「こっちのがいいなぁ。私は、こっちのドレスを着たルルーシュが見たい」
「……私にそれを着ろと?」

ブリタニア帝国中の独身貴族から求婚を受けていた第三皇女ルルーシュヴィ・ブリタニアと帝国が誇るナイトオブラウンズの一人ジノ・ヴァインベルグは紆余曲折を経て、このたび婚約する運びとなった。  
本当にいろいろあったのだが、何はともあれ、貴人の婚姻には珍しいことに、二人は相思相愛の仲となって婚約した。  
誰もが羨む、いま世界中が注目するカップルだ。  

「だって、ルルーシュあんまりドレス着てくれないし…」
「必要な時には着てる」
「でも、それだって必要最低限…」
「実用性の乏しいものなど好かない」
「……ルルーシュ、あんまり実用的な動きしないのに」
「何か言ったか?」
「……いえいえ! 」

そんな二人が何を揉めているかといえば、明後日に行われるユーフェミア皇女主催の茶会にルルーシュが何を着ていくか、ということだ。  
ルルーシュとも仲の良いユーフェミアは異母姉の婚約者であるジノも揃って招待している。   
それゆえ、ジノは軍服で行くか、それともルルーシュと合わせた正装で行くか婚約者に相談に来たのだ。
だが、いつの間にか話題はルルーシュが茶会に着ていくドレスの話になり、侍女たちにルルーシュ所有のドレスをあれこれと二人で見ていたのだ。  
ルルーシュ自身は着飾ることに頓着しないのだが、彼女の後見役となっているシュナイゼルが大量に贈ってくるので、ルルーシュは有力貴族を後ろ盾にしている他の皇族たちより、よほど衣装持ちだ。  
そして、そんな中でジノがルルーシュに着てほしいとせがんだのは、薄いピンクがかった紫色をした、とても女性的なラインのドレスだ。  
いつもズボンをはいているか、ドレスも地味なものを選んでいるルルーシュは即座に難色を示す。  

「きっと似合うのに」

残念がるジノから顔をそむけたルルーシュはぽつりと呟く。   

「そんな、ユーフェミアみたいなドレスが私に似合うわけがないだろう」

小さな声だったが、ジノには聞き取れた。  
そしてルルーシュが、このドレスに難色を示す理由を理解した。  
ルルーシュはユーフェミアという異母妹と仲が良いのだが、同時に強いコンプレックスをも抱いているのだ。
ピンクや純白が似合うユーフェミアの柔らかな美貌がそのコンプレックスだ。  
ルルーシュはだから、頑なに淡い色合いの服を避けている。  
とても大人びているルルーシュだが、そんなところが可愛らしくて、ジノはますます彼女に夢中になってしまう。  

「私は、似合うと思うよ。ルルーシュと出会ったのは、このドレスと似た色の薔薇に囲まれていた時だもの。その時のルルーシュは、本当に綺麗だった」

くすりと笑ったジノに、ルルーシュは大きく目を見開く。  
確かに、二人が接点を持ったのは薔薇が切欠だった。だが、その時のことをこうして直に聞くのは、ルルーシュにとって初めてのことだ。

「薔薇が咲いてるのかと思ったら、ルルーシュだったんだ」

恥ずかしげもなく言う、ジノに、ルルーシの頬はかーっとほてりだしてしまう。  

「ば、馬鹿もの!! 何をそ、そんな!」
「ん?」
「そ、そんな恥ずかしいことをよくも、そうぬけぬけと」
「だって本当のことだ。今も変わらずとても綺麗だけど」

いや、以前よりもずっと美しくなっているといった方が正しいかもしれない。  
ルルーシュが「この馬鹿は」とジノのことを罵るのだが、顔を真っ赤にしていては説得力がない。  

「まぁ、最終的にはルルーシュの好みで着て。私は君の意見を尊重したい」

ジノは頬笑みを絶やさずに、照れている婚約者を胸に抱き、ルルーシュの額に音をたててキスを落とす。  
盛大に火照った頬に手を当てて必死に顔の熱を引かせようとしているルルーシュは、もう一度「馬鹿もの」と呟くが大人しくジノの腕に抱かれて、「今回だけだからな」と小さな声で付け加えた。  
ルルーシュには、何だかんだ言いつつ、この年下の婚約者の言う通りになっている自覚はあるのだが、ジノが初恋なルルーシュには対処のしようがないのだ。

「明後日、楽しみにしてる」

弾んだジノの声と共に、ルルーシュを抱く腕の力が一層強くなる。  
その抱擁を受け止めながら、今度は自分の方がジノを翻弄してやろうと、ルルーシュは密かな闘志を心の中で燃やすのだった。

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