましいようですが、あれは間違いなくルルーシュだと思います)
(幼馴染の君が言うんだからそれは信頼に値するね)

くすりと笑ったシュナイゼルは、スザクの言葉よりも先にルルーシュのことを確信していた節がある。
より一層の頬笑みを向けて、シュナイゼルは星刻に言った。

「だが、ここにこうして異母妹と似ている女性が現れ、彼女との思いでを持つ私たちがここへ一同に会したのも何かの縁。私たちの思いでに付き合ってはいただけませんか?」

星刻は鼻で笑ったが、ルルーシュは先ほどから冷汗が止まらなかった。
星刻によっておさまるかに見えたこの場だったが、シュナイゼルがそんなことは許すはずがない。

「ふむ。では、その彼女と勝負させてはいただけませんか? 例え貴方抱えでも、ここではこの台を預かるディーラーに違いはないのだから」

それには星刻も反論はできなかった。
星刻といえどもこのパーティーへルルーシュを潜り込ませるためにいろいろと無理をきかせていた。
そのため、ここでディーラーとしての仕事をルルーシュにさせないわけにはいかなかったのだ。
ルルーシュは一つため息をついた。
シュナイゼルが関わって、ただで済むはずないのだ。
とりあえず、この場はルルーシュが勝負をしなければおさまらないだろう。

「わかりました。お受けしましょう」
「ル、芦花!」
「それは光栄だ、レディ」
焦る星刻だが、ルルーシュはさらりと身をかわして、先ほどジノが上がったせいで台の上にちらばったチップを綺麗にして、カードを手に取った。

「思い出を持つ、私たちってことは私も入って構いませんね、殿下?」

ゲスト側へ静かに腰を下ろしたシュナイゼルの隣には、いささか座った目をしているジノだ。
その様子はまるで今にも獲物にとびかかろうとしている狂犬だ。
ルルーシュに対するジノの執着を知っているシュナイゼルは苦笑しながら、もちろんという。
しかし、盛大に頬をひきつらせたのは当のルルーシュだ。

「じゃぁ、僕も参加します」
「そうだね、君だけ仲間外れというのもね、枢木卿」

(兄上だけでも厄介な相手なのに、どうしてジノやスザクまで!!)

なんとなくルルーシュはこの勝負、負ければシュナイゼルからさらなる要求をされるような気がしていた。
だからどうしても負けられないのだ。
相手は幼少期、どんなゲームでも勝てなかったシュナイゼル。
そしてスザクとジノは頭脳でなら負けることはないが、何故か運がいいのだ。ある意味、シュナイゼルより厄介かもしれない。

「では、これ自身の思いでを語る者がいなくては、芦花が哀れですから」

と言いつつ、星刻もゲスト側のスツールに腰掛ける。
星刻までもか…、とルルーシュはこのまま衣装そのままの兎のように逃げ出したくなった。
ちらりと遠巻きに様子をうかがっていたカレンとC.C.を見れば、カレンはお手上げ、というポーズを、C.C.は口に手を当て腹を抱えて笑っていた。
ルルーシュは自棄になって言った。

「では、お相手、よろしくお願いいたします」




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